第12話 メイド


魔法のレベルが一つ上がっていた事を喜んでいると、はたと気付く。


(あれ?MP上がりすぎじゃね? 前回、3レベだった時は確か300ちょいだったよな?

 250近く上がってんじゃん‼

 何で? たまたまか?)


 考えてもわからないため取り敢えず置いておく。


(さて、これから何しようか……。


 やっぱり書斎に篭ってこの世界の事について勉強しますかね)


 と、言うわけで今日も書斎にやってきて勉強していた。

 結構楽しいので全くとして苦じゃないのが助かる。

 そして楽しいとこの体のスポンジ脳と相まって相乗効果を生み出しどんどんと頭に知識が入っていくのがわかる。


 だから気付かなかったのだろう。

 俺をじっと見る視線に。


 ふと横を見てみると……。


 メイドが俺の事をガン見していた。


(あ、やべー、集中しすぎて分かってないフリすんの忘れてた。


 もしかしてもうばれてる? え? ばれちゃってます? ばれてるよね? この顔はわかってるって顔だよね?)


 すると、突然、


「分からないフリなどしなくてもよろしいですよ」


 と言われた。


(やっぱりばれてた――――!)


「先ほどまでは半信半疑でしたが今は確信いたしました。

 レイン様、貴方様はもう既に私たちの言葉を理解しておられますね」


「……」


 ビックリした。ビックリしすぎて何も言えなかった。


(えっ? なんでそこまでばれたんだ?

 そこまでヒントを与えた覚えはないぞ!

 いや、本が読めることと言葉がわかる事には関係性がある!

 言葉が分からないのに本が読めるわけがない!

 なら既に言葉が既に分かっていると解釈すべきだろう……。

 くっ、油断した)


「言葉が分かってる事を前提にして、私は不躾ながらレイン様に1つお願いがございます」


 そう言うと俺の前で正座した。


(お? なんだなんだ? なんで正座してんだ?

 突然すぎて訳わからんぞ?)


 そんな俺を無視して彼女は語り出した。


「わたしのうまれは決して良くありません。

 地図は見ておられましたね。

 私の村はこの国の下に位置するバレント王国との国境付近にあります。

 国境付近での諍いはそれほど多くありませんし、実際私が村を出るまでまともな訓練を受けた兵が来たことはほとんどありません。


 私は、家では三女だったので家を出るか、村の男でかつ長男である方と結婚するかの二つしか選択肢がありませんでした。


 私は容姿には少し自信がありました。

 奥様ほどではないにしろ周りよりは頭一つ分抜けていたという自負はあります。

 よく、周りからも言われていましたし」


(ふむ……、この世界に来てから見た女性はあまり多くないからコメントしづらいな。

 まあ、自分で言うならそうなんだろう。

 前世基準ならなかなかの美人だ。

 第二夫人よりは俺の好みだぜ)


