第4話 酒の勢い

 買取専用の受付に来た二人は集めた魔石を麻袋から取り出し魔石の価値を測る魔道具に入れた。別の麻袋に入れて置いたドロップ品の『ゴブリンの爪』は直接職員によって値段が付けられた。

 合計金額は二人が一日過ごすのにギリギリ足りるくらいのお金になった。そのお金を握りしめて二人は夜ご飯を買うために暗くなったワシンドの街に出掛けた。

 昼間と違いダンジョンから出てきた冒険者たちがひしめき合っていた。街に居るのは冒険者たちが大半なため、冒険者が騒ぎを起こしたら止めに入れるように治安組織0が巡回していた。


「何食べましょうか?」


「そうだなぁ〜……初日だし酒場にでも行こっか」


「酒場に行くの初めてです!!」


 ダンジョンから数分のところにある酒場『止まり木亭』はダンジョンから出てきた冒険者たち御用達の酒場だ。初心者からベテランまで歓迎の店で、元冒険者のオヤジが店を仕切っている。

 オヤジが冒険者の頃はかなり強かったらしく彼のことを知っている冒険者たちはこの店で暴れるような真似はしないのだが、今日は運悪く彼のことを知らない若い血の気のある冒険者が来ていたため騒ぎが起こってしまった。


「おいおい、この国はガキどもも冒険者にすんのかよヒック」


「あんまり暴れるなって」


「だけどお前もそう思ってんじゃねぇのか?」


「まあそうだが……」

 

 若い冒険者は酔っているのか、ルナとホルスに絡んでいた。周りの冒険者は関わりたくないと思い静観していた。近くにいた仲間と思われる冒険者だけは若い冒険者の考えに肯定していた。

 言われた二人はガキなのは間違っていないため何も言えなかった。ホルスはルナのことを庇うように半歩前に出ていたが、なにか喋るでもなく黙っているだけだった。


「何も言えねぇじゃねぇか!こんだけ言われて何にも言えないなら冒険者なら辞めちまえ」


「――っ!!言わせておけば」


 最初にキレたのはルナだった。ホルスより前に出て腰に着けた鞘から短剣を抜こうとしたが、ホルスの手によって止められた。


「ルナさんが手を汚す必要は無いですよ」


 そう言ってホルスが短剣を抜いて、若い冒険者に襲いかかろうとした。

 

「冒険者を辞めた方がいいのは君の方だ」


 しかし店の奥から聞こえた声によって動きを止めた。その声は盛り上がっている酒場の空気を冷やし、誰もが黙り込んだ。コツコツと靴を鳴らしてゆっくりと歩いてきたのは、青みがかった緑色の髪と瞳を持ったスレンダーな女性だった。

 店の奥から出てきた女性は腰にレイピアを突き刺し、左眼には眼帯を付けているため彼女が冒険者であることは確かだった。


「ヒック、なんだてめぇ舐めてんのか!?」


「おい、辞めとけって。こいつは……」


「舐めてなど居ない。彼らは場の空気をしっかり理解して動いて居なかっただけだ。酒場で暴れれば周りの客の迷惑になるからな」


「そうだぜぇ若ェの。ここは仲間と酒を楽しむ場所だ。他人に絡んで良い奴なんか居ねェぞ」


 厨房から巨漢の男が出てきた。この店のオヤジと思われる男は女性の言葉に乗っかり、若い男を責めた。

 その後は若い冒険者の首根っこを掴み外へと放り出した。同じパーティーの男にも「お前も放り出されたいか?」と聞くと冒険者は自分の意思で逃げるように外へ出ると若い冒険者を回収して街の中へと消えて行った。


「済まんな。料理をしてて気づかなかった」


「頭なんて下げないでください!!オヤジさんは何も悪くないんですから!」


 店のオヤジは自身の店で行われた他人の侮辱行為を止めることが出来なかったのを頭を下げて謝罪した。

 ホルスはオヤジさんが謝る必要は無いと言ったのだが、なかなかオヤジは頭を上げなかった。


「少年が困っているから頭を上げた方がいい」


「そうかこんなデカくて、厳つい顔した奴が頭を下げたら怖ェか。ガハハハ!!」


 女性の言葉でやっと頭を上げたオヤジはジョークを言って笑っていた。

 でも確かにそうだった。オヤジの言う通り自分の倍はある背丈を持ち、筋骨隆々の肉体、顔には大きな傷があるオッサンが謝罪してきたら、誰だろうとどうしたらいいか分からなくなる。


「俺は止まり木亭の店主のガルムだ。よろしくな」


「ホルスです。よろしくお願いします」


 店主ガルムは握手を求め、右腕を突き出した。その右腕はホルスの腕より二回り近く太く、羨ましく思った。

 少し見惚れていたホルスだったが、ガルムの視線に気付き握手した。ガルムはホルスの後ろにいるルナにも握手を求めた。


「君はなんて名前なんだ?」


「私はルナです」


 ルナは握手してすぐに離した。そしてその視線は若い冒険者を止めた女性の冒険者へと移った。彼女はルナの視線に気付くと自己紹介を始めた。


「私も自己紹介をした方がいいな。……私は『薔薇の騎士団』団長ローズだ」


 『薔薇の騎士団』とはワシンドの旅団ランク二位の旅団である。特徴としては幹部クラスは皆女性であることだ。構成員には男性も居るのだが、圧倒的女性率の高さに気まずさを感じ、すぐに退団する者が多かった。残っている男性構成員も他の冒険者からは『ハーレム志望のクソ野郎』と呼ばれ嫌われていた。


「薔薇の騎士団……ランク二位の旅団でしたっけ?」


「まあ、そうだな。万年二位の旅団だ。一位の旅団とはかなり層の厚さで負けている。……少年みたいな有望そうな冒険者が入って来てくれたら嬉しいが……難しそうだな」


「すいません。僕はルナの旅団を強くすると決めたので」


「隣の少女も含めて私はいつでも歓迎しているぞ」


 そう言ってローズは酒場を去って行った。ホルスの言葉にルナは少し頬を赤くしてそっぽを向いた。二人の甘酸っぱい関係を見てガルムは少しサービスしようと思った。


「迷惑かけちまったからツマミと一杯無料にしてやる」


 ガルムの言葉に甘えてお酒とおつまみを閉店になるまで楽しんだ。

 店から閉店の時間となった酒場から出た二人は旅団の館(仮)に向かって歩いていた。


「ローズさんに言った言葉……すごく嬉しかった。でも私のことを思って断ったなら――」


「そんなこと言わないでくださいよ。出会った時も言いましたが、僕は貴女に命を救われたんです。だから僕は貴女をずっと支えますよ」

 

 プロポーズと勘違いするようなセリフにルナは酔っているのもあり顔を真っ赤にした。

 自分だけ恥ずかしくなっているのは癪に障るので、さり気なく手を繋いだが、ホルスも強く握り締めてきたので逆にルナが恥ずかしくなってしまった。

 ホルスは自分が薔薇の騎士団に移ってしまうのではとルナが心配して手を握ってきたと思っているので、強く握り締め返すことで自分は貴女について行きますという気持ちを現したのだった。



 

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