第4話 離人感のアバターキャラ
何千、何万の光芒がベルードに降り注ぐ。光に飲み込まれ彼の姿は見えない。
真円状に抉れていく地、勝利を確信したイングリッドの口元には笑みが浮かぶが、本能からくる恐怖からか額に汗を滲ませていた。
「こんなものかな」
光の隙間からチラリチラリと見える蒼い鎧。突き上げた右拳を頂点にまるで傘に遮られた雨のように光が流れていく。
「ひぃ……なんだお前は……」
右拳の見つめながら左手をさするベルード。「くすぐったいな。よし、なんとなく分かった」とポツリ。視線と共にイングリッドに言葉を投げかけた。
「ありがとうイングリッドくん。君のおかげでこの世界での階級と威力を再確認できたよ」
尻もちをつくイングリッド、後ろへ後ろへずっていく。
「お前のことは忘れねえぞー、絶対に仕返ししてやるー」と、負け犬のような遠吠えをあげ、尻尾を巻いて去っていった。
「そろそろ戻らないとな」
「すまない……誰かは知らないが助かった。部下たちには申し訳ないことをした」
「諦めるのはまだ早いな。ここには素晴らしいポーションがあるのだろう。部下たちの息はまだあるようだが」
倒れている部下たち。苦しみに顔を歪め小刻みに震えながら痛みに耐えている。アレンを中心に村人が必死にポーションを与えているが回復の兆しはない。
「ダメージがひどすぎてポーションで命を維持するのがやっとなんだ……私が出来ることはもう安らかに眠らせて──」
「──英雄ルドが何を言っているんだ」──ストレージからポーションの束を取り出すベルード。彼の元へ
「今、どこから……いや、それどころではないな。可能性があるなら試してみたい。感謝する」
ルドはポーションを抱え、足を引きずりながら仲間の元へと向かった。傷口から滴る血を気にも留めず。
「自分より仲間を早く回復したいと思う気概、素晴らしいな」
ルドの後ろ姿を眺めるベルードにルーンがゆらゆらと近づいてきた。
『自分を回復した方が早く動けると思うんですけど~』
「おぉ、ルーン、目を覚ましたか」
『目を覚ましたかじゃないですよ! スリープポーションを飲ませるなんてひどくないですか!』
「まぁそう言うな。新しいスキルを得た実験だと思ってくれ。ルーンだからこそ信頼して試したんだ」
跳ね上がるルーン。頬を赤らめる。そしていきなり服を脱ぎだした。
「ベルード様が眠らせて私のは
「ちょっとやめなさい。それより早く戻らないとな。引き続き監視は頼んだぞ」
ベルードははだけたルーンを置いて地下の隠し部屋に戻るのだった。
◇ ◆ ◆
ベルードは自分の姿でいるとき、自分自身を俯瞰しているような……まるで剥がれていくような感覚に陥っていた。不思議な体験に手のひらを見つめ、考え込んでいた。
徐々に近づく足音……。勢いよく扉が開かれた。
「ベルディー、無事だった?」
カリルの元気な声が響く。真っ赤に染まったままの服を気にすることもなく。
「大丈夫? 血が出ているみたいだけど」
カリルは両腕を広げて服を見回した、真っ赤な血が染みた服に気づく。
「大丈夫よ。大きな怪我をしちゃったけど凄いポーションで治してもらったの」
嬉しそうに元気ポーズをとる。
「怪我がないなら良かった」
「ごめんね。私が誘ったばかりにこんな目にあって」
「気にしないで。この世界の事をいろいろ知れたから良かったよ」
ルーンは面白くなさそうな顔で見下ろしていた。
『ベルード様に笑顔を向けるなんて……まぁ、ベルード様とあの女じゃぁ住む世界が違うからねぇ絶対にアタシの方が有利なんだから』
ニコニコと腕を組んむカリル。ベルディは小さく「ゾンブーラさんはどんな性格設定をしたんだ」と呟いた。
地下室から出ると村は荒れていた。スーメリア兵との戦いの跡があちこちに残り、深く抉れた足跡はの身体強化されたスーメリア兵のものだろう。
ベルディはベルードの姿で見たこの村の感覚に戸惑っていた。思わず必要以上にキョロキョロと見回してしていた。
「大丈夫よ。命は戻せないけど村は復興できるからね」
悲しみを押し殺した笑顔だった。
しかし……いきなり入り込んでしまった
「先ずは街に行ってみようかな」
現実に目を向けるとカリルの顔が目の前にあった。思わず「わぁ」と後ずさってしまうベルディ。それを見たカリルはニコリと微笑んだ。
「考え事してたの? 急にボーとするからどうしたのかと思っちゃった」
「ごめんごめん、これからどうしようかなぁって考えてさ」
「それならこの村に住んだらいいんじゃないかな……ベルディなら大歓迎よ」
微笑むベルディ。しかし一瞬で真顔に戻ると大きく首を振った。
「ありがとうカリル。でも、バーセルス王国に行ってギルド登録することにするよ。自分の力でこの世界を見て回りたいんだ」
ジオラマフィギュアで作ったキャラには突拍子もない恰好も多かった。
「ベルディの姿をメインに行動した方がこの世界ではトラブルが無さそうだな」
ベルードになったときの恐怖がベルディの頭の中を渦巻いている。それは自分が自分じゃないような不思議な感覚、まるで
「そう…………あの……私、あなたに運命的な何かを感じるの。恋とか好きとかじゃない……もっと大きな何かを……」
カリルは悲しげだった。対照的に上空でふわふわ浮いているルーンは悔しそうな表情で地団駄を踏んでいる。
そんな表情が何かを感じ取ったのか一気に変わった。
「ベルディ様、ルーンの気配がします」
遠くを見つめるように言葉を放つルーン、その目線はサムゲン大森林に向かっていた。
ルーン文字──ユグドラシスに25個あると言われる究極魔法に使われるユニークアイテム。ユグドラシスのサービスが開始してから誰ひとり手にした者はいない。更に、ルーン文字を宿すにはキャラクリエイトの段階でそのギフトを選択しておかねばならないのだ。
「だからゾンブーラさんはノルーンザンドッドの為にルーン用の
ルーン文字をギフトとして選択したキャラはステータスの伸びが超大器晩成型な上にその他のスキルや魔法といった類を得ることが出来ない。得られるのはルーン文字を介したルーン魔法のみなのだ。
「懐かしいなぁ。みんなでレベル上げしたっけ。姿は見えないといってもダメージは受けるもんなぁ。全体攻撃がきつかった」
昔を思い出して遠い目になっていた。
『やめて下さいよぉベルディ様~。恥ずかしいじゃないですか』
傍から見ればひとりごとを言っているベルディ。恐る恐るカリルが「誰と話しているの? 女のヒトの声が聞こえたような」と声を掛けてきた。
「今はまだやらなくちゃならないことが残ってるんだ。また戻ってくるからその時にゆっくり話そう」
新たな決意を胸に拳を強く握りしめ、ルーンが感じた先、サムゲン大森林へと向かうのであった。
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