第3話 使命と愛と鐘は鳴る

そもそも空中に描かれた古代魔法陣は、肉体という器を霧散させ、

魂と意識だけの思念体にするゲートである。


「おぬし、喩え首が、もげたとしても何ら問題もなかろうて。」


如何にも、ふおっふおっふぉっ!などと仙人が笑いそうな風体で

大師と呼ばれた旅人は、 マイケルに不穏な台詞を吐くと、

手の金剛杖でマイケルの頭をコツンと叩く。


「あだっ!!って!

言われてね、 ハイハイそうですかとか、 直ぐには頭が追い付かないの!」


マイケルは頭を撫でた後、自分の首を そろそろと擦る。


どうやら首は問題なく胴体と繋がったらしく、

見れば血飛沫で赤塗りになった宰相女官服は、先程の『コツン』叩きで、

マイケルが見る限りではすっかり綺麗に戻っている。


「この空間は思念の間じゃと 話ただろうに。慣れてもらわねばなぁ。

 よいわ、マイケルよ、あの扉への参れよの。」


見れば、大師の頭を覆っていた遍路笠は消え、替わりに白い手拭いが独特の宝冠括りで大師の頭を被っている。


まさに仙人様相に変貌した大師の後ろを、マイケルが疑いなく続く。

何故なら、すでに此処はマイケルも知っている狭間の空間。

マイケルが異世界に飛ばされた際、初めて大師に連れて来られた闇の廊下なのだ。


マイケルは フィっと、前後に続く漆黒の回廊空間を確認する。


音もなく進む黒い中、両側に木製アーチ扉が並ぶ場所。

其の扉の1つが 勝手に開いて、大師が其処を潜った。

全く初めての時と同様に。


マイケルも大師に付いて中に入ると、マイケルの背後で勝手に扉は閉じた。

此れも初めてと同様に。



「あー!ここ!やっぱり最初に来た部屋だわ!懐かしいー。」


マイケルはキョロキョロと部屋の中を見回すしては、置いている物を弄る。

部屋中は 広いラボの様な作りで、

ボンヤリと夜行虫灯りが 虹色に室内を照らし出す。


中央には凡そ、ラボには似つかわしく無いアンティークの円卓に、

円形古地図が円卓の空中に立体投影され、目を凝らせば古地図は、

半透明で精密なジオラマになっている。

そして此のジオラマは生きているのだった。


「これが、さっきまでいた、調整世界なんてねぇ。凄いねぇ。」



マイケルは 強がりとばかりに、声出して大師に言葉を投げる。


(そう。もう、充分知っている 。ジオラマは生きて動いている 人の姿まである

 わけでしょ。このラボの正体なんて、きっと、、)


そうしてマイケルが、動くジオラマに指で差し込もうならば大惨事が起きるのだ。


「でわな、時が余り無いからの。マイケルの思念をポータルに、ウーリューウ藩島のエネルギーを空蝉の魔法陣にかけ、 銀河大陸に変換投下をするぞ。良いか?」


大師は 先程のマイケルの言葉が強がりである事を知って、気が付かない振りをすると、マイケルに先を促す。


大師に呼ばれて、マイケルはゴクリと生唾を飲んだ。


(マジ、いよいよだ。)


「マイケル。

これより、おぬしの思念体をスキャンしながら変換投下をする。刹那ではあるが、

スキャンされるおぬしの体感は、やり直しの負荷があるじゃろう。心せよ。」


大師がマイケルに告げて、両の手を胸に、印を結ぶ。


※~※゜※Oṃ vajraratna,~**゜”~

゛Oṃ trāḥ svāhā※*~”


大師の詠唱に 呼応して


**※~Namo Ākāśagarbhāya~Oṃ ~*ali kalmali mauli svāhā~**゜


ジオラマの虚空に、

マイケル思念身体が横たえて浮遊すると、

天空から シャンデリアのような

クリスタのジオラマが 双璧して

出現する。


※~※゜※Oṃ vajraratna,~**゜”~

゛Oṃ trāḥ svāhā※*~”


マイケルを内包挟んで

上下のジオラマが符号さると、

柱のような光線が、

マイケルを

貫いた。


**※~Namo Ākāśagarbhāya~Oṃ ~*ali kalmali mauli svāhā~**゜


「すまぬが、暫し 『縛』とする!」


大師が 次の印を胸の前で結ぶと、

柱の周りに

花の様な結晶が 12個現れ、

マイケルを貫く柱に、光繋がる!!


再び大師によって次の印が結ばれると、

マイケルを挟んで上下に

眩い光柱連結された

ジオラマを軸に、

花の結晶が 煌めき

マイケルの周囲を旋回始めた。


「、、、『走査』。マイケル、、、、

どうじゃな?気分は?。空に浮かんどる状態じゃろう?」


大師がジオラマに向かって話掛けると、

12個浮かぶ花の結晶から

マイケルの思念サウンドが

ラボ全体に響き渡る。


「凄い!魔法の使えない、わたしが空に浮かんでるみたいよ!」


其の返事に大師は白い顎髭を片手でしごいて、少し滲んだ 目を細める。


元華僑の令嬢マイケル・楊の 美徳は此の心根なのだとは、

大師が既に懐かしくなってしまった『 人間らしい思い』であり、

此れからも其れを、大師がマイケルに告げる事は無い。



「けっこう。では 浄化された調整世界のエネルギーを変換するぞ。

暫し、おぬしは生き霊の様なものだ。なあに、すぐじゃぞての。」


そうして大師は空中に浮かびあがり胡座をかくと、最後の印を結んで


「『road』」


と囁いた。


『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン


マイケルの下にある円卓上のジオラマから弔いの鐘が、



『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン


マイケルの周囲を旋回する花の結晶を通じて、


ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン


大音声の津波と轟き、ラボの空気を貫く。

途端!マイケルは、

思念体を切り裂くような爆鐘に

既にない四肢を引き千切るが絶叫を上げ続け、

そのまま

空で

思念意識さえも、手放した。


『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン


『ガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーンガラーーーン


虚空で胡坐姿の大師が、無言で呟く。


『始まりの時間軸 を road。』


『己が 首を、恋する相手の刃で掻き斬る乙女へ 。其処に、愛は あるか? 』

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