第2話 追放されたら妹と一緒に風呂に入ることになった 2/5
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風呂。
それは、お湯をため込んで体を清めるための施設だ。
このアンダーウッド家では、一人につき一つ浴槽が用意されている。
この家はネクロマンサーの家系。
体に特殊なにおいがつく作業を手ずから行うことも多い。
それゆえ、各自が時間をかけてにおいを落とせるようにする必要があるのだ。
それはあくまでも、身体の匂いと落とすためのもの。
誰かと一緒に入るためのものではない。
(一体、どんな意図があるというんだ……)
俺はイヴの表情からそれを読み取ろうとした。
だが、何一つ情報を読み取ることは出来なかった。
意図どころか、感情すら見て取れない。
だから、俺は素直に聞いてみることにした。
「それで、どうして俺と風呂に?」
「これまで私たちの間には確執がありました。それはアンダーウッドという『家』によって作り出されたものですが、その確執を洗い流しておきたいのです。いかがでしょう、お兄様」
「俺に意見を聞いているんだよな?」
「はい」
「それじゃあ、その杖は?」
長さ20㎝ほどの合金で作られた杖。
イヴはそれを右手に持ち、先端を俺に向けていた。
杖先には魔力が集まっており、いつでも魔法を発動させることが出来る状態だ。
「ああ、これは杖ですよ?」
「それは分かるよ! 何で、それを俺に向けているかと聞いているんだ!」
「お気になさらず」
「気にするよ! 俺が断ったら、どうする気だよ!?」
「御心配には及びません。私が、お兄様の意思に反するようなことをするような人間に見えますか?」
「思いっきり見えるけど!」
「お兄様の目は節穴ですね。少なくとも、今回、私はお兄様の意思に反するようなことはしませんよ」
「だったら、その杖をどうやって使う――」
「麻痺せよ――【パラライズ】」
「うわっ!?」
イヴの杖先から光が飛び出す。
俺は反射的に身体を逸らし、すんでのところでその光を躱した。
いつも無表情なイヴが、少しだけ驚いた表情を浮かべる。
「今の、よく避けられましたね。完全に不意打ち出来るタイミングだと思ったのですが」
「魔力がほとんどないからな! これくらいできないと、生きていけな――」
俺が言い終える前に、イヴの杖先から再度光が発せられた。
呪文の詠唱もなく。
予備動作もなかった。
完全に想定外で、警戒を全くしていなかった。
そんなものを避けられるはずがない。
その光は俺の体を貫き、体の感覚を俺から奪った。
立つこともままならなくなり、地面に倒れそうになる。
だが――。
「浮いて――【フロット】」
俺の体は倒れる前に、宙に浮いていた。
イヴは浮いた状態の俺の手をつかみ、俺を連れて部屋から出た。
体の自由が利かない俺は、抵抗することも出来なかった。
傍から見たらシュールな光景だろう。
浮遊するパンツ一丁の男を美少女が引き回しているのだ。
実際、これを目撃した使用人たちは俺をゴミでも見るかのような目で見ていた。
俺、被害者なのに!
「おい、イヴ。お前、俺の意に反するようなことはしないんじゃなかったのか!」
「ええ、ですから、お兄様の意に反してはいません」
「魔法で無理やり移動させておいて、何を言ってるんだ?」
「お兄様は、本心では私と一緒にお風呂に入って、私の裸体を隅から隅まで観察したいと思っているはずです。性的な目で私を見ることを熱望しているはずです。でも、それを口にするわけにはいかない。だから、私は気を利かせて、強引に事を進めているのです」
「的外れにもほどがある!?」
「照れる必要はありません」
「照れてるわけじゃないからな!?」
俺が連れていかれた先は、イヴ専用の浴室だった。
俺はこの部屋に久しぶり入ることになったのだが――。
うん、正直ドン引きした。
なにせ、浴室の壁や浴槽に無数の魔方陣が描かれているのだ。
「ちょっと、イヴ! イヴさん! この魔方陣って何!?」
「魔方陣? 何のことでしょうか? ああ、この『おしゃれな模様』のことですか」
「ごまかし方が雑!? これ、ここで何らかの魔術的儀式を行っているだろ! 俺、何されるの!?」
「ああ、性的な意図があるかということでしょうか?」
「違うよ!? 俺をなんだと思っているんだよ! そうじゃなくて――」
俺が言い終わる前に、イヴはその腕を一閃した。
不意を打つ一撃。
