第128話 不穏な空気
楽しかった。
心が満たされていくのをしっかりと感じる。
これぞ青春か。
プリムとのデートで王都を歩き回った俺は、最後に王都を一望できる小高い丘の上でプリムと並んで座る。
「それでね、先輩達の仲があんまり良くなくてね。怖いよねー」
プリムは結構お喋りで、デートの最中、ずっと話していた。笑顔のプリムはマジ可愛い。
そしめ、どうやら二年生から五年生の仲が悪いらしい。例年だと学年関係なく派閥で争うって聞いたことあるけど今年は違うんだ。学年で争ってるんだ。
ふーん面白ぇじゃん。側から眺めてようじゃないか。俺は嫁達といちゃいちゃしながら過ごすから好きにやっていてくれ。
「学年争いですか。大変ですね。プリムさんは大丈夫でしたか?何かされたりしませんでしたか?」
教えてくれたらそいつ消すよ。学年争いなんてしでかしてるやつがどこの誰だか知らないけど、俺のプリムに手を出したら消しちゃうよ。
「うん!大丈夫だよ、レイン様!」
「本当ですか?何かあれば遠慮なく言ってくれていいですよ」
「うん!でもね争っているの、王様の子ども達だから、レイン様も危ないと思う……」
王族かよ。
王族が学園で王位継承争いをしている。どう言う事。何やってんの。
まさかとは思うが第一王女、第二、第三王子に王位を継承する可能性があるとでも思っているのだろうか。
あり得ない。今更?西部、北西部一帯を束ねるポルネシア王国最大の派閥にして、ポルネシア王国最強の軍事力を持ち、神話級魔導使いを有するポルネシア王国最大の貴族であるオリオン大公爵家が第一王子を推しているのに?
ねぇよ。どう考えてもあり得ない。西部一帯以外の全ての貴族が別の王族を推してもそんなことは起こり得ない。それだけの力の差がオリオン家と他の貴族にはあるのだ。
叶いもしない夢見させんなよ。幼い女の子のお姫様になりたいだとか、若い男の竜を殺す冒険者になる、とかとは訳が違うんだぞ。
王族が争うと少なくない確率で血が流れて殺し合いに発展するんだよ。そう言う事をさせない為に次期王位を早々に決めたのに。
プリムやアリアが通う学園で流血騒ぎ起こしたら許さないよ、マジで。
ちょっと記憶にないくらいには怒っちゃうよ、俺。
「……レイン様?」
「ああ、プリムさん。すみません。ちょっと考え事をしちゃいまして」
いけないいけない。プリムの前だ。スマイルスマイル。
「それでね、友達のミーちゃんとアカちゃんが怖がっちゃって……」
「プリムさん……」
自分の心配より友達の心配をするなんて。
何ていい子なんだ。
思わずプリムの手を握り見つめ合う。
そしてそのままキスをする。
「ん……」
柔らかくて冷たくて温かい。
目を瞑り、頬を赤くして可愛らしいキス顔をするプリムは本当に愛らしい。
「レイン様……」
唇を離したプリムがため息を吐くようにそう言う。
俺はその顔を優しく見ながら聞く。
「昔のようにレインしゃまって呼んでくれないのですか?」
「も、もうレイン様ったら……レインしゃまなんて呼んだことないです」
「幼い頃のプリムさんは舌ったらずな言葉で確かにレインしゃまって呼んでいましたよ」
「そんなことないもん!もうレイン様!」
顔をほんのり赤ながら頬を膨らませるプリムもまた可愛い。こんなに可愛い女の子がこの世にいるとは。
プリムを守る為になら俺は無限に頑張れる。
俺の楽しい学園生活を邪魔するものは何人たりとも許しはしない。そう、たとえ王族であろうともな。
その後、俺はプリムを寮まで送り届け、家まで帰る。
「歩哨が多い?紋章は……うち?」
神眼で辺りを軽く見渡していたが、少し歩哨が多く感じた。しかも彼等はオリオン家の私兵。何も聞いてないけど、俺。
疑問に思ったので近くの歩哨を呼び止めて事情を聞く。
「こ、これはレイン様!」
「こんばんは。少し歩哨が多く感じるのですが、何かあったのですか?」
「いえ、私共も当主様の命である事以外は何も聞かされておりません!」
「そうですか。ありがとうございます」
「はっ!お気をつけ下さいませ!」
そこで歩哨と別れ、オリオン邸に帰宅する。
「お帰りなさいませ、レイン様」
門まで辿り着くと、この王都の屋敷を管理する執事長クラバート含め、執事、メイド達が一斉に出迎え頭を下げてくる。
「うん?」
いつも出迎えなどはさせていない。当主でもないし、外に出る度に出迎えにこれだけの人数を割くのは無意味だし非効率だからね。
そんなことは彼等もわかっているのだが、今日に限っては出迎えに立っていた。その不自然な行動に俺は眉を顰める。
「何です?」
「レイン様、執務室にて当主様がお待ちです」
「私を?と言うか何故あなた方は外に出ているのですか?」
100歩譲って屋敷内で待つならまだしもこんな夜中に彼等が外で待ってる意味がわからない。
コウとメイは何かを感じたのか双子の加護によるステータス移動を始めてる。
いや、彼等のステータスに不穏なものは無いよ。ちゃんとオリオン大公爵家に仕えてる人達だ。
「当主様より、屋敷から全員退出する様にとのご命令が下りましたので、全員外に待機させております」
「全員を外に?じゃああの屋敷にいるのは?」
「はい。当主様のみとなっております」
なる……ほど?
だから歩哨が多かったのか。俺を待っていたと言うことはデートが終わるまで彼らは仕事を終えられずに追い出されたと言うことか。申し訳ない。
「分かりました。では行きましょう」
そう言って歩き出そうとすると、クラバートに止められる。
「レイン様お待ちください。現在、スクナ達従者は屋敷への立ち入りを許可されておりません。レイン様お一人でとのご命令です」
「はい?」
何だ。怪しい。俺は神眼を発動して辺りを探る。怪しい者、なし。お父様も確かに大量の書類に囲まれながら執務室で業務を行っている。
神眼は俺とお父様しか知らない秘密。それを欺くなど俺ですら不可能だ。
それならばやはり彼らの言うとおり、お父様が命令したのだろう。
「分かりました。スクナ達はここで待っていなさい」
「はい」
そう命じて、執事長の言葉通り、そのままの足で屋敷の中に向かう。
そしてお父様がいる執務室の前に立ちノックをする。
「レインか?」
「はい、お父様」
「入れ」
許可を貰い、部屋に部屋の扉に手を触れる。
「……?」
扉が少し重く感じる。あくまで何となくではあるが、少し扉が重く感じた。
そして、部屋の中に入るとその理由がわかる。空気が重い。部屋の中にはお父様しかいない。それなのに息が詰まるような空気だ。
まるで戦場のようにピリついた雰囲気に俺も気を引き締める。
「お待たせして申し訳ございません、お父様。何か私にご用でしょうか?」
「……」
質問をしてもお父様は手を机の上で組んだまま何も言わない。
どうも相当真剣な話らしい。
俺はお父様が話し始めるまで待つ。
どれくらい時間が経ったのだろう。お父様が重々しく口を開く。
「レイン・グランデュク・ド・オリオン」
「はい」
「王になる気はないか?」
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