第6話 喪失感のエブリシング
ルーン文字だけでなく、ゲーム内には未だ解き明かされていないクエストも多く存在し、スタートラインにさえ辿り着けないクエストが数多にあった。
「攻略サイトにも一般的なクエストしか載ってなかったしなぁ……数が限られたアイテムも多かったし……ベルードの長刀もユニークなんだよなぁ、偶然手に入れたんだっけ」
ベルディは目的地に向かいながら、これまでゲームで経験してきたこと、この世界に取り込まれてからのことを比較していた。
相変わらずルーンが「る~んぱーんち」で襲い来るモンスターを殲滅してくれるので安心して歩けていた。 ……レベルは上がらないけど。
「ベルディ様、見えて来ました」
森林の開けた場所にポツンと
全容は巨大な
ノルーンザンドッドは13層に分かれ、9名の|巫女連合〈シュナシスターズ〉が周辺の警備と第1層を守護し、2層~11層を|従者〈バスリング〉が守護している。
「おかしいな。この辺りまでくれば誰かしら飛んでくるんだけど」
「ベルディー様~。もしかしたらアタシたちのことを驚かそうとしてるんじゃないですか」
「ははは、サプライズのつもりだったんだけど」
ベルディはそう願っていたが、近づくにつれて不吉な予感に表情がかたくなっていた。ルーンも時折何かに怯えたような仕草を見せる。
神殿はあの時のままの姿。ギリシア神殿を思わせる柱を外周に、天空城をイメージした建物。
「天空好きの『ゆめゆめさん』とギリシア神話好きの『組曲さん』に戦国時代好きの『半蔵』さんが揉めに揉めてデザインしたんだっけ」
ベルディは思い出しニヤケていた。
立ち並ぶ石造りの柱を抜けて扉へと近づく。この空気感に懐かしさを感じている。ゲームでは味わえなかった触感や匂感、空気の味が加わって最高潮といった表情。
重々しい2枚扉を開くと、臨場感のある金属が引きずられる音が耳に飛び込む。変わらぬ景色だが、人の気配はなく静寂が支配していた。
『シュナシスターズ、集合』
ルーンが口を開いた。返事はなくただただその声だけが広い広いエントランスの中で響いた。
「ルーン、何かおかしいぞ」
ストレージから『エッセンスリング』を取り出して使用……「王室へ」
├ エッセンスリング ┤ ── ユグドラシスで領地を作成したプレイヤーに配布される。自領内で権限がある場所であればどこにでも移動できる
……一瞬光るも不思議な力で効果はかき消された。
『ベルディ様、シュナシスターズが誰も来ません……』
「ルーン、とりあえず円柱塔に飛ぼう」
エッセンスリングがあるのであまり蜃気殿には足を運ぶことがなかった。昔の記憶を頼りに奥へと進む。通路、通路、通路、ワープスポットを目指して……。
「おかしいな。防衛システムが全く働いていない……荒らされた形跡はないのが救いだが……」
「ベルディ様、あそこです」
部屋の中にはありふれた魔法陣が書かれたワープスポットがある。これに入れば円柱塔へ…… バチッ …… 思わず一歩後ずさる。
このワープスポットは見つけた者を無条件に最下層へ飛べるように配置されたもの。今までこんな挙動は見たことがない。
ゲームでの経験の中から同様な出来事が無かったかと頭を巡らせる。巡らせる。巡らせる。
……ゾワッ! 恐怖を感じさせる気配。
「魔法陣か」
魔法陣の上に光が集約して何かを形作った。
この挙動は人がワープしてきたもの……ベルディは誰が出てくるのだろうと固唾を飲んだ。
光はひとがたを作るとボワッと蒸気となって靄を作り出した。
真っ白な靄が深い深い青く黒々しい色へと変化していく。感じたことのある気配、どことない懐かしさを感じた瞬間。素早く移動した……その先にはルーン。
靄がルーンの周囲をアメーバのように動き回る。必死に抵抗しているがなされるがまま体を奪われた。
脱力したままフワフワと浮かんでいる。イレギュラーな出来事にベルディはどうすることも出来ない。
ルーンの目が赤い光を発し顔を上げた。その表情は今までに見たこともないほど憎悪に満ち溢れたもの。そして、開かれる口……言葉は2重にも3重にも重なって聞こえた。
『ベルード・ウル・スクディ。待ってたぞ』
「その声は……まさか……ゾンブーラさん」
『ベルード・ウル・スクディの名は貰う。この瞬間がベルードの最期だ』
城内に響き渡ったのは聞き馴染みのある声──機械音声──
「
ゲームの設定が変更されました。
・人格を2つ以上もつプレイヤーは例外を除いて低レベルキャラクターに統合されます。
・ゲーム内で購入できるアイテムに制限がかかりました。レア5からレア3までに引き下げられます。
・その他転移者の細かい数値調整がおこなわれました。
今回の設定変更による再起動、ロールバックは必要ありません。
」
機械音声の木霊が不安の余韻を残した。ニヤニヤしているゾンブーラ、何が起きているか分からず立ち尽くすベルディ。
「うまくいったな。高レベルプレイヤーの意識を剥がすのに時間がかかったよ。ベルードの姿になったとき変な感じになっただろう」
ゾンブーラの耳をつく嫌な高笑いが音となって響く。
「一体何が起こっているんだ。この世界は一体何なんだ」
『ゲームは張り合いがなくっちゃいけない。チートしていたお前に俺たちの苦しみは分からないかもしれんが……目的も達成したしお前を使ってゲームしようと思ったわけだ』
「チート? チートなんてしたことないけぞ」
『知っているかいないかはどうでもいい、お前がチートしていたのは事実だ』
ベルディーはチートを使った事実に覚えは無い。ただただ立ち尽くすことしか出来なかった。
「…………」
『まぁいい。お前はベルードを失い
「何をしようっていうんだ」
『ゲームって言ったろ。お前が俺のところまでチートなしでたどりつけるか試そうってわけだ。最強になっちゃうと楽しみがなくてな』
「ゾンブーラさん、どうしちゃったんだ。メンバーを助けることが生きがいだったのに」
『俺を変えたのはお前たちだ……知っているか知らないかなんてどうでもいい。いや、知っていた方が俺が本気だって分かってもらえるかな』
「何がゾンブーラサンさんをそこまで……」
ゾンブーラは語り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます