11 貴族様に笑顔を騎士様に歌を王子様に陰謀を

「この手の舞踏会の経験は?」

「もちろん。

 中央で踊るのも男の上で踊るのも経験済み。

 あんたは?」

「両方とも経験済みの上に会議もやっているわよ」

「会議?」


 ドレスをつけて正装の私とアマラが扉の前で軽口を叩き合う。

 出会ってすぐなのだが、なんというか本質的に馬が合うらしい。私達。

 ドレスは私が主役なので白のプリンセスドレス、アマラは従者扱いなので薄色のパーティドレスである。


「踊るのよ。会議も。

 知らなかった?」


「お嬢様。

 そろそろ……」


 私が笑うとそこでメイドのセリアに合図を送って扉を開けさせる。

 彼女はメイドだからこの会場に入れない。

 頼りの盾は買ったばかりのアマラとひっそりと壁に張り付いているはずのぽちだけ。

 さぁ。私の歓迎会という名の戦場の舞台があがる。


「シボラの街の君主に連なる者の娘で世界樹の花嫁候補生、エリー・ヘインワーズ様」


 会場に入ると耳に聞こえるのは万雷の拍手。

 それに優雅に礼を返しながら与えられた席に座る。

 さて、腹の中で何人が私に悪態をついている事やら。


「ご紹介に預かりましたシボラの街の君主に連なる者の娘で世界樹の花嫁候補生のエリー・ヘインワーズと申します。

 ここにいる皆様とお知り合いになれる事をうれしく思っています。

 どうぞよろしくお願いいたしますね」


 笑顔を張り付かせてさっと会場をチェック。

 アリオス殿下が出席している事もあって、近衛騎士団らしき騎士がちらほらと警戒している。

 こういう席では、最初に挨拶するのは一番偉い奴と決まっている。

 たとえ、敵対していても招待状を出しておくのがマナーというもので、来られるとこっちも困ってしまうのだが。


「はじめまして。お嬢さん。

 君のお父上と敵対する者だけど、挨拶をさせてもらって構わないかな?」


 このような挨拶をかましてくれた中年貴族に心当たりがある。

 豪華な貴族服に着られている感じの人のよいおっさんにしか見えないが、にこやかな笑顔なのに目が笑っていない。

 豪勢な生活をしてお腹が出ているが、それを取りつくおう事もなく自然体でこちらに話しかけてくる。

 陰謀蠢く政治の世界において無害そうに見える人物こそ警戒せよ。

 生き残っている時点で只者ではないのがこの世界の掟なのだから。


「ええ。喜んで。

 養父と敵対していても娘とは手が結べるのもこの世界では良くある事なので」


 私の返事にハンカチで汗を拭きながら、彼は自己紹介をした。

 差し出した手を握ると強く握り返される。

 値踏みに来たのだろうが、彼の目にはどう映ったのだろうか?


「ベルタの街の君主で統合王国法院議長を務めるタイタス・ベルタと申します。

 お嬢さん」


「どうぞ、よしなに。

 近く親族となるのですから、これを機会にお付き合いができたらと」


 こちらの返礼にに笑顔のままで手を話すベルタ公。

 ぞくりと何かが背中に走る。

 この人は見た目で侮ると、騙されて間違いなく失敗するタイプだ。


「あらあら。

 私のかわいい妹をいじめないでくださいな。

 義父様」


 横から声がするので振り向くと、姉設定であるエレナが微笑んでいる。

 今日は私が主役なので派手なドレスは控えているが、それでも周囲の男達を虜にする華やかさを醸し出していた。


「おや、こんなしがないおじさんを養父様と呼んでくれるのかい?

