第3話
「あ、S君、おはよ!いい朝だねえ」
登校していると、偶然イルと出くわした。
「イル、おはよう」
「あっ、イル、おはよう!」
「おはよっ、イルっ!」
「うん、2人ともおはよ!」
前を通り過ぎる生徒たちが次々にイルに挨拶をしてくる。彼女はそんな生徒たち全てに挨拶を返す。
「な、なあ、イル。疲れないか?」
俺は小声でイルに話しかける。
「?全然?あ、もしかして心配してくれてる?だいじょーぶだよ、みんないい人たちだし!」
イルはジョーとは違うベクトルの陽キャのようだ。って冷静に考えて、今、女子と2人で登校している!?これは、何だか、、、新鮮で、、、って、イルは男と2人で歩いてなんとも思わないのだろうか?まあ、イルほどの美人なら珍しくもないのかも知れない。
「ね、S君。星梅半君と仲が良さそうだったけど、どこで知り合ったの?」
「ああ、あいつとはバイト先で会ったんだ。同期のはずなのに、すぐに周りと打ち解けて、自信満々なだけあって凄いやつだよ、あいつは」
「ふーん、そっかそっか」
「そ、そうだ、イルたちはどうして趣味部を立てたんだ?」
「私ね、友達が欲しかったんだ」
俺は首を傾げる。
「友達って、さっきのは違うのか?」
俺は通り過ぎていった生徒たちの方を向く。
「ああ、あの子達は顔見知り以上友達未満って感じだからね、、、」
「そ、そう言えば、ま、前田が部長だったよな。あいつとはどうやって知り合ったんだ?」
「前田君とは幼馴染で、同じ小学校に通ってたんだ。中学時代にアメリカで英語を学んで高校生になって日本に帰って来たらしいの。超土学園で会った時は驚いたよ、運命の再会ってやつだね!」
「へえ、それで友人を探すために趣味部を立てたのか」
「そうそう!直君もいい人だし、あなたや星梅半君とももっと仲良くなりたいから、今日の放課後も部室に来てね!約束、だよ!」
「お、おう、、、で、この指は?」
「もっちろん、ゆびきりげんまん、ってやつ!」
お、お、お、女の子とゆびきりげんまん、、、だと、、、?ついこの間までぼっちだった人間にはハードルが高い。けど、、、俺も変わらないと、、、!
「ゆ、ゆーびきーりげーんまーん」
「嘘ついたら針千本のーます!」
「指切った」「指切った!」
俺たちは部室でまた会うことを約束し、それぞれの教室に向かった。
放課後、、、
「あ、来てくれたんだね、S君!嬉しいな!」とイル。
「え、N君、ようこそ、趣味部へ!」と前田も嬉しそうだ。
「よう、N、これからよろしくな」と直。
「あ、そうだ、ジョーはまだ来てないのか?」
「うん、星梅半君はまだだね。まあ部活動開始時刻まではまだ時間あるし、お茶でもしながら、ちょっと待とっか?」
「そうだな、イル。あと10分ちょいか、、、」
「こーんにーちはー!!」
「うわ、、、ジョーか、、、」
相変わらずこいつの声量には慣れない、いつかこいつの挨拶にも驚くことのない屈強な精神が欲しいものだ。
「よ、よし、皆さん集まりましたね。それでは活動を始めましょうか」
前田は大きな模造紙をテーブルに広げる。
「今日は紫蘇さんの趣味を見つけましょう。これは趣味をどんどん広げていって、最終的に本当にやりたいことをまとめるための図です。以前の趣味探しで料理やお菓子作りにトライしてみたいとおっしゃっていましたよね?」
「うん、少し実践してみたいな」
「そ、それじゃあ、家庭科室に行きましょう。安心してください、事前に許可は取ってありますので」
前田は用意周到だな。俺たちは5人で家庭科室に赴いた。
「まずは定番のカレーを、その後にデザートとしてクッキーを作ろう!みんなも協力してね!」
俺たちはイルを中心としてカレーライスとクッキーを作っていく。
「包丁を使う時は猫の手猫の手、、、にゃんにゃん、、、」
イルはぎこちない手つきで野菜を切っていく。どうやら彼女は料理は不慣れなようだ。
「イル、良ければ俺が手本を見せようか?」
「星梅半君、料理できるの?」
「ああ、こんな見た目だから意外かも知れないが、俺は星梅半家の料理担当なんだぞ!」
ジョーは華麗な手つきで人参を輪切りにしていく。
「す、凄いですね、星梅半君」
「だろう、前田。俺はオールラウンダーだからな!」
「ねえ、ジャガイモって芽を取るんだよね?」
「イル、その通りだ。ジャガイモの芽は毒なんだ。だから多少神経質になるくらいで丁度いいのだ!」
「よし、芽を取って、取って、、、」
イルがジャガイモの芽を取り終えると、ジャガイモが半分ほどの大きさになってしまった。
「う、済まない、神経質になれと俺が言ったばっかりに、、、」
「き、気にしないで、星梅半君は悪くないよ。まだジャガイモは残ってるし、再チャレンジだー!」
1時間後、、、
「みんな、手伝ってくれてありがとう!お陰で美味しそうなのが作れたよ!」とイルは満足そうな表情を浮かべた。
俺たちはカレーとクッキーを食べ、その日の部活を終えるのだった。
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