第4集 限界集落

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黒い箱が届いた。一メートル四方の箱を荒地に置くと、滑らかに草を刈っていく。刈るというより食べているのか箱が通った後は雑草が均一に芝生のようになる。「便利じゃなー」車椅子の爺さんが呟き、「これで畑が作れるわ」と久しぶりに笑う。黒い箱は「ポチ」という名になった。


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「ポチ」がぽーんと飛んで川に入ると、数倍の大きさになり、またぽーんと飛んで畑に水を撒く。「かわいいのう」爺さんが呟く。「ポチもよう働くのう」「んだ。まめに働く」8km先の隣家の婆さんが「タマ」に腰掛けたまま、車椅子の爺さんと喋っている。「タマ、お前も手伝ってこい」タマは器用に転がって婆さんを下ろすと、川にぽーんと飛ぶ。


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その村は桃源郷ならぬ、黒源郷と呼ばれる。桃こそ無いが、幾つもの黒い箱が田畑を耕し、草を刈る。美しい田園風景に惹かれた観光客。空き家が整備されて民泊になり、黒い箱が接待やら調理やら掃除をする。ベットの爺さんの人差し指が震えてながらポチを撫でる。「ポチ」の額に映った決済承諾ボタンが押され、民泊の売上金がまた来年の種と肥料になる。


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最後の村民が旅立った後も、黒い箱は田畑を耕し、観光客をもてなす。地産地消、里山保全、循環型社会、無人地帯が金を産むと視察団が方々からやってくる。今日も爺さんの家だった場所に、視察団がやってきた。『5名様ご案内』黒い箱に映った文字。その後ろを連なるのも黒い箱、五つだった。

 

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