第2章 学院生活
第1話 魔法戦闘術 1/3
1
魔法学院に来てから、最初の朝を迎え――。
俺は早い時間に目が覚めた。
まだ外は日が出始めたばかりのようで、ほのかに明るい程度だ。
普段ならまだ眠っているような時間。
そんな時間に目が覚めたのは、とある異変が起きていたからだ。
なにやら、体が重いのだ。
体調不良や疲れが原因ではない。
何か『重いもの』に拘束されている。
そう思った瞬間、俺の意識は一気に覚醒した。
この魔法学院において、油断は命取りだ。
何らかの魔法生物が侵入してきた可能性がある。
ドアも窓も壊れているのだから、当然警戒しておくべきだった。
というか、この部屋で眠るべきではなかった。
そう思ったのだが――。
「むぅ」
俺が離れようとすると、その『重いもの』は更に拘束を強くした。
その拘束は、力強い二本の『腕』によってなされている。
その腕の主は、現実味がないほどに美しい女性だった。
「なんだ、夢か」
俺は再び目をつぶった。
いや、ちょっと待て。これ夢じゃないぞ。
現実味のない目覚めだったけど、これは現実だと確信できる。
俺は目を開けて、至近距離にいる女性を観察する。
金髪の美しい女性。
年齢は二十代くらいだろうか。
ボロボロになった小さなドレスを着ている。
そのドレスには見覚えがあった。
「お前、ソフィーか?」
俺はそう尋ねた。
その女性は、魂の具象化空間にいたソフィーにそっくりだったのだ。
何かの拍子に、身体が成長してしまったのだろう。
俺が声をかけると、ソフィーはゆっくりと目を開けた。
そして――。
「眠い。後二時間」
あまりに緊張感のないセリフを吐いた。
起きる気はないらしいが、とりあえずこの女性はソフィーということでよさそうだ。
俺は改めて、彼女を観察する。
身体全体が大きく成長している。
人間でいえば、大体二十歳くらいだろうか。
スラリとした長い手足は何とも言えない美しさを放っていた。
対照的に、着ていた黒のドレスからその豊満な肉体が一部はみ出ている。
もはやそれはドレスではなく、体のラインを全力で出すセクシーな下着と化していた。
特に胸と尻の部分は服がはちきれんばかりに膨らんでいて、既に数カ所が破れている。
ドレスの裾の部分からは、尻が丸出しになっている。
その尻を包むパンツは、成長に耐え切れず無残な姿となっていた。
その生々しさに、俺は生唾を飲み込む。
これが『痴』の魔王の本領発揮というやつか。
さすがの俺も、認めざるを得ない。
さて、疑問が一部解決したところで、どうするべきか考えよう。
このままでいたいという気持ちは非常に大きい。
だけど、そういうわけにもいかない。
今日は授業が始まる最初の日なのだ。
初日から遅刻とかシャレにならない。
それに、俺が現れなければ隣室にいるフィリスたちが怪しんで部屋を訪ねてくるだろう。
この状況を見られるのは、非常にまずい。
ソフィーが成長した姿を見られたら、一発で魔族だとばれてしまう。
「おい、ソフィー。起きろ」
「まだ眠いのじゃ。マベル、あと三時間」
「マベルじゃねーよ! 後、増やすな!」
「ん?」
ソフィー(大)は、眠そうにしながら目を開けた。
そして俺を見る。
そして、再び目を閉じた。
「(そうじゃった。妾の身体はネクに召喚されたんじゃった)」
「(その辺はいいから。それより、これはどういう状態なんだ?)」
「(ふむ、おっきくなっておるのう。お主、寝ぼけて妾に魔力を送り付けたのではないか? 体が『戦闘フォーム』になってしまっておるよううじゃ)」
「(戦闘フォーム?)」
「(これまでは省エネフォーム――通称ロリモードじゃったからな。ところで、ずいぶんと揺しておらんか? 女の裸など見慣れておるのだろう?)」
「(これまで見てきたのは死体だったんだよ!)」
「(ああ、成程のう。では、これはサービスじゃ)」
ソフィーは俺を抱きしめて、顔を胸にうずめさせる。
ドレスの胸元が破れているおかげで、胸の谷間にすっぽり入った。
戦闘フォームというだけあって力が強い。
とてもではないが、抜け出せそうにない。
というか、抜け出す必要性がない。
顔全体が柔らかさに包まれている。
これが母性。これが優しさ。
もう、魔王とかどうでもよくなる感触だ。
というわけで、俺は脱出を諦めた。
これは不可抗力である。
繰り返す。これは不可抗力である。
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみ……って、やっぱり駄目だ!」
「ネクよ、どうしたのだ?」
「このままだと部屋にフィリスが突入して来るかもしれない。そのとき体が大きくなってたら、お前が魔族だってバレるだろ?」
「ふむ。まぁ、その辺りは仕方あるまい」
「二度寝でも三度寝でもしていいから、とりあえず元の姿に戻ってくれ!」
「そもそも、これも元の姿なんじゃが」
