第9話 正義感のミスアンダースタンディング
「ルーン、戦闘に参加させてくれないと経験値がもらえないじゃないか」
ベルディはステータス画面を見ながら不満を漏らした。経験値の分子がまったく増えていない。
『けいけんち? 良く分かりませんがアタシが剣となり盾となってお守りするのでベルディ様は何もしなくていいんです』
ふたりはノルーンザンドッドを離れ、サムゲン大森林を抜けた先にある『バーセルス王国』に向かっていた。ルネール村で出会った英雄ルドを要する騎士国家である。
「ふぅ……レベル7から微動だにしない」
ベルディはため息をつく。ベルードでの姿とベルディの姿でレベルが別になるよう設定していたことが仇となった。
それぞれにオリジナリティあるギフトを設定させ、ベルディは初心者キャラとしてギルドを渡り歩いたり潜入したりして、ベルードは魔王としてプレイヤーの憧れとなるようロールプレイしていた。
「おかしいな……このモンスターの経験値ってこんなに低くないはずだけど」
得られる経験値はゲームの10分の1~100分の1ほど、あまりの低さに理不尽を感させる程であった。
「もしかして……ゾンブーラさんの統合に伴う細かい数値調整ってこのことか?」
レベル7という数値は、ルネール村に住む村長の孫『カリル』がレベル6、逞しく生きる町娘と同等の強さということになる。
「
連なる岩壁に沿って王国に向かっているふたり。高さ30メートルはある岩壁の先は海が広がっている。打ち付ける波の音が小さく聞こえ、幾分かの塩の香りが漂っていた。
パラパラ……小さな小石が音を立てて降ってきた。この感じは巨大な岩が落ちてくる前触れ。
「ベルディ様、除去してきます」
ルーンが飛び立とうとしたときだった。森から女性の大きな声が響き渡った──「あぶなーーい!!」
その声にルーンの動きが一瞬止まった。叫んだ女性が続けて何かを発しているが、巨大な岩は周囲の音をかき消しながら転げ岩肌を削りながら落下する。
「ベルディ様、破壊します。少々の埃はご容赦を」
「ありがとう。じゃあルーンに任せるよ」
迫りくる岩、巨大な音が周囲の不安を掻き立て大きさを想起させる。そこへ剣を携えたひとりの男が必死に手を伸ばして走って来た。
「心配しなくて大丈夫だよ」
ベルディの声は届かない。
男の持つ剣が転がる岩に届いた瞬間──破壊音と共に巨大な岩の破片が周囲に飛び散った。
勢いのついた破片は岩壁や地面、草むらへと消えていく。殆どはその場に落下したが積み上げられた山を見て男は「これ……俺がやったのか……」と驚きの表情で呟いた。
『何言ってるのよー、アタシが殴ったの。剣で岩が破壊できるわけないでしょ』
ルーンの声は届かない。
├ イヤ・イヤー …… 条件に当てはまる者にしか声が聞こえなくなる ┤
ベルディがカスタムショッピングで購入したアイテム。つけた条件は『姿が見える者』。
バスリングの面々はルーンの姿が見える。つまり、声が届く
本音は、余計なことを言われても困るし無から声が聞こえたら怪しまれてしまうことだった。
「凄いじゃないかギリ」
男の仲間が走ってきた。片手斧と盾を装備した大男、弓剣を携えた小柄な女性。
「やるじゃん、あんな巨大な岩を粉砕するなんて英雄を目指しているだけあるわね」
小柄な女性がツンとした口調で発した。
大男が「俺たちは着実に強くなっている。抜けたマイリーは悔しがるだろうな」と斧を振り上げた。
「あ、ありがとう……おかげで助かったよ」
『ベルディ様、岩を壊したのはワタシですよ! こんな人間に礼なんて言う必要ないですって』
「 (悪いなルーン、ちょっと思うところがあるんだ。任せてくれないか)」
ルーンは『分かりました』と頷くと、ふわふわと宙を上がっていった。
「サムゲン大森林のひとり歩きは危ないぞ。ちょうどバーセルスに戻るところだから送ってやろう」
「流石は英雄ルドを追っかけているだけあるな。あぁ、こいつはギリで僕はマロン。この小さいのがメープル。よろしくね」
「誰が小さいだ。お前がでかすぎるだけだよ。ちゃんとお姉様を敬いなさい。気弱なくせに」
なんとなく力関係が分かる。カッコよさと機能を追求した装備のギリは身長170センチ程、片手斧と盾を装備した魔道服の大男マロンは200越え、どことなく制服をモチーフにしたシャープな服装のメープルは156センチといったところだろうか。
┣ 人間:ギリ・アウッター LV.16 剣士 ┫
┣ 人間:マロン・ローンズ LV.14 魔導士 ┫
┣ 人間:メープル・ローンズ LV.15 弓剣士 ┫
ベルディは相手のレベルを知ることが出来るライブラリングを使って調べると小さく呟いた。
「ゲームでもこんなNPCは見たことない……ということはプレイヤーか。だとすればこの世界に引きずられた?」
しかし、混乱しながらも大男が魔導士で小柄な女性が戦士というギャップに気になって頭が回らなかった。
「どうした? あー、ギャップだろ。良く言われるんだ、
「回復が抜けたから、みんなの負担を少しでも減らそうと
「姉さんはそんなへましないからマロンは魔道装備でいいって言ったじゃん。遠距離は弓で、近距離は剣で守ってやるから。この弓剣ば万能なのよ」
それぞれの武器を見せては自慢してきた。
「あの……ベルディです。みなさんはここで何を?」
「あぁ、俺たちは『ポーネルス』。依頼をこなしながら上を目指してる冒険者ってところだ」
ふわふわと降りてくるルーン。
『人間なんて放っておいてとっとと
「 (さっきの巫女って言ってたから、手掛かりもないしついて行こうと思うんだ)」
『なるほど、《巫女たち》シュナシスターズですね。あの|娘たち……服装が反則よ……みんな可愛いって言うんだもん……服装に騙されているだけなのに ブツブツ』
頬を膨らませるルーンを放ってベルディはギリに声をかけた。
「冒険者ですか、それは頼もしい。街まで案内してもらえますか」
どこにいるか分からない仲間たちの情報を掴むため、ベルディは
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