第2話 ステータス

 二人はギルド内に入るとその大きさに驚愕した。入って一番最初に目に入るのは巨大な受付だ。その奥には買取、売店、ギルドに所属している鍛冶師が運営している武器屋などのダンジョンに潜るために必要な物をギルドだけで揃えられるようになっていた。


「受付はあそこだよ。行こう!」


 父親が長い間お世話になったギルドに初めて来て興奮しているのか、嬉しそうにホルスの手を引き受付へと小走りで向かって行った。

 運悪く小走りのルナは通りかかった冒険者とぶつかってしまった。


「痛ったぁ」


「あんまり走り回るんじゃねぇぞ……ってルナじゃねぇか」


「アビルさん……」


 ぶつかった相手はプルート旅団に所属していた狼の獣人族であるアビルだった。

 アビルは少しの間ルナの父親と同じパーティーに入っていたほど、元プルート旅団メンバーの中でも実力者であり、『獣拳のアビル』と呼ばれていた。


「……遂に仲間を見つけられたんだな……いつか俺たち元メンバーに追いついてみろルナ。死んじまった父親に負けない冒険者になれ……これはお前の父親が生前ダンジョンで言っていた言葉だ。『ウチの子は俺らを超えるぞ』と嫌になるほど言っていた。自分の父親が虚言を吐いた男にしたくないのならば強くなるんだな」


 そう言ってアビルはギルドを後にした。ルナは少し俯きながら一人考えていた。アビルが言っていた父の言葉は本当だろう。家でも『お前は強くなるんだぞ』と耳にタコができるほど言われたのだ。しかし父ほど強くなるのは修羅の道となる。そんな修羅の道にホルスを引き込んでいいのだろうかと……。


「一緒に強くなりましょうね」


 まただ。ホルスの言葉によってルナの心は絆されていく。そして彼と一緒ならば父と同じ高みに行けるのではと思ってしまう。

 

「……ええ、私も強くなる」


 二人は改めて強くなることを約束して、今度こそステータスの作成に取り掛かった。

 ステータスの作成はギルドの職員によって行われる。ステータスは個人情報である。そんなステータスを外部に漏らした職員は重い刑罰に問われてしまう。

 そのため冒険者の職員は基本的に一人が担当し続けることになるのだ。


「ステータスの作成ですね。担当をさせて頂くリリムです。こちらに手を置いてください」


 ホルスがステータス作成用の魔道具に手を置くと魔道具が光を放った。これは手を置いた者の魔力に反応して光っているのだ。逆にここで光らなければ魔力を一切持たない者として物理系統のスキルに恵まれると言われている。しかし魔力を一切持っていなかったのは、歴代の冒険者でも十人にも満たなかった。

 そしてリリムが魔道具を弄るとカードとなってステータスが具現化された。このカードは冒険者としての身分証になるため、持ち歩くことが推奨されている。ステータスは個人情報なのに他の人に見せるのかという疑問は、職員が携帯している隠蔽の魔道具によってステータスは外部から見られないようになる。もちろん持ち主が見せたいと思えば見せられるが、個人情報を見せる相手と言っても身内程度なのでこの機能を使う者は少ない。


「あなたのステータスは……珍しいですね」


 リリムが珍しいと言ったので、何が珍しいのか知るために直ぐに自身のステータスを覗いた。

 * * * * *


 ホルス・ソル 人間 Lv1

 体力 15

 筋力 08

 魔力 23

 防御 09

 魔防 19

 速度 13

 スキル


 * * * * *

 ステータスは一番上には名前と種族、レベルが並び、その下には上から順にどれだけ運動し続けられるのか決まる体力。どれだけの力を生み出せるのか決まる筋力。魔法の打てる量と威力を決める魔力。どれだけの攻撃を受け切れるのか決まる防御。どれだけの魔法攻撃を受け切れるのか決まる魔防。どれだけ素早く動けるのか決まる速度。これらのステータスはLv1で平均10前後であるため、ホルスはかなり魔法に偏ったステータスをしていた。

 そしてスキルは三つスロットが空いているので今のところ三つまで覚えることが出来る。スロットはLvが上がることで増えることもあるので、限界は分からない。ちなみにスキルは覚えることが出来るというだけなので、一生覚えることが出来ないこともザラにあるのだが、これはどんな冒険をしてきたかで決まると言われている。

 このステータスの割り振られ方は最初のうちは厳しいものとなる。魔法を覚えるまでは魔力という物は役に立たないので、必然的に近接で戦わないといけない。しかし彼の筋力はステータスの中でも一番低いので戦闘は他のLv1の冒険者より大変になってしまう。

 そのため、彼の戦闘は相棒であるルナのステータス次第で今後の難易度が変わってくる。


「ルナさんのステータスはどうでしたか?」


「……私のは近接向きのステータスだったよ」


「なら良かった」


 ホルスはルナが近接向きだと聞きホッとしていたが、ルナの顔には陰りが見えた。しかしホルスの目には映っておらず、その間にルナは顔を戻していた。

 ステータスの作成を終えた二人はすぐさまダンジョンに向かおうとしたが、受付職員であるリリムに止められてしまった。


「ダンジョンに行くのなら初心者に貸し出してある武器と防具ぐらい借りていきなさい。性能は最低限度の物しかないけど、あるとないとじゃあ全然違うから」


 リリムは二人がダンジョンに行くのを止めようとは思っていなかった。武器と防具の貸し出しについて教えてくれただけだった。

 二人はリリムに感謝して改めてダンジョンの入口へと向かって行った。

 ダンジョンの入口は静かで、そしてどこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。しかし神秘的な雰囲気の奥には魔物によるものと思われる禍々しい気配を感じさせた。


「行きましょうか」


「今度こそ第一歩ですね」


 二人は何も言わず手を繋いでいた。不安からなのか、それとも二人が共に相手を思い守ろうとしているのか……。

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