「小さい子供になれって言っているんだよ!」
「あちらの体の方が好みじゃったか。まったく、業の深いじゃ。じゃが、妾が望んであの姿になるのは割と難しい」
「じゃあ、どうするんだよ!」
「ネクよ。お主が妾の姿を元に戻すがよい」
「……どうやって?」
「魔力を抜けばよい。練習がてら妾から魔力を奪ってみるのじゃ」
「そんなこと出来るのか?」
「うむ。そういう第一階梯の魔法がある。じゃが、この魔法は第一階梯ものでありながら、魔王の魔力でしか発動させることのできない特殊なものじゃ」
魔王の魔力でしか発動できない魔法。
つまり、それは『誰も知らない魔法』である可能性がある。
自分だけが使える特別な魔法――うん、素敵な響きだ。
ぜひ使えるようになっておきたい。
「でも、それって危なくないのか?」
「魔法の中にも、さほど危険ではないものはある。前のように大騒ぎになったりはせんよ」
「いや、ソフィーが危なかったりしないか?」
「ふむ。ははっ、妾の心配だったか。心配することはなかろう。妾の魂はネクの中に入っておる。体から魔力が抜けたところで、死ぬことはない。おっと、もう死んでおるんじゃった。これは一本取られたな!」
「勝手に俺がうまいこと言った感じにするな!」
しかも、スベった感じになっている。
「というより、ネクよ。実はこのおっぱいに顔をうずめた状態から抜け出したくなくて、会話を長引かせているのではあるまいな?」
「……授業さえなければ!」
「正直じゃのう」
「というか、魔王がこんなんでいいのか?」
「魔王は死んだ。妾はすでにただの小娘じゃ。おっと、今は大娘だったかの? これまた一本取られたわい」
「テンション高いな」
「まぁ、再び肉体を持つことが出来たのじゃ。テンションもアゲアゲマックスになるじゃろう」
確かに、それはそうかもしれない。
諦めていたものが偶然手に入る。
それには、何物にも代えがたい喜びがある。
魔力を手に入れた俺には、その気持ちがよく分かる。
「それでは、呪文を授けよう。妾の体に触れて『奪い吸収せよ――【アブソブ】』と唱えるのじゃ」
「もう触れてるけど。主に、顔でおっぱいに」
「ならば、手で妾の背中――心臓の高さのあたりに触れよ」
俺は言われた通りの位置に手を触れる。
しっとりとした暖かな手触りが、非常に気持ちいい。
「では、呪文を唱えるがよい」
「分かった。奪い吸収せよ――【アブソブ】」
呪文を唱えると同時に、魔法が発動する。
同時に、魔力が俺の体内に流れ込んでくるのを感じた。
その瞬間――。
「ああんっ!?」
ソフィーは慌てて口をふさぐ。
だが、俺はその『嬌声』を聞き逃さなかった。
流石は【痴】の魔王直伝の魔法だ。
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃ。じゃから、胸の中で喋るでない!」
「聞こえなかった! 今、なんて言った?」
「だから――ふぁ、ああん……、ふ……」
間違いない。これは喘ぎ声だ。
どうやら【アブソブ】で魔力を吸収する際に、性的な刺激を与えてしまうらしい。
だとすれば――。
「ネク、一旦中止に……はぁん……ん……だから――中止にしろと言っておるじゃろうが!」
「聞こえない! 断固として俺は何も聞こえていない!」
「この阿呆……あんっ、……いいから、離れよ! んっ!」
ソフィーは俺の顔を掴み、おっぱいから引き剥がそうとした。
だが、俺は離れなかった。
俺は与えられた責務を果たさなければならないのだ。
責任感の強い俺がその責務から逃れようとするなどあり得ない。
「(俺には、ソフィーを元の姿に戻す責任がある! それまでは、何があろうと引き下がるわけにはいかない!)」
「(そ、そうか。そこまで妾のおっぱいが好きか)」
「(言うまでもない!)」
「(そうかそうか。ならば――おっぱいに包まれて死ぬがよい)」
ソフィーは俺の頭に両腕を回す。
そして、頭蓋骨を圧迫し始め――あ、やばい。これは死ぬ。
「(死にたくなければ、離れるがよい)」
「(この程度で諦められるか!)」
俺はその両のおっぱいの間を舐めた。
出来る限りねっとりと、べろりと、味わいながら舐めた。
「ふぉぉぉおおおお!?」
これでソフィーの腕が緩む。
俺はそう考えていたのだが――現実は逆だった。
ソフィーは突然の感覚に腕に込められた力をさらに強くした。
「ギブギブギブギブ!」
「あぁん……っ。って、だから、おっぱいで喋るな! さっさと離れるがよい!」
「だったら、腕を俺から離せ!」
「腕を? ああ、うむ。そうじゃったな」
ソフィーは腕の力を緩めた。
そして、再度両手で俺の頭を掴み、胸から引っぺがした。
息を荒くしたソフィーは、赤面しながら怒りを俺に向ける。
「お主、とんでもないことをしてくれたのう……」
