異世界ダンジョン

Umi

ダンジョン都市ワシンド

1章 新人

第1話 プロローグ

 ダンジョン都市ワシンド。

 ワシンドはダンジョンで一攫千金を狙う冒険者達によって発展を続けている。複数のパーティーによって構成される『旅団』はダンジョンを攻略するために必要不可欠だ。

 しかしここに自分の力のなさから旅団を作れない少女が居た。


「どうしよう……父上から受け継いだ旅団が潰れちゃう〜〜〜!!」


 まだ幼さの残る少女の父親は名の売れた冒険者であり、旅団を率いる団長もやっていた。しかしどんな魔物にも負けない強靭な肉体を持ってしても病気には勝てなかった。病に犯されて旅団を率いることが出来なくなった父親は気が狂ったのかまだ幼い娘に団長を任せた。そこからは言わなくても分かるだろう。お世話になったとは言え大人とは言えない少女について行く程、冒険者に余裕はない。一人、また一人と旅団を抜けていき、父親が亡くなった昨日最後の一人が抜けてしまった。

 旅団のメンバーが居なくなった事で、稼ぐ力がないと見られ父親のために借りたお金を即日支払わなければならなくなり、貯蓄と家を売ることによって難を凌いだ。しかし少女一人で生きていける程この都市は甘くないので、仲間になってくれる初心者を探していたのだ。


「ウっ……」


「君大丈夫!!?こんな路地裏で倒れて!!」


「み、水と……食べ物を……」


 か弱そうな少女が団長を務める旅団に入りたがる人など居ないため、初心者が相手だろうと断られていた。

 行く宛てもなく路地裏を歩いていた少女の目の前に色白な少年が倒れていた。辛うじて息があったため声をかけたのだが、返ってきた声は食事を求めるものだった。彼女自身もろくな食事を食べていないため懐にあるパンを譲ろうかどうか悩んでいたが、彼女は優しかった。


「これパンと水」


「――っありがとうございます!!」


「こんな所で倒れて、何があったの?」


 少年はポツポツと自分の境遇を話し始めた。

 彼が言うには、ワシンドへ出稼ぎに来ていた父親が失踪したそうだ。父親を探しにワシンドに来たのは良いものの拾ってくれるような旅団はなく、個人で冒険者をやろうにも、冒険者になるにはワシンドのギルドでの登録が必須だ。しかし冒険者登録するためにはお金が必要なのだ。ワシンドに来る人間は生活に必要な最低限のお金しか持ってきていないため、基本は拾った旅団が代わりに支払うのが通例なのだが、拾って貰えなかった少年は冒険者になることすら出来なかった。


「そっか……ならさ、私の旅団に入らない?」


「君の旅団?……身内に運営してる人でもいるの?」


「やっぱりそう思うよね……でも私が団長なんだ……」


 少年の言葉に少女は見るからにしょんぼりとしていた。鈍そうな少年だったが、少女のあからさまな反応にすぐさま話題を変えた。


「どのくらいの規模の旅団ですか?」


「……り」


「すいません聞こえなかったです」


「とり」


「え?とり?」


 しかし変えた話題先も彼女にとっては地雷だった。


「私一人って言ってるでしょ!!!」


「――っ!!なら僕が二人目ですね」


 少年がした反応は少女にとっての想像と違うものだった。どんな人でもか弱そうな少女一人の旅団と聞いたら足早に彼女の前を去っていた。

 しかし少年の反応は入団することを決めていたのだ。


「同情で言ってるのならやめて!!」


「……同情なんかじゃあないですよ。僕は貴女に命を救われたんです。この命貴女に捧げるつもりですよ。……まあ父さんを見つけてからですけど」


 少女から見ても恥ずかしくなるようなセリフを言った少年は、言い終わってから恥ずかしくなったのか頬を掻きながらそっぽを向いた。

 少女も釣られて恥ずかしくなり、頬を綺麗な朱色に染めていた。


「じゃあこれからよろしくね……えーっと名前なんだっけ?」


「名前も知らずに入団を決めちゃいましたね。僕はホルスです」


「そうでしたね。私はルナ・プルートです」


 名前も知らずに旅団に入ることを決めた少年改め、ホルスも名前も知らない汚れた少年を旅団に入れることを決めた少女改め、ルナも二人は似た者同士なのかもしれない。


「じゃあステータスの作成をやりに行こうか」


「確かステータスの作成、更新はギルドでしか出来ないんですよね」


「うーん……それは間違いなんだよね。基本的にギルドでしか出来ない理由はステータスの作成と更新を行う魔道具は作れる人がこの都市には一人しかいないんだよね。しかも作る人の魔力が少ないから一年に一機しか作れない。メンテナンスとかもやらなきゃ行けないから滅茶苦茶高額なんだよね」


「だから基本はギルドしか持てないんですね」


 二人は都市の中心に聳えるギルド本部に向かってゆっくりと歩みを進めていた。

 しかし見るからに幼いルナと弱そうなホルスが二人だけで路地裏を歩いているのは、追い剥ぎの格好の的だった。


「おいおいガキが二人でこんな所歩いてたら危険ろ」


「あっ、ご忠告ありがとうございます」


 純粋なホルスは追い剥ぎだなんて考えないだろう。しかし追い剥ぎがいるような都市で過ごしていたルナも警戒はしていなかった。

 その理由は……


「すいません。今からギルドに向かおうとしていたところで……」


「ああ、新人か……ギルドまで連れていってやるよこの道は危険だからな。ちなみに俺はギルド直属の治安組織ゼロに所属してるガルだ」


「新人のホルスです」


「プルート旅団の団長ルナです」


 力なき支配者は効力を持たないため、ギルドにはワシンドの治安を維持するための治安組織0と犯罪を犯した旅団を抑えるための対人戦闘に特化した組織、影の守護団シャドウガーディアンがある。

 0は犯罪者を捕まえるために路地裏だったり、暗がりの調査をしている。たまたま0の構成員に会えたことは二人にとって幸運だった。



***


「ここがギルドだ。じゃあ俺は仕事に戻るから」


「「ありがとうございました!!」」


 二人は出会って一時間程度しか経っていないのにも関わらず息の揃ったお辞儀をして見せた。そんな二人を見てガルは厳つい顔面を一瞬緩めた。二人に背を向けて路地裏へと消えて行った。


「ここから僕の冒険が始まるのか……」


「そうだよ!君は父親探しを……私は最強旅団に……頑張ろう!!」


「「おーー!!」」


 二人の冒険が今始まる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

ここからはあとがきです。


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