第124話 討論
「大金貨一千万枚。確かに我が国にとっては魅力的な提案だ。だがしかし、我が国は貴国らとの戦争で疲弊している。貴国に援軍を送るのは相当に難しいのが現状だ」
「それはもちろん存じ上げております。故に、ガルレアン帝国が攻め込まれた場合、援軍に来て頂きたい軍はただ一つ。オリオン大公爵軍です」
「何だと?」
その言葉にポルネシア王国の貴族達は騒然となり、お父様の目が厳しいものとなる。
「貴国の軍は非常に精強なれど、我が帝国軍も負けてはいないと自負しております。しかし、そんな我が軍を寡兵にて打ち破ったオリオン大公爵軍であれば、その軍は数十万の軍に匹敵する心強い味方となるでしょう。是非、同盟国として、我が国に危険が及ぶようでしたら援軍を要請したいと考えております」
ヴェルディアの言う通り、正直オリオン派の西部軍を除けば、帝国軍の方が数段強い。
それにポルネシア王国が出せる軍勢など高々知れている。
ぼかしているが、早い話が俺を出せと言うことだろう。
そんなことを思っていると俺たちが並んでいる列とは逆の列の貴族の一人が前に出てくる。
「陛下、恐れながら、この同盟、ぜひ結ぶべきかと愚行します」
「ほお、ローヴェルト公。何故そう思う?」
「はい。何故なら、この同盟、我々にとって大きな利があるからです。もちろん対価としていただける金額以上のものです!」
ローヴェルト公爵家。貴族派、と呼ばれる集団のまとめ役であり、お父様の第二夫人の実家である。
主に北部から北東部一帯を勢力圏としていた。
ローヴェルト派閥とお父様の西部派閥は長年犬猿の仲であり、長年政権争いをしてきたが、ガルレアン帝国の本格的な侵略により、休戦。ローヴェルト公爵の次女を第二夫人として娶ることで仲直りした、と言うふうになっている。
実際は今でも全然ばちばち。表沙汰にならないだけで裏ではあれこれ足の引っ張り合いを繰り返していた。
「ガルレアン帝国と同盟を組めば、人の往来は更なる活発化が予想され、我が国の特産品も多く輸出できます。また、ガルレアン帝国南部地域への輸出も活発化し、それによって得られる利益は途方もないものでしょう!組まない手はありません!」
言い終わり際にこちらをチラリと見て一瞬ニヤリとしていた。
戦争に参加するのはオリオン大公爵のみ。彼らにとっては何の被害もなく、多大な恩恵に与れると思っているからだろう。
しかし、それは大きな間違いだ。
陛下はローヴェルト公の意見をじっくり聞いてから一つ頷く。
「援軍の対価は大金貨一千万。同盟によって得られるものは多いか。ふむ……当のオリオン大公、今の話、どう考える?」
「あり得ない条件です。断るべきかと」
話を振られたお父様が即答で断る。
「ほぅ、何故でしょう?こちらは貴殿が援軍に来る対価に相応しい金額をご提示しておるつもりですが」
「大金貨一千万枚が相応しい金額だと?貴国以上の大国であり神話級魔導士、壊神ロキを抱えるオルガ評議国を敵に回す対価が高々大金貨一千万枚で釣り合うはずがなかろう!」
そう怒鳴り、一歩前に出て、陛下に跪き、上告する。
「陛下!帝国と評議国との戦争に介入し、万が一評議国の怒りの矛先が我らに向かえば、我々小国は一溜まりもありません!」
「……オリオン大公、やはりロキはレインでも対処は難しいか?」
「聞き及んでいる噂が事実なのであれば、ロキはレインでは止められないかと」
壊神ロキ。
タイマンに特化した大陸最強の魔導師。己の肉体と神話級の魔導を駆使し、あらゆるものをその拳で粉砕する。
俺は軍への支援に特化とした魔導師だ。ウィンガルド戦のような例外はあれど、基本的に自分が戦うことは想定していない。そういう訓練をしてきたし、その事に時間をかけてきた。
