第2話 教室での変化?

 ……一体何が起こっているんだ。

 人間、わけのわからないことがあると現実逃避したくなるものだ。


 俺は後ろからついてくる羽村を無視して学校に向かう。

 その間も羽村はにやけながらぶつぶつと何かを呟いている。


『えへへ……歩くスピードがほんの少し遅いな、素敵。道のはじっこを歩く癖があるな、好き。青信号点滅は渡らない、神……えへへ』


 距離があって何を言っているかは聞こえんが、がっつり見られているのはわかる。

 俺の通学路って人通りが少ないから、騒ぎにはなってないけど……。


 もうマジでわけわからん……なんだこれは? クラスカースト上位勢で流行ってる新しい遊びか?


 だが、学校が近くなり、生徒たちが増え始めると、その視線はなくなり、羽村さんは何気ないすまし顔で一定の距離を保ったまま俺の後ろを歩いている。


 どうやら、隠れる必要がなくなったと考えたんだろう……何度もすまんが、意味が分からん。


(は、羽村が俺の後をつけてもなんのメリットもないしなぁ……)


 俺は狐につままれた気持ちで、教室に到着する。教室には既に何人かの生徒がいたが、俺は誰とも会話することなく、自分の席である窓際の後ろから二番目の席に座る。


 そして、羽村が続けて入ってきた。羽村は入り口辺りで話し込んでいた女子と話し始める。


「あっ、羽村さん、おはよー」


「今日は遅いんだね。いつもは教室に一番のりなのに」


「おはよう。うん、ちょっと用事があってね」


「ええ、なんか嬉しそうじゃん。さてはついにいい男でも見つかったか?」


「ええ? そんなんじゃないよ~。ふふっ」


「…………」


(いつもの羽村だ……うーん、さっきのは幻覚か? 勘違いか……?)


 そんなことを考えてると、俺の席に1人の不機嫌そうなギャルがやってくる。


 ギャルの名前は今村樹奈(いまむらじゅな)。クラスカーストの上位だ。

 メイクをばっちりキメて、髪を染めている今時の女子高生。

 小柄で可愛らしいが、どこか威圧感がある。

 

「ねえ、今週末の土曜日の話だけどさあ、あんた来るんだって? 珍しい……」


「え、えっと……何のこと?」


 俺に心当たりがなく、聞き返すと、今村はさらに不機嫌になる。


「ああん? クラスの親睦会だよ。全体メールのグループで来てるだろ?」


「…………」


(どうしようびっくりするぐらい、聞いてない……なんなら、その全体メールグループって言う存在も初めて知った……)


「ああん? マジで聞いてないの? なら手違いか? たくっ、めんどくせぇ――」


 今村は大げさに溜息をついて、その場を去ろうとした時、俺達は殺気を感じた。

 いや、殺気なんて感じ取る特殊能力は持ち合わせていないんだけど……マジで背中がぞわっとした。


 それは今村も同じらしく、2人でバッと殺気の先に振り向く。

 すると――そこにはクラスメイトと話し終えた羽村がこちらに歩いてきていた。

 そして、自分の席である俺の後ろに席に着き、次の授業の準備をはじめる。


 その一連の動作に変わったところはない……優等生羽村だ。

 殺気なんて1ミリもなかった。


 ん? 今の殺気は気のせいか?


「ん? あ、ああ、まあいいや。おい、石神、あとでメールするから、その時に返事よこせ」


 今村も意味が分からないのか、首をかしげて、去っていく。


(てか、俺お前のアドレス知らないんだけど……なんなら、クラスメイト全員のアドレスを知らない……)


 そんなことを考えていると、チャイムが鳴る。


『…………『私たち』以外の女とお喋りとメール…………ユルセナイ』


 ん? 羽村今何か呟いたか? 声が小さいのと、チャイムと被って聞こえなかった……。


「…………はぁ」


 なんだか、よくわからないことが立て続けに起こったせいか、妙に心がざわついて落ち着かなかった。

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