 長生きはするものだねぇ」


 実に白々しい台詞を言いながら、愛嬌のある笑みを浮かべるベルタ公。

 この無害アピールの影で何人の政敵が蹴落とされていったのやら。


「もっと長生きをしてもらいたいものですわ。

 ところで、義父様。

 私の旦那様になるお方はどちらに?」


 エレナお姉さまの目的はこれだったらしい。

 家同士の結婚だと、初夜まで顔を見ないなんて事も結構あるからだ。

 その分、子供を産んで家を傾けない程度ならば男女とも浮気がOKという緩さもある訳で。


「申し訳ない。

 出るように伝えていたのだが、放蕩息子は来ていないようだ。

 結婚したら、尻に敷いてくれたまえ」


 なお、これは嘘だというのは私だけが知っている。

 この時期のベルタ公はゲームの主人公が世界樹の花嫁に成るために万全の準備を整えていた。

 エレナお姉さまの婚約相手となる攻略キャラは、この時期主人公の護衛騎士として主人公につけられているはずなのだ。

 そこにエレナお姉さまが悪役令嬢よろしく世界樹の花嫁を狙ったのだから結果は言うまでもない。


「こんばんは。

 ヘインワーズのお嬢様達

 私はシボラの街の君主に連なる者の娘で王室の花の一輪、ロベリア・シボラよ。

 よろしくね」


 ベルタ公とエレナお姉さまの心温まる空虚なトークに割り込んできたのは、エレナお姉さまの伯母に当たるロベリア夫人である。

 南部諸侯の名族シボラ伯家の出身で、現国王の側室の一人として王宮に住んでいる。

 ヘインワーズ家がシボラ伯家を乗っ取り南部諸侯を掌握できたのは、王宮における彼女の支援が欠かせなかった。

 なお、ヘインワーズ候と結婚してヘインワーズ候が権力を握るきっかけになったのが、エレナお姉さまの母であり既にこの世に居ないゼラニウム・シボラである。

 

「これはこれはロベリア夫人。

 貴方もお祝いに駆けつけるとは、南部諸侯が集まる訳ですな」


 ベルタ公の言葉にゾクリと毒がこめられる。

 このお披露目は、世界樹の花嫁争いにおける私の、南部諸侯の総決起集会に見えなくもないからだ。

 とはいえ、まだ決定的な対立まで行ってはいない。

 いざとなったら、私を切り捨てればいいからだ。

 ゲームの中では、全てを背負ったエレナお姉さまは悪役令嬢のレッテルを張られ、ヘインワース家と南部諸侯ともども破滅を迎えることになる。


「あら、エレナさんの義理の父親になるのですから、ベルタ公も我々と同じ家族ですわ」

「はっはっは。

 そうですな」

「おほほほほほ」


 空気が。

 空気が重たい。


「こんばんは。

 お嬢様。

 よろしければ、しがない近衛騎士が無聊を慰めたいと思うのですがいかがですかな?」


 ただの近衛騎士がこの間に割って入れる訳がない。

 フレイバーテキストキャラだが、思い当たる名前を頭に浮かべつつ重たい空気を祓うべく茶番をこの騎士と共に演じてみせる。


「あら。それは嬉しいわ。

 で、騎士様は何をしてくださるのかしら?」


 騎士様は背中から取り出した月琴を取り出し奏でる。

 その寂しくも澄んだ音色に私だけでなく、ベルタ公やエレナお姉さま達まで耳を傾ける。

 この月琴は極東大帝国から交易路を流れてきた一品で、それを気に入った彼はこれを極めて王位継承争いから自ら退いていったのである。

 音が止むと同時に私を含めて会場の全員が手を叩く。


「素敵な演奏でしたわ。騎士様。

 ぜひお名前を」


 作法に則って、私は訪ねて、彼も答える。

 今度は楽士ではく、騎士でもなく、王族として。


「オークラム統合王国の君主の息子にて近衛騎士団に所属する楽士、セドリック・オークラム。

 どうぞお名前を教えていただけないでしょうか?