剣も普通、槍も普通、殴り合いなんて生まれてこのかた一度も経験がない。
ロキと俺、レベルやステータスではまず間違いなく俺が上だ。
しかし、俺がロキや神鬼バンイとタイマンで戦って勝てるかと言われれば絶対に無理だ。
英雄級魔導師であったウィンガルドにすら、タイマンであったのなら、俺はなすすべなく死んでいただろう。
俺には壊神ロキを止められない。六剣奴を使ってもかなり分が悪い戦いになる。
「ふむ……なるほど。では、同盟の話は受け入れられぬな」
「陛下!何故ですか!?評議国と我が国の間には帝国やバドラキア王国があり、土地もだいぶ離れております。海で来ようにもガルレアン帝国の封鎖海域に引っ掛かり、まともな軍を我が国に送れるとは考えられぬ!それに同盟は相互防衛。我が国を落とせるだけの軍勢を送ればガルレアン帝国が評議国に攻めるでしょう!それは評議国側も分かっているはず!評議国がポルネシア王国に手を出してくることなどあり得ませぬぞ!」
ローヴェルト公は熱弁する。彼の傘下の貴族達もそうだそうだと囃し立て、ありもしないことを言うなとこちらに圧をかけてくる。
「確かに我がポルネシアと評議国は離れておる。軍隊は送れぬであろうな」
軍隊は。そう仰った陛下は続きをお父様に任せる。
「確かにローヴェルト公の言う通り、軍隊は送れぬであろうな。しかし、我々が恐れているのは壊神ロキだ」
「何を馬鹿な。ロキとて人間。人海戦術を使えばいつか事切れるであろう」
ローヴェルト公は鼻で笑う。そんなローヴェルト公を無視してお父様は俺に話しかけてきた。
「レイン」
「はい、お父様」
「お前がもし、自分のみにバフをかけ続けた場合、どれくらい持つ?」
そう聞くお父様に、俺はニコリと笑って答える。
「無限です、お父様」
俺の言葉に辺りは騒然となる。
「無限!?無限だと?」
「そんな馬鹿な!あり得ない!」
「いや、レインには魔力全吸収がある!それを使えばあるいは……」
「確か情報ではロキも魔力全吸収を持っているはず……。ならば……」
お父様は立ち上がり、辺りを見渡しながら話を続ける。
「皆も分かったようだな。我が国では壊神ロキを止められない。ロキは魔法薬を使い、数週間は不眠不休で暴れ続けるであろうな。そして…」
そこで切り、一度ぐるりと貴族達の顔を睨みつける。
「ロキが狙うのは当然大将首。つまりは貴公らの首だ。しかもそんなことを体力が回復する毎にやられてみよ。ポルネシア王国は3年と経たず壊滅する」
ロキは一度使ったら終わりの兵器ではない。体力が回復すれば何度だってポルネシア王国に攻め込めるのだ。
貴族はもちろん、陛下にだってロキの侵入を防ぐ事はできない。
それによって起こされる大混乱による損害は、大金貨一千万枚なんてものじゃない。国の存亡がかかることになる。
「以上だ。反論のあるものはいるか?」
「ぐっ……」
睨みつけられたローヴェルト公が下がり、彼の傘下の貴族達も悔しそうに俯く。
「意見はまとまったようだな。ヴェルディア殿、お聞きの通りだ。我が国は貴国とは同盟は結べない」
「ふむ……なるほど。いや、これは大変参考になりましたな!なるほどなるほど、魔力は無限に持つのか、ふむふむ……」
「チッ……」
お父様が列に戻り、軽く舌打ちをしている。
ローヴェルト公の要らぬ茶々のせいでこちらの情報を無駄に渡してしまった。
だからと言って忘れてくれ、などと頼めるはずもない。
陛下も少し苦い顔だ。欲にくらんだ貴族達を黙らせるためとはいえ、重要機密を話してしまったのだ。
「なるほどー、では、こう致しましょう!貴国と我々の同盟はなし、という事で如何でしょう?」
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