気が付くと、イヴの手には俺のパンツが掴まれていた。
なんという早業――これが天才少女の実力というものなのか。
「さぁ、それじゃあ、お風呂に入ってください」
俺の体は、緑色の液体で満たされている浴槽に落とされた。
体の自由が利かないが、顔だけは湯の外に出すことが出来た。
とりあえず、ここで窒息死というオチだけは避けられたようだ。
「イヴ。そろそろこの麻痺の魔法、解除してくれないか?」
「ああ、そうですね。解除せよ――【ディスペ】」
イヴの呪文によって、俺は体の自由を取り戻した。
俺は顔を完全に浴槽から出し、普通に風呂に入る体制になった。
とりあえず、これで命の危険はない。
いや、窒息死は免れたが、他の形での落命は回避できていないのかもしれない。
俺は今、得体のしれない無数の魔法陣の中にいるのだ。
しかも、妙にヌルヌルした緑色の液体に包まれている。
「イヴ――」
俺はこの状況を脱するべく、イヴに呼びかける。
それと同時にイヴのいる方向を向いた。
そこにあったのは、おっぱいだった。
まだまだ成長途中ながら、確かに膨らんでいるおっぱいだった。
その先には、桃色の乳首がちょこんと存在する。
いつの間にかドレスを脱いでいたイヴは、パンツ一枚だけの姿となっていた。
華奢でありながらも、成熟過程にある女性の身体。
それを恥ずかしがる素振りも見せず、無造作に晒している。
「な……」
「お兄様。落ち着いてください」
「これで落ち着いていられるか!」
「性的興奮を沈めてください」
「性的興奮はしてないからな!」
そう、俺は断じて性的興奮はしていない。
何のためらいもなく素っ裸になっている妹に驚いただけだ。
「それで、この緑色の液体は何なんだ?」
「勿論、入浴剤ですよ?」
「そうなのか?」
「ええ、入浴時に浴槽に入れるものですから、実態がいかなるものであろうとそれは入浴剤と呼ぶことが出来ます」
「怖いこというな!」
とりあえず、体が溶け出したりはしていない。
人体に有害な液体というわけではなさそうだ。多分。
「それで、実際のところ、これは何なんだ?」
「ただの魔力伝導率を上げる液体です。私がお風呂に入るときは、いつもこれを入れています」
「そうなのか」
「はい」
イヴは上半身裸のまま答えた。
その躰はあまりに華奢。
小さな胸の下には、華奢なあばら骨が浮き出ている。
手も足も細く、力を籠めれば折れてしまいそうだ。
彼女が裸であるという事実よりも、そちらのほうが気になってしまう。
そんなことを考えながらイヴの半裸を眺めていたら、イヴは最後の砦となるパンツに両手をかけた。
そして、物おじすることなくそれを下ろす。
未成熟な鼠径部が晒されるが、それを気にする様子はない。
左足を大きく上げて、パンツから右足を抜く。
パンツが左足首まで落ちると、イヴはしゃがんでそれを手に取る。
その一連の動きの中で、幼さの残る裸体の色々な部分が丸見えになっていた。
俺は、そんなイヴから目を離すことが出来なかった。
とは言っても、そこに下心があるわけではない。
さすがに、妹に対する下心は生まれない。
あるとすれば、兄として妹の行く末を案じる心くらいか。
上心である。
そんな言葉はないだろうが。
まぁ、実際のところは、わが身可愛さが理由だ。
イヴから目を離すと、次の瞬間に自分がどうなっているか予想がつかないのだ。
気が付けば、死ぬよりもひどい状況になっていても不思議はない。
それに備えるためには、イヴを観察し続けることが必要。
その一挙手一投足に注目し、些細なことも見逃さないようにしなければならない。
だから、俺はイヴから目を離さなかった。
イヴは脱いだパンツと服を丸めて部屋の端に投げてから――。
「それじゃあ、私も失礼しますね」
そう言って、浴槽に手をかけた。
そのままの姿勢で、身体を浴槽の中に入れるため、足を大きく上げる。
必然的に、彼女の股の部分が俺の目の前に晒されている。
本来隠すべき部位が、俺の眼前をゆっくりと通り過ぎた。
中々、鬼気迫る光景である。
イヴも、まったく恥じらう様子はなかった。
そのまま片足を浴槽の中に入れ、その後にもう片方の足も浴槽に入れた。
俺のことは、異性どころか人間とすら思っていないのかもしれない。
あるいは、兄として過大な信頼をしているとか。
それはないか。
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