第11話 葛藤

ーーーーーーーソフィア目線ーーーーーーー


昨日は、舞踏会で忙しかったため、今日の朝に報告を聞いた。


(ああ、何てことなの!

あの子が魔法の本をここに持ってきて読んでいたですって!)


レインが書斎にいつも行っているのは報告から聞いていた。

だがまだ読めるはずもないので放置していた。


気持ちとしては、将来本が好きな子になるんだろうな、間違いない!優秀な子になるわ!

と、楽観視していた結果がこれである。


つい侍女にきつい口調で咎めてしまった。


「何故レインが魔法の本を手に取った時、とめなかったのですか!」


すると、


「申し訳ございません奥様。


レイン様が本を読みだした時、部屋に連れに戻ろうとしたのですが、手と足で本を抱いて動かなかったもので無理に剥がすこともできずそのまま本と一緒にこちらに連れてまいりました」


「ああっ、何てことなの・・・」


と言って椅子に座り込んでしまう。


(つまりそれだけ魔法に興味があるということだわ

杞憂かもしれない、たまたま目に付いただけかもしれない

そうであってほしい)


「それで・・・今の奥様にお伝えするのは大変心苦しいのですが1つご報告があります」


「ええ、何?

聞くわ」


「レイン様は恐らくもう文字が読めております」


「なっ!!馬鹿を言わないで頂戴!!

まだ何も教えてないのよ!読めるはずがないでしょう!!

何を根拠にそう言っているのですか!?」


そんな私の剣幕に少しも動じず彼女はこう答えた。


「はい、最初、書斎に来た時は偶然かなと思っていたのですが、見ている本、そして見ている箇所があまりにも的確にこの世界についてなのです。


確かに適当に触っているような感じではありましたが、重要なところを見る時間が他と比べて少し長いのです」


これは報告にもあった。

たまたまだろうと、楽観視していた。

読めるはずがないのだ。

教えてない文字を理解できるわけがない。

故に、そこまで深く考えずに安易に「気にしなくていいわ」と、言ってしまった。


「そして、今回レイン様が見ていたこの本の中で一番長く見ていた箇所がこちら、一番前、前書き部分です。


本来ならそこまで気にしなくてもいいのですが、この本は前書きにも重要なことが書いてあります。

まさしくじっくり見るべき場所なのではないかと思います。

次に動きはバラバラでしたが全ての属性で最初に使うべき魔法欄を見たのも確認しております。

この分厚い本を短い間に6箇所もたまたま見ていた、という偶然はあり得ないかと。


ですので恐らく、レイン様は既に文字が読めるのではないかと思います」


・・・彼女の言っていることは理解した。

恐らく事実だろう。

かなり高額ではあったが、大金を積んであの人が自信を持って連れて来た人材だ。

さすがとしかいいようがない。


「ハアァ〜〜・・・」

深呼吸をしていると


「私はクビでしょうか?」


と、ほとんど表情を変えずに聞いてきた。


「いえ、今回は明らかにこちらの判断ミスですわ。

貴女に、罪はありませんわ。

よく報告してくれましたね」


「いえ、義務を果たしたまでです。

寛大なお心に感謝致します」


貴族によっては八つ当たりで処罰するような事だ。

だが、この侍女は包み隠さず話してくれた。


(信用はできますわね)


そして気づいたら子供の目が開いていた。

頭に一瞬、(いつから?)と、浮かび消える。

一瞬びっくりしてまったがなんとか心を落ち着かせ、こう聞いた。


「レインは魔法に興味があるのですか?」


と。


次の瞬間、


「アーウー」


と答えた。私にはそれが私の言葉にきちんと応答した様に思えた。


「今のは同意、よね?」


そう聞いてしまった。聞きたくなかった。

あの子は、それにも受けたとしか思えない発音で言葉を返してきた。


「オー」


と。


被害妄想かもしれない。神経質になっていたのかもしれない。

ただでさえ、この様な状況なのだ。

当然である。


だけど最悪な事を言ってしまった。

たったいま言葉が解るのではないかと思ったばかりなのに、言ってしまった。

普段ならこんなミスは絶対しない。

言葉端1つとって相手を責め立てる百戦錬磨の猛者たちが集まる舞踏会やパーティで生きてきたこの私がこんな簡単なミスをするはずがない。


だが、私も動揺していた。

目の前のありえない光景をみて、頭が真っ白になってしまっていた。


ただそこにあったのはこの子これ以上魔法に関わらせないという使命感だけだった。


だからこういってしまった。


「この子が書斎に入り、魔法書を取ろうとしたらやめさせなさい。

私が許可します」


と。


(間違えた!間違えた!

ああ、たった今この子が私達の言葉を理解してるのではないかと言ったばかりだったのに、なんということを・・・

この子は今の言葉をきっと理解したわ)


恐る恐る子供の方を見ると、絶句していた。

こっちをしっかり見て口を開けたまま微動だにしていなかった。


堪らず部屋を出て行ってしまった。





ーーーーーーソフィア視点終了ーーーーーー



顔に出ていたのかもしれない、お母様が突然部屋を出て行った。


(親って本当によくわからない。他人の全てを理解できているだなんて思っちゃあいないが、今の行動は本当に意味がわからない)


怒ってる。俺は今猛烈に怒っている。

だけど、ふと前世を思い出すと「これくらいのことはよくあった」と落ち着いてくるのだ。

この程度の理不尽、前世で腐る程体験した。


深呼吸を1つした。


お母様への好感度は少し下がったがこの程度のことは気にせず振舞えるという自信はある。


気持ちを早々に切り替える。


運がいいことに全魔法才能の技を一つずつマスターしている。

だから現状それ程詰んでいるわけではない。

魔法レベル上げ優先でレベルを上げるという当初の目標は少しも狂わない。


(とりあえず昨日はいつの間にか寝ていたからな、ステータス確認しないと。

神眼)


[レイン・デュク・ド・オリオン/Lv. 5]

[156/330](晩成型)

[男性/AB/6533/7/8]

[人族/オリオン公爵家]

[HP 39/39

MP 555/555

STR 29

VIT 22

AGI 31(+62)]


になっていた。

そして、神眼で、魔道王をもう一度見ると


火属性魔法Lv1

水属性魔法LV2

土属性魔法LV1

風属性魔法LV1

光属性魔法LV1

闇属性魔法LV1


と、なっていた。


(おお!すげー!水魔法のレベルが上がっていた!

何回で上がるのか分からなかったところは痛いが、まあそんな事は些細な問題だぜ!!)


と、先ほどの怒りも忘れ喜ぶのだった



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