第5話 恨んでいるか?

大師は、

胡座を空中でかく膝の上に指で印を結びながら瞼を開く。


「テュルク王将軍らしいのぉ。」


そうしてウーリューウ藩島城の状況を一瞥するかに遠視した大師は、

再び夜行虫灯りのラボ作り部屋に意識を戻す。


「もしもなぁ、、マイケルを 調整世界に投入せんなんだら

テュルク王将軍の何は。別時間にあったのじゃからなぁ。まあ、、許せ。」


大師は白顎髭をしごき 納めると、円卓のジオラマに視線を落とした。


今、中央の円卓は半透明で精密な 双璧のジオラマが、上下にマイケルを挟み、

周りに 12の花結晶を旋回させて『走査』続けている。


光の柱は粒子が凄まじい負荷を掛け、激しく粒子移動する動きをしていく為に、

離れている 大師の目にも、まざまざ見えるほどの迸りと勢いになる。


溶液を飛び散らせる鉱炉のような激しい眩しさと、磁場率が人ひとりの誕生に比べると話にならないほど重い。


「そんな激流に穿たれる感覚は思念体とはいえ、いかばかりかのぉマイケルよ、、、既に先ほど、今際の際を見ているのにも係わらず、、のぉ。」


大師はマスターと成りえた時点で、既に人間らしさの感情は昇華させている。

その様な自身であっても知らぬ斬壊では無いと、溜息を吐いた。


「最初、おぬしの前に姿を現したのは、雪の積もる山の洞じゃったかなぁ。」


ラボの空間には誰も居るはずは無く、全てが 『居る』場所でもあり、大師は只の独り言を、廻る星渦を 監視しながらポツリと洩らしていくばかり。


「あの時のおぬしの顔は傑作じゃっなわなぁ。ふぉっ。」


空間は次元の狭間に存在する『ラボ』。

全ての世界を投影する事が可能な設定。それが故に、こんな風に大師が言葉とすば、

徐々に 室温が下がり始める。


「おぬしなぁ、どれだけ お嬢様なんじゃ?恋愛の為に 遍路を廻るなんぞよぉ。

わからぬなぁ。 護衛を2人も付けおって、おぬしと話する場所の選定にどれだけ難儀をした事か。其れも懐かしい話だのぉ。」


ゆっくり

ゆっくりと周りに思考の霧が

霞がかり、


「でもなぁ ほんに、わしも 驚いた。まさか、わしの 遍路姿を視るモノが

外の国から来ていた旅行者じゃったんじゃから。、、、それも、運命か。」



『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン ..