 お嬢様」


 そう言って、彼は茶目っ気のある笑みを私に見せてくれたのである。

 



 表向きパーティはおだやかに進み、笑顔の仮面をつけ続けて寄ってくる男をアマラに任せてロマンスの舞台たるバルコニーで一休み。

 もちろんこれも作法みたいなものでここでダンスを誘われて会場に戻るという筋書き。

 その為、このバルコニーの警備は全てヘインワーズ候の影響力が強い法院衛視隊がしている。

 王室と利害が対立する事がある封建諸侯の牙城である王室法院は、それゆえに封建諸侯間対立の解決と王家介入を避けるための自前の兵力を統合王国成立初期に作る必要があった。

 それが法院衛視隊であり。実質的な統合王国の警察組織としてその名を轟かせている。

 なお、その名前が轟いているのはもちろん悪名で、秘密警察の側面を持っているからに他ならない。

 アリオス王子が所属し彼の身辺を警護している近衛騎士団は、必然的に身分が保証された者しか入れず封建貴族たちの牙城になっている。

 ついでにいうと、『世界樹の花嫁』では私がやっている悪役令嬢とその取り巻きたちの牙城であり、その後に発生したヘインワーズ候の反乱は近衛騎士団主導で鎮圧が行われた。

 ヘインワーズおよび、法院貴族排除において王室と封建諸侯ががっちりと手を握っていた証拠がこんな所にも出ている。

 話がそれた。

 誰がやってくるのやらと思った瞬間に悪寒が走る。

 この悪寒は戦場で何度も感じて私の命を救ってくれたが、乙女ゲーでここまで悪寒を走らせるキャラは居たか?


「♪メリアスに行くのですか?

  ラベンダーのお茶、ゼラニウムの香油、清めの塩、聖水。

  あの世界樹の麓に花嫁がいる。

  かつてその人は私の為に歌を歌ってくれた」


 ああ。忘れていた。こいつがいやがった。

 攻略キャラで魔族大公サイモン・カーシー。

 法院衛視隊に所属しているエルフの騎士が主人公を誘惑するという悪魔的美男子。後の魔族大公だけど。

 こいつだけはフラグが立つと他キャラ攻略でもフラグが消えず、悪魔的誘いによって加速度的にビッチにさせてゆくというある意味正しい仕様になっており、最後彼を選ぶと新大陸ではなく魔族の花嫁として南方に行く事になる。

 そして、エンドカードは孕んだお腹がはっきり分かるサキュバス系衣装の主人公とサイモンが共に軍を率いて、崩壊したオークラム統合王国に攻め込む絵が。

 誰だよこんな誰得キャラを作ったのはと調べてみたら、欧州の妖精伝承あたりに原典があるからこれがまたたちが悪い。

 さすが開発陣。資料集めの熱意と悪意だけは一級品だ。

 この『世界樹の花嫁』というゲームは、『ザ・ロード・オブ・キング』において魅力的な悪役として人気が爆発した彼のためのファンディスクと言っても過言ではない。

 サイモンは元はエルフと魔族のハーフで、北方のエルフの集落から流れてこの地にて法院衛視隊騎士の地位を得る。

 その後統合王国崩壊によって南部に逃れ、出世と激しい権力闘争にも勝ち抜いて魔族大公の地位を得て、魔族侵攻軍司令官の一人として『ザ・ロード・オブ・キング』のボスの一人として立ちはだかる事になるのだが、手口がとにかくえぐい。

 たとえば、彼が歌っているのは待ち人が来るのを待っている姫君を飽きさせないためという言い訳もつけられる訳で。

 護衛なのであくまで隠れての歌。姿を見せないあたりがまたにくい。

 ラベンダー、ゼラニウム、塩、聖水。

 全部魔除けのアイテムです。


「♪騎士は姫君の為に角笛を吹く。

  それは始まりの音であり終末の音。

  乙女はその音に合わせて歌う。

  愛を重ねるように。

  愛を重ねるには試練が必要。

  薄絹の試練の先に姫君は待っている」


 歌にしっかり魅了の魔法を混ぜているんじゃねぇ!