「いや、ちょっと待て。そもそもの原因は、お前が俺の顔をお前のおっぱいで包み込んだことにあるだろう。俺はそのおっぱいの魅力にあらがえなかっただけだ。悪いのはその魔性の乳だ」
「そ、そうなのか」
「そうだ! その柔らかさは、人を魔の道に誘い込む魔乳といえる! その胸に包まれて陥落しないものなどいないだろう! さすがは魔王だ!」
「う、うむ。それは、まぁ、そうじゃな」
「ゆえに、本能的な欲望に身を任せてしまった俺は全く悪くない! 今でも、俺はその乳に心惹かれている! 魔王のおっぱい万歳!」
俺の勢いに、ソフィーはドン引きしていた。
だが、ここで止めるわけにはいかない。
普通に考えて、おっぱいを嘗め回す必要はなかった。
それを何としても誤魔化す必要があるのだ。
2
三分後。
俺とソフィーは、ベッドで向かい合って座っていた。
「まぁ、あれじゃのう。お互いに、冷静ではなかった部分があるというか、冷静じゃない部分ばかりじゃった。先ほどまでのことは、なかったことにせぬか?」
「あ、ああ。そうだな」
「それでじゃ、時間もないことじゃし、さっきの続きをすまそうではないか」
「ああ、そうだな。それじゃあ、失礼して――」
俺はソフィーのおっぱいに顔をうずめようとした。
だが、その気配を読み取ったソフィーが、即座に俺の頬にビンタを食らわせた。
「お主、懲りぬのう」
「今のは俺が普通に悪かった。それで、どうすればいいんだ?」
「妾が背中を向けるから、そこから魔力を抜き取るがよい」
「ああ、分かった」
ソフィーはベッドの上で、背中をこちらに向けた。
俺はその背中に手を触れ――。
「吸い取れ――【アブソブ】」
魔法を発動させる。
その瞬間、ソフィーの身体がビクッと動いたが、俺は気付かなかったふりをした。
そして少しすると、ソフィーの体に異変が起こり始めた。
その体躯が、少しずつ小さくなってきたのだ。
逆の成長が早送りでなされているような変化がソフィーに起きていた。
胸や尻はしぼみ、段々と子供らしい体つきになっていく。
そんな中――。
「むぅ……、ふぅ……、……、あんむっ――!」
ソフィーから、くぐもった声が漏れ出ていた。
なかなか刺激的ではあるが、体躯が幼くなる過程での声だと思うと、微妙な気分ではあった。
一分もすると、ソフィーの体は元の状態に戻っていた。
だが、今でもソフィーは顔を赤くして息を荒くしている。
幼女状態で。
なかなか犯罪的な絵面である。
「これで完了だな」
「うむ、そうじゃな」
ソフィーはベッドの上で立ち上がる。
すると、パンツがストンと落ちた。
体が大きくなったときに、伸びてしまったのだ。
破れていたりもするし、このまま放っておくのもよくないだろう。
昨日ハルから買ったばかりだが、雑巾にでもするしかないか。
そう考え、俺はパンツに手を伸ばした。
そして、それに一瞬触れた瞬間――。
俺の顔はソフィーによって蹴られていた。
突然の事態に、俺はベッドから落ちて転がる。
「おい、こら、ソフィー。何をするんだよ?」
「こっちのセリフじゃ! まごうことなく、こちらのセリフじゃ! お主、妾のパンツに触れようとしたじゃろ! ぶっ殺すぞ!」
ソフィーは息を荒くしながら叫んだ。
手負いの野生動物のように、こちらを威嚇している。
「いや、そこまで怒ることか?」
「……、……、……説明をするわけにはいかぬ。じゃが、これ以上この件について追及するようであれば、妾はお主を殺さねばならぬ」
「そうなれば、お前も完全に死ぬことになるぞ」
「それでも、乙女にはやらねばならぬときがあるのじゃ!」
「全裸を見られても平気そうだったのに、パンツに触れられたくはないのか。まったく、理解に苦しむ」
「それを理解した時は、お主が死ぬときじゃ」
ソフィーはそう言って、パンツを自ら回収した。
さて、これでひと段落と言ったところか。
それよりも、準備をしないといけない。
今日は魔法学院に入ってから最初の授業があるのだ。
そう思って立ち上がると――。
「いやいや、何終わった感を出しておるのじゃ」
「終わっただろ?」
「そうかのう? 体が大きくなった際、服が破れてしまったようなのじゃ。これは客観的に見て、まずい状況ではないかの? 事情を知らぬ者が見れば、妾が襲われたと思われても仕方があるまい」
確かに、その通りだ。
ぱっと見だけでも、色々とマズい状態だ。
しかも、今はノーパン。
かといって、ハルから買った子供用サイズの服は他にないし――。
「言っておくが、このままここに置いていくことは許さんぞ。この身体が腐りかねん」
「そうだよな――」
だからと言って、授業に遅れるわけにもいかない。
初日から遅刻でもしようものなら、あの教師たちからどんな仕打ちを受ける事か。
だったら、まぁ――。
残された手段は、一つだけだ。
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