第3話 正義感のディファレンス
<<・・・・ ルネール村広場に場所を移し時間は少し遡る。
「隊長、賊はほぼ制圧しました」
バーセルス王国騎兵隊隊長ルド、長髪のイケメンでモテモテだが、騎士道を重んじ真面目で融通が利かない。王国の英雄4傑のひとりとして名馳せていた。
「あぁ、みな、ご苦労だった。すまんな俺の
「分かってますって隊長、このポーションは下手な回復魔法よりいい仕事しますからねぇ」
「ちげぇねぇ。それにバーセルス、マレイム、サクチュアリの3国のバランスを保つ重要な村でもありますから」
賊たちは逃げ帰り、騎兵隊たちが雑談をしている時だった。
「うぐ……」
突然、一人の騎兵隊員が意識を失ったかのように倒れた。腹を貫通していたが幸いにも槍は急所を外れていた。
「どうした」
金属音を響かせながらバタバタと駆けてくる音。
「何者だ」
「ヒャーハッハッハ」
甲高い笑い声をあげながら槍兵の間をひとりの男が偉そうに歩いてきた。
「久しぶりですねぇ、ルドさん」
装飾の施された魔道ローブに身を包んだ男。
「お前は、スーメリアのイングリッド……」
「覚えておいてくれましたか。ルド、我がスーメリア国の兵士として戦う決心はつけてくれましたか」
ニヤリとするイングリッド。すぐさまルドは反論する。
「それは断ったはずだ。私はバーセルス王に忠誠を誓っている」
「それはそれは……まぁ、この村で遊ぶのもいい加減に飽きましてねぇ。そろそろこの村を滅ぼそうと思いまして」
「まさか……今まで賊を送り込んできたのはスーメリアなのか」
手の甲を頬に当て高らかに笑う。この男はスーメリア国の第3王子『イングリッド』。彼の国は人間の身体能力を極限まで引き出す魔法研究を主要としている。
「察しが良いですね。この村を滅ぼしてバーセルスがポーションを独占しようとしたと噂でも流せばすぐに不戦略条約も崩壊しますからねぇ。衰退したところを攻め込むんですよ」
「ウォォォォ、そんなことさせないぞ!」
ルドは一直線にイングリッドに向かって駆けた。
「隊長、私たちは槍兵を何とかします。おい、みんな陣を敷くぞ!」
バーセルス王国騎兵隊は戦闘態勢をとった。その様子を見てほくそ笑むイングリッドは、嫌味ったらしい声で叫んだ。
「ほら、そこのふたりはルドを、残りは雑魚をやりなさい」
イングリッドは両親指と人差し指で丸い輪を作ると輝きだした。中央から
本来であれば一介の兵士が英雄ルドに太刀打ちできるはずがない。しかし、身体機能を強化したふたりの兵士に防戦するしかなかった。
「くそぅ、なんだこいつらは……尋常じゃない力……スーメリアの術か……」
ルドの口から呟かれる言葉は苦悶の表情に満ちていた」
「さすがは英雄ルドだ。生命力をエネルギーとした機能強化を施したふたりの猛攻に耐えるとは……では、これではどうですか」
ルドに向けられた挑戦的な言葉と共に、イングリッドの手から再び
ミシッ── スーメリア兵の兜にヒビ。次の瞬間、弾く音が響いた。破片は飛び散り兵士たちの顔が露わになる。
ひとまわり大きくなった肢体、鬼人のような表情。とても人間とは思えない風貌。
「「ウググ……殺す……殺す」」
兵士たちの言葉は凶悪なまでに低く殺気に満ちていた。その様子をイングリッドは得意気な笑みを浮かべながら見ていた。
「やっぱり下級兵士はダメですねぇ。これくらいで人格が飛んでしまう」
「イングリッド、何てことを……」
「おやおやルドさん、こっちに意識を向けている場合ではありませんよ」
更に激しい攻撃が続く。ルドは必死で攻撃を受け流すが、次第に不利な状況に陥っていく。
「た……たいちょう……」
騎兵隊のかすれ声が微かに響いた。ルドは音の方へ目線を向けた。
隙をついたイングリッドの雷魔法がルドの胸部に直撃。
「ぐはぁ」
胸部への強烈な衝撃と電気が身体を貫き甚大なダメージを与える。ルドは堪らず片膝をついた。しかし心は折れていない。彼の目は強くイングリッドに向けられていた。
「さすがは英雄様だ。直撃しても生きているとはすばらしい。しかし、次は更に強いのがいきますよ……いや、下級兵で充分か……、ルドの首を獲った者に褒美をやろう」
イングリッドの言葉に、槍兵がルドを取り囲んで一気に距離を詰めて槍を突いた。
ガッキーーン──空気を振動させるほどの金属音が周囲に響く。
槍の先に立っているのは……。
「ふぅ……まったく。登場してみればいきなりこれですか」
ベルード・ウル・スクディ。全ての槍がフルプレートによって折り曲げられていた。……いや、一本の槍だけが兜の目出し部に突き刺さっていた。
「なんだお前は……。というか、なんで槍が顔に突き刺さって生きてるんだよ!」
突き刺さった槍の柄を掴むとゆっくりと引き抜いて体の前に突き出した。
├ ディビジョン ┤ ── 手に持った槍がいくつにも分裂する。
├ ホーミング ┤ ── 槍が全ての槍兵たちを突き差す。
「この程度ですか。これでは話しになりません」
いきなり現れた蒼海のフルプレートを身に纏った姿を驚愕の目で見つめていた。ルドたち騎兵隊を圧倒した槍兵を一瞬で掃討した脅威にイングリッドは腰が引けていた。
「な、なんだお前は! いきなり出てきて! 俺様はスーメリア第3王子のイングリッドだ! 俺様に敵意を向けるという事はスーメリアに敵意を向けるという事だぞ」
飛び散る唾液。喉を枯らして叫ぶ姿が余裕の無さを醸し出す。
仁王立ちになってポツリと呟いた。
「ベルード・ウル・スクディだ」
「なんだいきなり……何を言ってやがる!」
「自己紹介ですよ」──気迫を徐々に大きくして畏れを醸し出していく──「ベルード・ウル・スクディ。よろしくお願いします」
「何をふざけたことを……仕方ない……スーメリアの最高秘術を見せてやろう」
スーメリアと言えば
イングリッドの周りが光り出す。生み出された光を体全体で吸収し、光と共に彼の体が再構成されるように輪郭が変化していく。
ベルードはゲームでも1度しか見たことのないスーメリアの秘術に興奮を覚えていた。
「これは凄い。スーメリアの
「その名を知っているとわ。しかしもう遅い、王家に連なる俺のマミスレートは一味違う。イングリッド・プリンシパリティとなった俺を崇め奉るのだ!」
イングリッドの変態したその姿、4枚の羽根を持つ真っ白な天使。手には美しい槌を持っていた。リアルで見るその姿はとても美しい。
「この程度……第7階級程度の力で威張るとは……どうしようもないな……」
「な……何を馬鹿なことを! 天使の力だぞ! 時間制限さえなければひとりで国をも亡ぼせる存在なんだぞ!」
必死にエネルギーを集めるプリンシパリティ・イングリッド。黄色く光るエネルギーの密度が濃くなっていく。
それを黙って見続けるベルード。
『
光芒が放たれる。何本もの光が折り重なって太く美しい光となった。天の裁きともとれるその光は、ベルードに向かって一直線に降り注いだ。
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