 こっちの抵抗が成功していたから良かったものの、失敗していたら魅了の果てに庭の茂みでサイモン相手に裸でダンスを踊っていただろう。

 次からはレジストアイテムも常備しておかないと。


「きゅ?」


 壁に張り付いていたぽちが声を出そうとするのを手で制して私は歌う。

 騎士の歌に返事をするのは乙女の誉れ。

 

「♪騎士の為に花を捧げましょう。

  ラベンダーのお茶、ゼラニウムの香油、清めの塩、聖水を身にかけてあの人を待ちましょう。

  あの人は帰ってくるでしょう。

  貴方が悪魔で無いのならば、世界樹の麓で待っていると伝えてください」


 歌が止まった。

 悪魔の不文律に正体を知られてはいけないというのがある。 

 その意味ではアリオス殿下以上のチートキャラクターであるサイモンも、今の私の前には致命的に相性が悪かったらしい。

 『ザ・ロード・オブ・キング』時のサイモンのレベルより低く、私が強くてニューゲームのラスボスだからレジストできたのだろう。

 とはいえ、その悪役っぷりとチートキャラっぷりはこのゲームでも健在ではある。

 ……うん。

 説明して思ったが、私も人間辞めているレベルに足突っ込んで居るんだよなぁ。

 そのサイモンに未来において、


「ベッドよりも会議室で楽しめた」


と彼に言わしめた女が私だったりするのだが。


「きゅー」


 ぽちの鳴き声がサイモンが去った事を知らせる。

 あ、彼にはぜひ聞いてみたい事があったのだ。

 彼は東方騎馬民族の略奪鎮圧に出陣して、東方騎馬民族と相打ちに近い形でその命を散らしてしまうのだから。


「ねぇ。

 その身を差し出して媚を売った女の願いを聞いて王都防衛戦の侵攻軍に合流しなかった結果が、東方騎馬民族と相打ちだった訳だけどどんな気持ち?」


って。

 おっと、私怨が漏れた。

 どういう未来になるにせよ統合王国崩壊後の為には確実に消しておきたいキャラなのだが、法院衛視隊騎士ってのはエリートなんだよなぁ。

 おまけに、法院衛視隊はヘインワーズ候側に友好的なので、サイモン粛清は自らの手足をもぎかねない危険をはらんでいる。 

 なんて考えていると、足音が一つ。

 おそらくロマンスのお相手なのだろうが、誰が来るのやらと思っていたら、来たのは予想外の少年だった。


「こんばんは。

 月の綺麗な夜ですね」


「こんばんは。

 本当に月が綺麗ですわ。

 小さな騎士様」


 第三王子カルロス。

 オークラム統合王国崩壊の引き金を引いた野心家で隠しキャラ。

 先ほど会場に居たロベリア夫人から生まれた子供で、南部諸侯の没落から第三王子にされた背景を持ち、チート性能と子供特有の無邪気さと大人顔負けの野心を持った結果、中二病を発祥してアリオス王子失踪の後で第二王子セドリックと王位を争う事に。

