1章ヤンデレは俺には効果がない。
第1話 全ての始まり
季節は6月の金曜日――豊島高校2年の教室。
男女30人ほどで帰りのホームルームをしている中――。
『ねぇねぇ、明日はどこに連れて行ってくれるの? デート!』
『お前が行きたいところでいいんじゃね?』
「…………」
俺、石神恭弥(いしがみ きょうや)は窓際の後ろから2番の席から、前の席でイチャついているバカップルを見て、とある真理にたどり着いた。
モテるのは罪だ(個人の見解です)。
陰キャボッチでモテない俺はそう思う……。
いや……モテないのは自分のせいという意見があるのは重々承知だ。
モテるやつは大小なりに努力をしているものは理解している。
だが……それでも聞いて欲しい。
モテるのは罪だ(個人の見解です)。
モテるという現象が、全員が平等に同じスタートラインから始まるならまだわかる。
でも実際は違う。
陰キャのおれがキムタク顔と同じ努力をして、同じようにモテるか?
俺が努力しまくればキムタクを越えられるか?
答えはNOだ。
顔、身長、見た目というのは重要だ。よく人間見た目だけではないと言うが、それは欺瞞であり、偽善だ。
見た目が全てだ(個人の見解です)。
モテない俺は思う。
外見が美少女なら、性格がフリーザでもベジータでも仲良くしたい。付き合いたい。
…………だが、残念ながらそんな考えはモテない庶民の少数意見でしかない。
だからいいんだけどね……目の前でイチャついてても……。
だけど、モテる連中はわがままだから、好きになれない。
モテる連中は相手が美少年や美少女に言い寄られても、自分が気にくわなければ……
「マジあいつしつこい。ストーカー」
「マジあいつ重い。ヤンデレ過ぎる」
とか、のたうち回るのだ。どんな贅沢だ、地獄に落ちろ。
ヤンデレ? ストーカー? 最高じゃないか! そこまで美少女に想われるとかご褒美でしかないというに……。
俺なら体重が100キロあるとか、歳の差が40歳とかのレベルでなければ、どんな相手でも言い寄られたら普通に嬉しい。
なんなら、100キロでもいいかもしれない。
ヤンデレストーカーを嫌うのは甘えだ(個人の見解です)。
選べる立場の者の傲慢だ(個人の見解です)。
「………はぁ」
俺はバカップルを見ながら、ホームルーム中にそんなことをずっと考えていた。
馬鹿すぎる……。
「それじゃあお前ら! 週末も問題起こすなよ!!」
無駄に筋骨隆々な男性教師、池崎の言葉で俺の怒りの妄想は打ち切られる。
なんだかとてもむなしい……何もしてないのに負けた気分だ。
(はぁ……帰るか……残って目立つの嫌だし。今日は新作ゲームの発売日だしな)
俺は1年前入学式の日に鮮烈に高校デビューに『大失敗』して、もう目立つのが恐くなってしまっているチキンだ。
クラスメイトには空気だと思われている。
まあ、いじめられてないだけマシか……はぁ、ここは存在感を消して立ち去ろう。
「あら……? ふふっ、石神君もう帰るの? 何か用事でもあるの?」
「え……?」
席を立つと後ろの席から凛とした声の女生徒に話かけられた。振り向くとそこには優等生で黒髪ロングの美少女の羽村友里奈(はねむらゆりな)がいる。
羽村はクラスカースト最下位である俺とは真逆の存在で、『学校のアイドル』なんていう漫画でしか聞かないような二つ名を持つやつだ。
俺みたいな陰キャとはまったく接点がない。
「あ、ああ……ちょっと買い物に……」
「そうなんだ、ねえねえ、何を買うか聞いてもいい? もしかしてゲーム?」
「え……ま、まあ」
「ふふっ、当てちゃった。石神君いつもゲームやってるもんね。ねえねえ、少しお話しない? 家の超かわいい妹がゲーム好きでね。ゲームのこと知りたいの」
「あ、ああ……」
何だこいつのコミュ力は……俺たち話したの初めてなんだけど……。
声や感情はあたたかく、見ていて気持ちがいい。
というか俺殆ど喋ってないのに会話が成立してる雰囲気が出ちゃってるんだけど……すげぇ。笑顔が可愛いし……。
俺も陰キャである前に健全な男子高校生なので……こっちから土下座しててでもお喋りしたいが……。
「…………」
俺はチラッとクラス内を見渡す。
するとクラスカースト上位のイケメンたち数人がつまらなそうにこっちを見ていた。
あれは……羽村狙いを公言してるイケメンの……名前何だっけ?
まあ、俺が羽村と話してるのが気にくわないんだろう。
「…………」
ふっ、安心しろ。
俺は陰キャでクラスカーストの底辺だが……空気をよむこととゲームは大得意だ。
履歴書に書ける。空気大好き。
ふっ、もう高校デビューに失敗した空気の読めないボンクラはここには居ない。
「んん? 石神君どうしたの考え込んじゃって……いきなり話しかけたの嫌だった?」
「いや、そうじゃないけど……ごめん、ちょっと急いでるから」
「あっ、こちらこそごめんね。引き止めちゃって……くすっ、また来週ね」
俺は軽くお辞儀をして、その場を後にした。
「…………」
完璧だ……完璧に空気。超空気。
誰も傷つけていないし、不快にもしてもいない。完全に空気になり切り、当たり障りがない受け答え。
証拠にイケメンたちは俺から興味を失い、もう各々の会話に戻っていた。
俺は空気であることに謎の自己満足得ていた。
目立つのは辛いからな。のらりくらり学園生活を送ろう――そう思っていました。はい。
◇◇◇
次の週の月曜日の早朝――。
学校に行くために家を出てしばらく歩くと、俺は視線を感じる。
「…………」
月曜日でだるいけど、天気も良く爽やかな普通の朝だ……。
だがそんないつもの朝で……決定的に違うことがある。
「えへへ……あれが、恭弥たんの家かぁ……えへへ、将来の『私たち』のお城……。うんうん、子供ができたら、少し、大きい部屋がいいけど、最初は狭い方がいい。ずっと恭弥たんといられるし、えへへ……えへへ」
それは――俺から10メートルほどの距離をとって、電柱に身を隠している我が高校のアイドル羽村がいた。
瞳には色彩がなく、何かをブツブツと口ずさんでいた。
(あ、あれ隠れてるつもりなんだろうか……某海賊のトナカイよりも隠れるの下手だろ……って、いやいや、そうじゃなくて!? あの人何してるの!? き、近所なのか……!? それにしてはなんかニタニタとよこしまな感情を感じるんだが……)
羽村にいつもの優等生オーラはなく……なんなら犯罪者のオーラを纏っている。
というか、あれ見た目美少女の犯罪者だろ。
「ど、どうなってるんだ……? 週末話した時はあんなキャラじゃなかったよな……?」
この日から俺は念願の『超美少女のヤンデレストーカー』に付きまとわれることになるのだった。
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