第6話 隣に立つ条件には手が届かなくて。

「テュルク様、、?!海が、、」


最展望に登れば抜ける虚空のに、

各々が髪を靡かせて見つめる先。


「本当に隆起しているか、津波の前兆か、、だな。」


赤髪を震わせグランは固まり、テュルクは 冷静に スコープを覗きながら、呟く。


本来なら白い砂浜が光る海岸線に砂止めの木々。干潮時に現れる 都市を回遊するゴンドラが藩島を囲み、海の青と木々や船色が美しいコントラストを見せているが、


「こんなに海中都市が出ているいは、前宰相の父も見たことなきはず!これでは余りにも 無防備で危険と!」


宰相のカハラさえも口元を戦慄つかせ、テュルクに 判断を仰ぐ。


「この状況に乗じて、藩島、いや王領に仕掛ける不埒者が、沸き上がっても 不思議はない。」


テュルクが海を睨みながら呻いた。

ウーリューウ藩島は、外洋国 と内陸を繋ぐ海道の国際関所でもある。

そして今まさに、藩島は周囲を囲む海中都市が干上がり現れ、方々から 夥しい数の温水柱が煙と噴出していた。

状況は外洋から見ても、藩島の異常を察知されかねない。

テュルクも 其れを忘れるはずなく


「ザード。ザード魔導師を、スュカ嬢の元より召集せよ!」


海を見据えたままテュルクが

口にすると、


「御身のそばに、テュルク様。」


最展望入り口から鈴音が如く声と共に、薄桃プラチナ色を煌めかせ

波うつ髪を風に広げた、大公令嬢スュカが、優国魔導師ザードを 後ろに従え、テュルクの前に参じた。


「スュカ嬢、此のような場所に貴方が上がるものではない。 直ぐに城内、『守護の間』に戻り、侍女警護をつけるようにする。」


突如現れた2人に、テュルクは冷淡ともとれる言葉を投げるが、

テュルクの鋭い眼差しを、モノともせず、


「テュルク様は、マイケルが相手ならば、其の様なことはきっと仰らないのでしょうね。」


スュカは 毅然と言い返す。


「スュカ嬢は、大公が令嬢。御身は重要しかるべし、城にて護るのは当然であろう?其れに、マイケルは 女官、、いや斬首人だ。」


伏し目がちに答えたテュルクの言葉に、スュカの両目が蒼白にして見開いた。


「先からの弔い鐘はマイケル!何故ですの?、其れは、、」


スュカの口に昇る テュルクへの疑問を、


「地下獄卒宮にて、、我が、、 斬り、マイケルを消滅させた。 」


テュルク本人が 止める様に答えて、魔導師ザードに向き合うと、


「カフカス王領国、最優位魔導師ザードに、結界魔法行使の陣頭指揮を命ずる。藩島内の魔導師を配置につけ、地空結界を直ちに行え!!」


漆黒髪にフードを纏う後ろ下げの頭に、徐に片手をかざしてテュルク自らの力を分与えた。


魔導師ザードの漆黒の瞳が、虹色に変化する。

多大な魔力保有を 表す黒眼をさらに越える虹眼。


魔力分配された量がいかほどか?