 王家を二分する内乱に勝ったまでは良かったが、力を消耗し尽くしたオークラムに北方蛮族・東方騎馬民族・南方魔族の侵攻を押し留める力は残っていなかった。

 彼が愛妾に刺し殺された時、警護の者は誰も居なかったという末路が、この金髪秀麗のお子様の全てを表している。

 でも、彼は乙女からの人気は凄く高かった。

 おねショタだからだろうか。


「バルコニーにて麗しい姫君がため息をついているのを聞いて姫君の無聊をお慰めしようと馳せ参じました。

 どうか私の物語でお耳を汚す事をお許し願いたく」


 この無駄にがんばった感がお子様なんだよなぁ。

 あと、噛まなかったのは褒めるけど、足が震えている。

 精一杯の背伸びが見え見えなのですが。

 そこがまた可愛いんだよなぁ。

 私は視線をただ下げる事でそれを許した。


「諸侯の中では花嫁選びで賭け事をしている不届き者も多く、私はそれに憤慨しているのです。

 これほどの力を持ち、これだけの可憐さを兼ね備えている姫君ならば、きっと世界樹はお認めになるでしょう」


 はい。減点-1。

 野心先行しすぎ。

 彼の屈折した心はこのあたりから既にたまっていたか。

 近づきたくもないが、抜け駆けの褒章はあげることにしよう。

 私は音も無くすっと立ち上がり、カルロス王子に手を差し出した。


「月が綺麗ですわね。

 踊りたくなりました」


 フリーズするカルロス王子。

 野心を見せて味方ですアピールからの手を考えていたのだろうが、女は理詰めじゃなくて感情で行動する生き物だとまだ知らないと見た。

 私の手をとって連れて行く訳にはいかないだろう。

 アリオス王子を差し置いて、私に夜這いをかけた事がばれてしまうからだ。

 だから、『ばれてもいいわよ。その上で味方についてくれるんでしょう?』とただ手を差し出した私の王手にあっさりと詰んだ。

 秀麗な顔がはじめての敗北に歪む。

 その金髪を私は優しく撫でて耳元で囁いてあけた。


「授業料ですわ。

 次からはもう少し周囲にお気をつけを。

 貴方が私の手を取ってダンスに誘って頂くことを楽しみにしていますわ」


 そして私はカルロス王子を残したままバルコニーから立ち去る。

 思ったが、カルロス王子の野心を煽ったのかもしれないな。

 サイモンあたりが。

 設定資料だと、サイモンの出世のきっかけとなったのは、ロベリア夫人の愛人になったからだという。

 これ以後、ロベリア夫人は王室内に妖艶な影響力を持ち、ヘインワーズ候権勢を支えることになる。

 そういえば、カルロス王子の本当の父親はサイモンだという説もあったな。

 このあたりは示されては居ないけど、もしそうだったら私はとんでもない地雷原に立っている事になる。

 アリオス王子が主人公とくっついて新大陸に渡ったのが公式ルートのはずなのだが、それ以外のルートでもアリオス王子はついに王位に着かずに失踪という形で処理される。

 サイモンとカルロスが何かやったのか?

 知りたい所だが、法院衛視隊騎士と王族では私の手が届かない。

 会場近くの柱の前で私は立ち止まって、わざとらしくため息をついてみせた。

 音消しの魔法をかける事も忘れない。


「このようなお遊びはお控えになられるとよろしいと思いますが。殿下」


「可愛い弟が背伸びして姫君に求愛しようというのを止めるほど私は薄情ではないよ。

 それに、君も王家の後ろ盾が必要かもしれないだろう?」


 悪寒が止まらない。

 この王子、今何を言いやがった?


「ご冗談を。

 一族に連なる者でしかありませんよ。私は」


「だからだよ。

 君だけならば、救い出せる」


 王家にとってヘインワーズ粛清は規定路線とはっきり言い切りやがったぞ。おい。

 何故だ?

 個々の案件については詰みではあるが、一発振込みを食らうほどヘインワーズ家はまだ動いちゃいない。

 何の地雷をヘインワーズ候は踏んだんだ?


「ヘインワーズは王家に忠勤を尽くしておりますが」


 額からたれる冷や汗を拭く事もできずに私は言葉を慎重に選ぶ。

 このような場所とはいえ、音消しの魔法は身辺警護に障害を発生させるから必ず護衛が解除に走るからだ。

 時間はあまりない。


「だからだよ。

 潰す事で最後まで王家に貢献できる」


 そこかよ。

 商人の力の拡大に伴う法院貴族の勃興と土地持ち諸侯の軋轢、中央集権を目指す王家に世界樹の花嫁争いで喧嘩を売ってしまい、全てのヘイトを集めた上で潰せばたしかに国内はこれ以上なく安定するだろう。

 つまり、はるか昔の時点でヘインワーズ家はやりすぎたのだ。

 パリンと乾いた音が耳に響く。

 音消しの魔法が解除させられた。

 解除に四・五人ほど魔術師がへばっているだろう。ご苦労様。


「ここにおられましたか。殿下。エリー様」

「男女の睦み事に聞き耳を立てるなんて心外ですわ」

「グラモールを許してやってくれ。

 こんな身の上だと、愛の囁きですら何かを意識せずにはいられないのだよ」


 何かって『政治』、『陰謀』、『利権』のどれですか?

 こっちの突っ込みなんて気づくわけも無く、アリオス王子は一礼して私に向かって手を差し出した。

 イケメン王子の仕草と笑顔は実に見事で、思わずチョロイン発動しかかったぐらい。


「よろしければ、私と踊って頂けないでしょうか?」

「はい。喜んで」

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