美術室の怪 4
『喫茶 百鬼夜行』の看板が目に入る。私は左ウインカーを出し、慣れた細い道へ入っていく。細い道を抜けると大きな門が見える。私は門の目の前に堂々とバイクを止めてスマホを取り出した。時刻は閉店の四時を過ぎて五時前だ。
さすがに迷惑かなーとは思ってはいるんだけど。花子さんに夜行さんを連れておいでと言われてしまったし。それに……。今回のような妖怪ははじめてだった。妖怪は基本夜に活動する。そして人にいたずらを仕掛けるのが好きだが、大勢の人に見られるのは嫌うものだ。あくまでひっそり、こっそりと暮らす生き物。
あれが新しい妖怪――なのだとしたらかなり厄介だ。
正直猫の手……いや、夜行さんの手も借りたい。
私は意を決して引き戸をコンコンと叩いた。すぐに「はいは~い」と雪女のやけにご機嫌な声が聞こえる。
「お忘れ物ですか。お客さ…………ゲッ」
戸が開いて私の姿を見た瞬間、一気に渋い顔に変わる。私は苦笑いを浮かべながら「やあ」と手を上げた。
「何の用よ。お店はとっくに終わってるわよ」
「う、うん。そうなんだけど。夜行さん、いるかな」
雪女はあからさまに大きなため息を吐く。
「ま、いいわ。アイツと違ってノックしたところだけは褒めてあげる」
「アイツ……?」
「それより中に入るんでしょう。夜行さん、いるわよ」
「う、うん」
私は雪女に続いて「お邪魔しまーす」と中に入る。
中にはいつもの天狗やコナキ爺などたくさんの妖怪がいる。一部の妖怪たちは未だに私の姿を見ると談笑をやめてそそくさと隠れてしまう。
そこまで嫌われるといくら妖怪といえどショックなんだけどなぁ。
心の中でため息を吐くと窓辺でお酒をたしなんでいる夜行さんの姿が見えた。もう日が暮れているからか夜行さんから妖怪独特の気配がする。
夜行さんはお酒を飲み干すとゆっくりとこちらを向いた。
「どうした急に」
「昼間学校で新しい妖怪と接触しました」
「!」
私は夜行さんの隣に座る。と天狗が横から「どうぞ」とオレンジジュースを出してくれた。
「ありがとう」
「どうもいたしまして」
「で、どういう妖怪だったんだ」
夜行さんはグイッと眼鏡を上げて続きを促す。私はオレンジジュースを一口飲んでから『美術室の怪』について話す。もちろんトイレの花子さんにお呼ばれしていることも。
私が事の顛末について話し終えると「なるほどな」と夜行さんは立ち上がる。
「そのオレンジジュース、飲むなら早くしろ。すぐ池田高校に向かうぞ」
「え……。ちょ、ちょっと待って下さい」
夜行さんの立ち上がった背中を横目に私はグビグビとオレンジジュースを飲み干した。
「ごちそうさまっ」
夜行さんは既に外に出てしまっている。
「もうっ。待って下さいって言ったじゃないですかっ」
私は駆け足で夜行さんの背中を追った。
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