第119話 平和
俺はすぐさま自室に帰り、右腕たる六剣奴を集結させる。
「今日君達に集まってもらったのは他でもない。私の今後に関する重要な事を決めるため、皆に意見を聞きたいからです」
両手を机の上で組み、真剣な眼差しで集まった六剣奴を見渡す。
「はぁぁぁ、寝みいいいぃぃ」
「ミリーちゃん、レイン様が喋ってる最中だよ!」
「このお菓子美味しいよ、メイ」
「うまっ。こっちも食べてみな、コウ。紅茶と凄い合うよ」
……。
「昼間から惰眠を貪って三食飯食えるって本当に最高だぜ、ここは」
「ミ、ミリーちゃん、レイン様に聞こえるよ!」
「うわー、本当に美味しいねこれ。お菓子の甘味と紅茶の苦味がマッチしてるよー」
「うんうん。やっぱり貴族様のお菓子は最高だよねー」
……。
「君達、ご主人様の声が聞こえなかったみたいだね。今日君達に……」
「あ、ミリー!それ僕のお菓子だよ!」
「いいじゃねぇか。いっぱいあるんだし」
「ウルカ、これ食べてみなよ。すごく美味しいよ」
「メイ君……、あ、本当だ、これ美味しい」
「……」
君達。
「スクナ。彼等を黙らせなさい」
「はっ」
俺の命令にスクナは腰の剣に手をかけ、数センチ抜く。
ただそれだけで空気がピンと張り詰め、四人が押し黙ってしまった。あのミリーですら手掴みで食べていた焼き菓子をお皿に戻し、こちらに意識を向けてくる。
だがしかし、あれはスクナを恐れているのではない。戦闘体制に入っているのだ。完全にやる気である。
勇ましいのは結構だが、俺の身内で争わないでくれ。けしかけたの俺だけど。
「コホン。皆さんが聞く姿勢になってくれて私は大変嬉しいです。では改めて皆さんに相談したいことがあるんです」
「あぁん?どうせくだらねぇ事だろ?」
ミリーが面倒くさそうに言ってくる。
くだらないとは何だくだらないとは。俺に取っては重要な事なんだよ。
「くだらなくなどありません」
「くだらねぇよ」
「何故そう思うんです?」
「今からくだらない事話しますって顔をしてっからだよ」
そんな今から親父ギャグを言いますみたいな顔はしていないぞ。極めて真剣な眼差しで君たちを見ている。
そうだよな、コウ、メイ。
同意を求める視線をコウとメイに送る。
だが、二人の視線は明後日の方を向いていた。
「……まあいいでしょう。困ったことがあるので聞いてください。賢者三人よらば龍をも殺すという言葉もあります。ここには六人いるのですからきっといい答えを見つけ出せるはずです」
「賢者って。賢いって意味ならレイン閣下除いたら俺らの中でまともな奴はウルカくらいだぞ」
小馬鹿にしたような顔で他の四人を見渡しながらミリーがそう言った。
だがしかしな、ミリーよ。お前以外の四人は賢者とまでは行かなくても普通に勉強できるぞ。お母様がちゃんと一流の家庭教師を雇って教えたからな。
ウルカは普通に頭いいし。
うちでまともな足し算も出来ないのはお前くらいだよ。
「何だその目は?喧嘩売ってんのか?」
「ははは、そんなわけないじゃないですか」
「チッ……」
ミリーが不貞腐れてそっぽを向いてしまった。
何も言ってないんだけど。
「では、改めて皆さんに解決してほしい問題。それは私の学園入学をお父様に認めさせたいということです」
「くっだんねー」
ミリー……。
そっぽを向いていたのにしっかり聞き耳立ててくれて俺は嬉しいよ。
そんな俺の生暖かい視線に気づいたのか、さらに舌打ちをしてそっぽを向いてしまった。
相変わらず可愛い奴だ。どれ、俺が頭を撫でてやろう。魔力でな。
「むむむ……」
俺は捻りながら出した魔力をミリーの方に寄せていく。
「うおっ!気持ち悪りぃから近寄んな!」
「酷すぎる!」
そんなバイ菌みたいに扱わないでよ。泣いちゃうよ。
と、冗談のつもりだったのだが、そう取らなかった人物がいる。
「ミリー、レイン様に対して失礼よ。謝りなさい」
スクナである。
「嫌だ」
ミリーはそんなスクナを見てニヤニヤしながら断る。
「あわわわわわ、スクナさんが怒ってます!ミリーちゃん早く謝った方が……」
「嫌だね、べー」
舌を出しながらも、右手にはしっかりと大剣を握りしめてる。こいつ、やる気だ。
コウとメイはそれを眺めながらお菓子を食べてるし、アイナに関しては我関せずと静かに紅茶を飲んでいる。三人も止めなさいよ。
あ、やっぱりアイナはそのままで。死人が出ちゃうから。
「まあまあ二人とも落ち着きなさい」
「レイン様、ミリーの行動は目に余ります。周りに示しがつきません」
「ははは、今更だろ!」
ミリーの煽りにスクナの目つきが更に厳しくなる。
うーむやばそうな雰囲気だ。
「まあまあ二人ともこれでも食べて落ち着いて」
そう言いながら茶菓子を勧める。
だが、二人の険悪なムードは収まらない。
この状況はなにも今に始まった事ではなのだ。そもそも真面目なスクナと適当なミリーはあまり相性が良くないし、スクナは俺の事となると少し苛烈になる。逆にミリーは俺相手でもいつも通りすぎる。
俺自身は別に崇め奉って欲しい訳じゃないから良いのだが、スクナの気に障るのだろう。
「ミリー、レイン様に謝罪しなさい。それで許します」
「嫌だね、ばーか」
あ、これやばい。
刹那の間。
剣を大上段で振り下ろしたスクナの剣と、下から切り上げるように振り上げたミリーの大剣が激しい音と共に金属音を響かせる。
俺が間に入り、ナイフとフォークで二人の剣を止めたからだ。危ない危ない。
「スクナ、やり過ぎです」
「はっ、レイン様!申し訳ございません!」
すぐさま剣を下げ、スクナが膝をついて謝罪する。彼女はこれで良いだろう。問題はミリーだ。
「ミリー、そんなに戦いたいのなら私かアイナが相手しますよ?」
「……いいや、やめとくぜ。レイン閣下はともかくこっちは、な」
そう言ってミリーは視線だけ背後に向ける。
そこには短刀をミリーの首筋に当てたアイナが立っていた。アイナのミリーを見る目がすわっている。怖い。
アイナも割と俺への忠誠心高めだからね。しかも澄ました顔してるのに急に怒るし、口より先に手が出るからめちゃくちゃやばい奴だよ。
「アイナも座って座って。争うために呼んだわけじゃないんですよ」
七人で仲良く席を囲み、楽しくお茶をしながら相談事にのって貰おうとしただけなのに何で刃傷沙汰になるの。訳がわからないよ。
改めて三人を席に座らせると、俺も席につき、ため息を吐く。
「はぁもう良いです。貴方たちにまともな議論はできないことが改めてわかりました」
「レイン様!ご期待に添えず申し訳ございません!」
「はっはっは!分かりきったことだったな!」
「あわわわわミリーちゃん!」
「やっぱり紅茶は北方産に限るねー」
「うんうん、特にバグラク産は甘いものに合うね」
「……美味しい」
はぁ。
溜め息をつき窓から空を見上げる。雲一つない晴天。
平和な日々だ。しかし、だからこそ悩みも尽きない。困ったものだ。
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