「ですが私はそれが嫌だったのです。

 本当の、私の中身を見て欲しいと思っていました。

 今ならわかります。それはあまりにも傲慢な考えです。

 ですが、当時の私は顔で結婚するのが嫌で嫌で堪らなかったため十三の時に家を出ました。


 すぐいった街では大変運に恵まれ、大きな町のギルドに所属してすぐ女性だけのパーティに入れたのは大変幸運でした。


 それからしばらくして、実家から手紙が来ました。

 すぐに帰ってきて欲しいと。

 最初は戸惑い、無視しようかと思いましたが、わざわざ私に手紙を出すのだからただ事では無いのだろうと思い帰ってみると、姉が二人とも病気にかかっていました。


 病名はドレイン病、一日HPを1奪い、また回復を無効化させる奇病です。

 治すのには水魔法レベル7のエクスキュアか高価な薬草しかありません。


 この国でレベル7の水魔法を持つ方は当時は二人しか居らずどの方々もお国か、貴族に囲われ、まともに会うことができません。

 よしんばできたとしても多額のお金を取られることでしょう。


 ですが、私は諦められず、何とか来てもらえないか頼みに行ったのです。この身を捧げても構わないという覚悟で。


 そして門の前に行き、扉を叩き警備兵に捕まった時、旦那様が門から出てきたのです。


 そして私に優しく声をかけてくださり、その貴族様と交渉して無事私の姉達は助かりました。


 ですが、その代償として要求された額はとても払えるものではなく奴隷落ちを覚悟した私に旦那様はこう言ってくださったのです。


「ならば私の家で侍女をやりなさい。

 代金は肩代わりするから、毎月その分を君の給料から引けば良い。

 いろいろあってな、ちょうど君のように信頼できる手練れが欲しかった」と。


 そして私は誓いました。

 この方々を死んでも守ると。

 この身でできることがあるのであればなんでもすると……。


 レイン様」


 ビクッ!


(お⁉ おう……)


 突然名前を呼ばれてびっくりしてしまった。


「お願いします!

 奥様を怒らないでください!

 お嫌いにならないであげてください!

 罪は私にございます!」


 と、突然土下座をして俺にそういった。


(えっ? えっ? なんで? 何でそんな真剣に謝ってるんだ?)


 そして顔を上げ、泣きそうになりながら俺に言った。


「あの方をあの様な顔をさせてしまった罪が私にはあります。

 何でもしますから奥様をあの様な目で見るのはやめて下さいませ!」


「!!??」


(な、なんで分かったんだ!?

 この人どんだけ万能なんだよ!!)


 俺はあの瞬間、一瞬だけお母様が前世の両親と重なった。


 多分それを言っているのだろう。

 血の繋がった赤の他人を見る目だ。


 だが、評価を下すのはまだ早すぎると思い直し、すぐに止めた。

 誰にもわからないと思っていた。


 だがそれがばれていたらしい。

 とんだ高性能メイドである。


 だけど、吸い込まれそうなほど真剣な顔だった。

 こんな真剣に頼まれたことなんて前世では一度もなかった。

 どこまでも真剣でどこまでも真摯にこんな俺の事を見つめていた。


(応えてやりたいな……)

 そう思った。


 このまま何も言えないフリして無視するのもいいだろう。

 そもそもこの人が思ってるほど俺は怒ってない、というより引きずっていない。


 だが、あの俺の目をみてしまって不安になったのだろう。いつか俺がお母様を嫌いになってしまう可能性を。


(これを無視していいのか?

 このまま無視して俺は正しいのか?

 別に正義のヒーローをやるつもりはないが、今ここで無視して俺はこの世界に来た目的を果たせるのか?

 やりきったと言えるのか?


 否だ‼



 この俺にここまで真摯な頼み事をしてきた人間を無視してのうのうと生ききったと言えるのか?


 言えるわけがない!!)


 ここで俺は彼女を無視したほうが明らかに利がある。

 ここで彼女に報いなければ俺の持つアドバンテージは維持される。


 だが応えてしまうと、今の生活のこれからがわからなくなる。

 水面に石を投げ込むことになる。

 即ち俺の今後がどうなるのかがわからなくなる。


 だが俺は安心安泰安全が欲しくてこの世界に来たわけじゃない。

 納得できる人生を送るためにここに来たのだ。


 ならここは報いてやるべきだ。

 土下座しているメイドの頭をなでる。

 もう怒っていない、そう伝えられるように。

 この世界に来て初めて自分から人に触った。

 心臓がバクバクしているのがわかる。


「わかっていただけましたか?」


 と恐る恐る俺に聞いてきた。

 俺はコクリと頷きガッツポーズをする。


「? それがなにかは分かりませんがよろしくお願いします」


 伝わらなかったようだ。


 こうして秘密の共有者と、安心して本を読める環境を手に入れた。


 だが、このまま平然と本など読めるわけがない。

 メイドが気になって仕方がないため、今日はここで終わりにする。


(はあ〜今日は大変だった)


 そう思う一日だった。


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