と、カハラやグランにも解り目の前で行われる付加の光景に、背筋が震えた。


「こんな日がくるなんて、」


グランが信じられないとテュルクとザードを見つめ思わず、藩島の終わりを疑ってしまう。


魔導師ザードは、人成らざる雰囲気を新たに漂わせながら、テュルクから拝した命を遂行するため、スュカと共に展望から一礼をすると、テュルク達の前から去った。


「テュルク様、魔導師達の移動を 翼龍隊に命ずるで 良いですか。」


宰相カハラの指は言いながらも、舞い動き指令を飛ばしている。


テュルクは 頷き、支流の翼龍隊を外洋偵察に放つ様カハラに追加した。


「地空結界が成されば、 直ぐに 温水噴出が凍結して、 成功が判る。そうすれば、外洋からも一切侵入出来ぬはずだ。それまで何とか耐えねばならぬ!!」


「津波にしても、地殻変動にしても、、外敵にしても、 三つ巴の崩壊シナリオ阻止とは、、マイケルは、もしかして 判っていたので

しょうか、、」


テュルクの激に、グランが思わずポツリと呟くと直ぐ様、慌てて 口に両手を当て己を諌める。


「マイケルの政策が無ければ、 我々は終わっていましたね。」


グランの様子を横目に、珍しく宰相らしくは無い、物騒な台詞をカハラも吐いた。


本来、地空結界という大魔法の行使は、緻密繊細な魔法陣で行使できる物。

しかし、繊細ゆえに書き上げは1人の魔導師のみに可能という過酷さでもある。


カフカス王領国の国民はあまねく

魔力を体内に保有するが、性質、保有量、持続は如何にしても個体差がある。其の量は基本上位貴族は数、量が多くなるが故に貴族。


王族は更に上回る。


自然、大型魔法陣の発動は保有訓練した魔導師や、王公貴族程でなければ発動条件が揃わない。


そして従来は陣を描いての発動は1人で担う事になり、其れは国や民への生け贄になるべく大型魔法を意味する。


「マイケルの発案と策は、我々王族や貴族を救うものになった。永遠に、子孫永劫だ。」


未だ温水の噴出は止まらない。


テュルクは覗いていたスコープを外して、 カハラに答える。


「魔充石の発案で、普段から魔力の保管ができ、それを税として扱うなんて、始めは 驚きましたよね!しかも、なぜか合理的で、マイケル様らしいです。」


場の緊張を和ませる近達の役目と、グランが笑う。


藩島中に配した海神ワーフ・エリベス像を媒体に、魔充石の魔力を

魔導師の魔力に変換し、1人での行使ではなく、登録魔導師の同時配置で大型魔法を可能にする。


マイケルが議会に出した政策は、余りの画期さで、


「あの時の議会は、正に独壇場。多いに見もので、語り草だよ。」


カハラは苦笑いをして揶揄する様子に、グランがつい


「それなら彼女は聖女ですよ。」


と言うのを、再びカハラが肘で合図する。


「もし、例えば 聖女なら、」


先程まで、己の補佐の役に付いていた平民出身の女官を思いだしたか、カハラは気まずげに口を嗣ぐんだ。


2人の言葉を風に流しテュルクは、かつて補佐女官マイケルがテュルクに告げた、『想いの言葉』を頭に浮かべる。


『わたし、魔力を持たない女です。此の藩島を支え、助けるのは魔充石のお蔭で、これからは 民1人でも 出来る。 其の国で、、わたしだけが其れが出来ない。何時か必ず其れを身に沁みる日がくるなら、わたしは、、』


『貴方の隣に立っては居られない。』



テュルクは掻き消すかに頭を振り、


「マイケルは斬り消えたのだ。」


後ろに控えるカハラとグランに、何の色も乗せない声で告げた。


現に、スュカを筆頭にテュルクの妃候補達は、多量の魔力を有し、国位魔導師も彼女達の門閥貴族に組する子息子女。


だからこそ、最優国魔導師ザードが親族のスュカが、筆頭妃候補である。もちろん大公令嬢である事も理由ではあるのだが。

其れさえ、いかに魔法保有の多い血筋かを示していると言えよう。


「 、もし、あの時それでもマイケルを我が腕にしていれば、今の瞬間、我は、、 否、マイケルも、、、 後悔をしていたか。」


国と、恋。


想えば、今瞬間も 答えをい出す事苦しく、テュルクの喉は 締め付けられるが想い。


テュルクは再びスコープを自身の目に当て付け、

視界で滲む、

島の ワーフ・エリベス像を見つめた。



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