第5話 倫理観のゴールドラッシュ
ベルディは、鬱蒼とした森の中を歩いていた。
遠くでは咆哮が響き、雑踏に合わせて逃げ惑う小動物が草木の間でざわめいている。
サムゲン大森林。その名の通りこの森は草食生物の楽園であり、一方でそれを狙った肉食動物も数多く存在する。並みの冒険者なら一撃で粉砕するほどの魔物なども生息していた。
「ルーンぱ~んち」
ルーンの攻撃が炸裂する。パンチだけでレベルを上げた彼女の攻撃力はとても高い。並みいる敵を一撃で葬っていく。
「ルーン、これじゃあレベルが上がらないじゃないか」
「良いんですよ、ベルディー様は何もしなくって。全てアタシに任せておけばいーんです」
クネクネしながらくっつくルーン。幽霊とはいえ物理的には存在しているので、くっつけば柔らかな感触が伝わる。違うことと言えばせいぜいひんやりしている程度だ。
ここで説明しておこう。
──ユグドラシスではキャラメイクするときにギフトを設定する。魔法の適性を選択する者もいれば、特定の属性魔法をピンポイントに指定する者もいる。フリーワードをいくつも組み合わせることでオリジナルのギフトを作成することも可能だ。
ギフトはいわばキャラの生命線。隠し通すのが通例である。割り振れる基礎能力値やギフトのスキル値は
ベルードに設定したギフトは『付与』。『効果アップ・付与』にパワーアップしていた。ベルディに設定したギフトは『どこでもショッピング』。これもまたパワーアップしていた。
──どこでもショッピングとは、フリーワードを組み合わせて作ったスキル。どの場所にいても世界で売られる全ての商品を購入することができるのだ──
それが『カスタム・ショッピング』に変化していた。効果は全ての次元で存在するアイテムを対価と引き換えに購入することが出来るというものだった。
全てのステータス、アイテム、
「ベルディ様、あそこにルーンの気配があります」
傍目からは何も見えない、特定の条件を満たす者しか感知することのできない結界。条件を満たす者と物理的に接触していれば、その者も条件を満たしたことと同義になる。
「ごめん」
一言呟いてルーンに触れた。ゲームならなんてことない行動もリアルとなるとそうもいかない。
「まったくベルディ様ぁ~。どんどん触っちゃってください! むしろ全て奪ってくれてもいいんですよ」
脱ぎ始めるルーン。ベルディは慌ててルーンの洋服を整えると、さっきの出来事が無かったかのように「もしかして、ルネール村での出来事がルーンを感知するフラグだったのか」と心のドキドキを抑えきれず変な抑揚になりながら発した。
「ベルディ様、ぐっとルーンの気配が近づいてきました」
景色はサムゲン大森林と同じ森の中。しかし周囲に立ち並ぶ木々がかなり大きい。ルーンの適性がないベルディも不思議な力を感じるほどの空気感だった。
「〇△◇・・・」
風に乗って届いた声が耳に入った。何を喋っているのかは分からないがこの先にいる人の声、身を低くして草の中に隠れ気配を殺して声の方へ向かった。
「これ以上は気取られるか、ルーン、偵察を頼む」
「ベルディ様、あんなの粉砕しちゃえばいいじゃないですか。様子なんて見なくても」
それもひとつの手かもしれない。しかし、善良なNPCのキルはどんなペナルティーを追うかは未知数。それをベルディは危惧していた。何よりも中心にいたのが『アレン』だったことが大きい。
「この姿は善良な市民として振る舞いたいんだ」
「はい。余計なことを申し訳ありません」
ふわふわと人だかりに向かって飛んでいくルーン。
遠目から見えるのは何かに向かって作業するアレンを中心に人々が覗き込んでいる構図。しばらくすると、周囲に生えている草を人々が狩り始めた。
「……あれは薬草か。いや普通の薬草となんか違う」
アレンの呟きと共に薬草が一瞬光った。
「ベルディ様ぁ」
「ルーンか、何か分かったか」
「はい、どうやらあの男がルーン文字を使って周囲の薬草を強化しているようです」
「アレンが? ただのNPCじゃ……そうか、これがルネール村のポーションの秘密か」
ルネール村のポーションの秘密とは、アレンがルーン文字で強化した薬草を使ったものだった。しかしバーセルス兵を完全回復させるまで至らなかったことを考えると
「安価に
ルーンは拳の甲を力強くこちらに向けた。そこにはボヤっと光る不思議な文字が刻印されていた。ルーンはどや顔になって口を開く。
「
ユグドラシスが稼働してからルーン文字をゲットしたという話は聞いたことがない。
超強力なギフトはゲームを有利に進められるため、上位プレイヤーは隠す傾向にある。
他のギルドからはルーン文字ゲットを隠しているのだろうと方々から言われて濁していたが、ベルディは実物を見るのは初めてだった。
「よし、それではノルーンザンドッドに一度戻ろう」
「はい!」
収穫しているルネールの村民たちにバレないように結界を抜け、その場を立ち去った。まさかルネール村の薬草にルーン文字が関わっている考えていなかった。
「ベルディ様、はいこれ。薬草に
渡されたのは『
ポーション材料の中でも最上位の品で、特定のクエストやモンスターからしか入手できない超貴重品。このアイテムを使ってポーションを作ることこそが
「すごい。これって中々手には入らないし売ってくれる人も少ないんだよねぇ」
「そうなんですか」。手元の薬草に
「まさかこんな方法で霊芝草を手に入れる方法があるとは」
ベルディは『カスタムショッピング』で霊芝草を確認した。ゲームで非売品だったこのアイテムを狙って何時間もモンスターを狩ったのはいい思い出。
……「って、買えるようになっている……しかもめっちゃ高い」
脳裏には、これを売りまくればお金稼げるんじゃね……なんて脳内の悪魔が囁いてきた。繰り広げられる死闘。最終的には『お金は沢山あるし、心もとなくなってきたらやろう』ということに落ち着いた。
「テレッテッテッテー、ベルディは金策をゲットした」 ──思わず口を衝く。
「ベルディ様、なんですかそれ?」 ──ルーンが不思議そうにこちらを見つめた。
「い、いや何でもない。ほら、ノルーンザンドッドへ向かおう」
ベルディは足早に目的地に向かって進みだした。
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