第3話 一階層
ホルスはダンジョンの中は洞窟のようなジメジメしているものだと思っていたが、想像とは違いダンジョンの中は木々が生い茂り、地上の森とそう変わりはなかった。強いて言うならば、ダンジョンを照らしているのは恒星による光ではなく、鉱石の発行によるものだった。
「森ですね」
「そうだね……綺麗な自然みたいだけどここはダンジョンなのよね」
「油断は出来ないですね。――っ!?」
油断は出来ないと言ったそばから油断していた。一階層の入口なら魔物は来ないだろうと無意識思ってしまっていた。そのため魔物による草むらからの奇襲を受けてしまった。
奇襲を行ったのは一階層の全体に生息している魔物ゴブリンだった。ゴブリンは緑色の醜悪な姿をした小鬼である。
一階層の前半に出てくるゴブリンは単体での行動が基本なのだが、単体ということで頭を働かせて攻撃を仕掛ける個体がたまにいるのだ。そんな個体にいきなり当たった二人は不運としか言えなかった。
「くっ……ルナさん下がっていてください!」
「何でですか!前衛は私の役目です!!」
ゴブリンの奇襲を辛うじて受け止めたホルスはルナを傷付けたくないがために後ろに下げようとしたが、ルナはそれを許さなかった。先程のステータス作成の際に自分が近接向けのステータスだと言った筈なのにホルスが向いていない筈の近接戦をしているのだ。相棒として、また団長としてそんな事態を許せるはずがなかったのだ。
ホルスはゴブリンの爪による攻撃をギルドで借りた短剣で受け止めている。ゴブリンは隙だらけだった。その隙を突くようにルナはホルスと同じ量産型の短剣を使ってゴブリンの胸を後ろから突いた。ゴブリンは呻き声を上げて消えて行った。
「はぁはぁ……前衛は私がやるからホルスは魔法がない間は遊撃して」
「で、でも僕は男だから……」
「はぁ……男とか女とかここでは関係ないよ。だってこの都市の旅団ランク二位の団長が女性だったり、治安組織0のトップも女性だったりと冒険者に性別は関係ないの。だから私の言うことを聞いてくれないかな?」
「……分かりました。ルナさんが傷つかないように僕がいち早く敵を倒します!」
ホルスはルナの言ったことが分かっていないかもしれないが、今はまだそれでいいだろう。これから先、ワシンドでトップになるとしたら強い女性とたくさん出会うことになる。強い女性たちを目の前にしたらホルスも考えを変えるはずだ。
そのまま二人は少し休んでからダンジョンの奥へと進んで行った。油断が消えた二人は単体ゴブリンによる奇襲には完璧に対応出来るようになり、危ない戦いは無くなり始めていた。
しかし目の前に現れたゴブリンは今までと大きく変わり、三匹で構成された集団だった。二匹は後ろでボロボロの弓を構え、一匹は錆び付いてた短剣を構えていた。
「ここからが最初の壁だよ。集団行動の相手はどれだけ早く前衛を倒せるかだから二人で前衛を倒すよ!」
「分かりました!」
二人は短剣のゴブリンを倒すために駆け出した。ゴブリンでも簡単には殺らしてくれない。短剣のゴブリンを守るために二匹のゴブリンが矢を放った。ボロボロと言えど矢の先は鋭くまだ弱い二人の皮膚には突き刺さってしまう。放たれた弓は前を走るルナの胸目掛けて放物線を描いて突き刺さろうとした。しかしルナは反射的に短剣を横に払うと飛んできた矢に当たり、弓が刺さることは無かった。
「私が前衛をやるから後衛はお願い!」
ルナは短剣を前衛のゴブリンが持つ短剣にぶつけると少し怯み後衛のゴブリンへの道が開かれた。そこをホルスが通り、次の矢を構えようと焦っているゴブリンの首に短剣を入れ、二匹の首を飛ばした。ほぼ同じタイミングでルナも前衛のゴブリンの首を切り落とした。
「はぁはぁ……少し疲れましたね」
「そうだね。そこそこ魔石も集まって来たし、今日は終わりにしよっか」
魔石とは魔物が倒された際に残す物で、これをギルドに売って冒険者たちは生計を立てている。他にも魔物は体の一部や武器をドロップ品として落とすことがあるのだが、ゴブリンが落とすのは『錆びた短剣』と『ゴブリンの爪』だけなのであまり高く売れることは無い。しかしこれが上位の魔物となるとドロップ品は一等地に家が買えるほどの値段が付く物も多くあるので、ドロップ品は冒険者の中では臨時収入として喜ばれている。
ちなみにだが、ドロップ品の使い道は売却だけではなく武器や防具、魔道具だったりの素材になるので、大きな旅団となるとお抱えの生産者に渡されることの方が多くなる。
「帰る時も油断しないようにしましょうね」
二人は帰還する際も油断することなく単体で襲ってくるゴブリンを危なげなく倒し、魔石を集めていた。
何匹かは『ゴブリンの爪』を落としていたが、あまり喜んではいなかった。売値としては魔石より少し高いくらいなのだが、ゴブリンの爪なので汚いと思ってしまいあまり持ちたいものでは無かった。
「なんか長かった気がしますね」
「私も初めてダンジョンに入ったけど……結構疲労が溜まってるみたい」
ダンジョンの中では頼りになるルナだったが、ダンジョンを出てみると足が震えているのに気が付いた。それもそうだろう。彼女はまだ少女と言っていい年齢なのだ。そんなルナが強く頼りになる女性を演じていたのは、ホルスが自分よりダンジョンの雰囲気を知らないどころか世間知らずなのを理解していたためだ。そんなホルスを前にして自分がビビっていたらホルスは冒険者を断念してしまうかもしれない。ホルスが居なくなれば、また一人になってしまう。そのため演技をしていたのは彼女自身のためだった。
「肩貸しましょうか?」
「大丈夫、最初くらいは自分の足で受付するから」
やがて受付のリリムの元に辿り着くとダンジョンでの行動を報告した。報告の内容にリリムは驚いていたが、何故驚いていたのか聞く前に二人は魔石とドロップ品の買取に向かってしまった。
「初めての探索で半分超えたんだ……」
彼女の呟きは二人の耳には届かなかった。
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