Oooon Ooun Ooooon Ouoon゜゜

゜ Oooon Ooun Ooooon ゜゜ ゜ ゜ ゜ ゜ 』

゜ ゜

゜ ゜

鐘の音が、霧に吹かれて

法螺貝の 合図と、

白銀の雪に代わる


迷故三界城、

悟故十方空、

何処有南北、

本来無東西 、


マイケルが 恋愛のお遍路を双子のボディーガードを連れて歩く道は、

あまりに過酷な場所として、毎年滑落者がヘリ救助されるという難所。


古石の墓。命懸けを匂わせる過酷な場多々。

見晴らし悪く、沢山の石像と石柱ある峠であった。


マイケル達は、聖と俗の境界と遍路で 言われる山中に着く。

正装の白衣は死に装束。巡礼を通じ生まれ変わる。

一旦死の世界に入るという、遍路の奥深さを肌で感じる道。


ヘアピンカーブの野苔むす階段を緊張しながら、雪の中3人進む。


滑るからとマイケルが双子に声掛けられた時。

それは、突然だった。


『Oooon Ooun Ooooon Ouoon゜゜

゜ Oooon Ooun Ooooon』



「ねぇ、何?この音?向こうから 聴こえるけど、誰か遭難?」


マイケルが見れば正規のルートから脇へと横道が伸び音がする。

狭き道を進む。其処には小さく口を開けた洞窟。

中には大師の像がある、、


「狭いけど誰か出れないとか?」


難所も越え、マイケルが 地図を頭に思えば、車でも来れる林道も近い。

ならば、危険は過ぎているとマイケルは考えた。


「ちょっと、中を、みるわ。 狭いから 2人は、 待っててちょうだい。」


マイケルは、指示をして音がした 洞窟の祠に入る。

覗けば直ぐに壁面が見える浅い浅い洞穴に、双子も危険視はしない。


「失礼するわ。誰かいるの?」


マイケルが声を掛けるが、無人であるのは一目でわかる。

あるのは野趣溢れる大師の石像だけ。


「気のせいか、、 なら、この大師像にも真言を 唱えて出ますか。えっと、」


マイケルは目を瞑り息を整えると、静かに 真言を唱え目を開いた。



「誰!!」


途端、マイケルの目の前には、石の大師像ではなく、生身の『大師っぽい』人物が立ち、黒い空間にマイケルは 佇んでいた。


『Oooon Ooun Ooooon Ouoon゜゜

゜ Oooon Ooun Ooooon ゜゜ ゜ ゜ ゜ ゜ 』

゜ ゜

「いやいや、貴方が 大師そのものだって云われても!百歩譲ってよ、世界の為にって

拉致られて、神隠されても。理不尽しかないし!!」


マイケルが遍路装束の『金剛杖』を怪しい仙人男に 投げると、杖は大師をすり抜け、黒い空間に消える。


「な?!幽霊?!やだ、こわ!」


今度は装束鞄から塩を出して、マイケルは投げる。が、その塩が マイケルにバラバラと自分に降りかかってくる始末。


「ギャーーー!!ーーーなに何なに何なに何なに何なに何!」


半狂乱になるマイケルに、


「あのなぁ、今おまえさんは魂と意識の思念体じゃし、わしも同じじゃ。ここはなぁ、 体っちゅう器があっては来これん空間故に、何してもなんもならんし、何にもなる。」


呆れて大師が、石像と同じ風体だった姿を、一瞬で笠遍路の装束に変化させて

みせた。


洞窟で、祈りに目を閉じて開ければ『生の大師』だと自己紹介をする老人に、


「お前さんに、世界を救って欲しいのぞ。」と、詐欺まがい勧誘を受け、


マイケルは気が狂いそうだった。


「ウソ。わたし、 死んだの。」


「死んどらん。いや、近いか?とにかく、あの洞窟に仕掛けた 魔法陣にて、おぬしの体は霧散した。わしの願いを聞かぬと、 再び身体の器は成されんぞ。」


黒い空間よりラボと見える部屋に通され後から、マイケルは不毛なやり取りを大師と散々繰り返しているのだった。


「もー、それ選択肢ないじゃない。恋愛するためにオヘンロしてたんだから。早く

やることして、帰らせて。もう帰らせては、30回は叫んでるって!! 爺い!!」


マイケルは大声で叫んで、睨みを大師にきかせた。


「話は早い。さすが合理的じゃ。では、世界を救う手助けをしてくれるわけじゃな。よし!言質とったぞー。」


大師の目が不穏にキラリと光る。

時間の感覚のない中で、さすがにマイケルもこの時に観念した。


「わかった。一体わたしを 誰だと思ってるの?『 マイケル・楊 』よ?

華僑一族 を汲む、十氏族の2家、 馬一族と楊一族のハイブリッドセレブ子女。

その気になれば、武器も軍隊も調達できるし、世界中に王公貴族のフレンドもいるから、大抵の事はなんとかできるわ!」


弱冠ヤケクソというか風な『 ドヤポーズ』を悪役令嬢並みにしてみせたマイケル。


「残念じゃが、おぬしにしてもらう世界は、おぬしの住まう次元世界じゃない。

異次元や異世界とを、おぬし達の次元世界につなぐ 調整世界じゃ。」


そんな、マイケルを 気の毒な視線で諭す大師は、


「え?何のアドバンテージもない別世界?じゃあ、わたし関係ない無理ね。やらない。義理が全くないもの!他にあたってよ!」


言い出すマイケルに最後の切り札を出した来た。


「いやぁ、義理どころか、多いにおぬし達に関係する世界じゃぞ。

もし、おぬしが上手くやれなんだら、おぬしの運命の相手が住んどる大陸が沈むんじゃからな。そうすれば、どうなくかのぉ。」


これは、やや残酷な宣告である。


「なんで!天変地異レベルよ!」


その大師の最終宣告に、マイケルの足の力が抜けて床に腰を付く。


「そういう世界なんじゃ、調整世界っちゅうもんは。わしら人智を越えたモノは、

各々の世界には介入できん。」


大師は、円卓のジオラマを指し示して、その空中にもう1つ シャンデリアな

ジオラマを出現させる。


「しかし世界は影響しあっとる。1つの世界の終焉は多大じゃ。大事になる前に、

調整世界を使って整備をする。今必要となっとるのが、おぬしの世界。」


上に浮かぶシャンデリアの様なジオラマが、マイケル達の世界だと、大師は言っているのだと、さすがにマイケルは理解するしかない。


「それって、大陸が沈むだけじゃなくて、わたし達の世界に終わりがくるから、整備するってこと?何?頭おかしくなる。何の力?神様なの?」


気にするなと言う様に、大師は杖でマイケルの頭をコツンと叩くと、


「おぬしに選択肢はないのは、い云えておる。了解じゃな ?では、始めようぞ。」

と 何かを描いていく。


「おぬしを 器に入れて調整世界へ。健闘を祈る。」


大師の姿がだんだん白い霞みに見えなくなれば、


『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン ..


Oooon Ooun Ooooon Ouoon゜゜

゜ Oooon Ooun Ooooon ゜゜ ゜ ゜ ゜ ゜ 』

゜ ゜

゜ ゜

(て?!説明が雑ーーー! 鐘?チュートリアルは?!マニュアルとかないの?!

何するのよーー!)


(タイムオーバーとか、地雷とか何かシバリとかーーーーーーー!)


消えながら吠えるマイケルの声。


とわいえ大師からも、マイケルの姿は霞みに消え、行くべき世界へ転送されていく。

そんな


始まりだった のう。


゜ ゜ ゜ ゜

゜ ゜

゜ ゜懐かしいのう。


あの初めて 。

話をした時からなぁ、


おぬし、恨んでたの かのお 。

のぉ? 。


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