第18話 後ろの正面

 真・マリアライト学院には珍しいシステムが導入されていた。


 そらが奨励システム。

 各自に毎月5ポイントづつ与えられ、称賛すべき行動を取った相手にに付与する。

 それを累計して学期ごとに表彰する


 そして4月の月間発表が掲示板に張り出されていた。それを見ている中で、ひとり悔しそうな顔を浮かべる人物がいた。



『信じられない、私よりポイントを貰っている人がいるなんて』


 御手洗杏ミタライアンは内心で呟く。


『……だいたいこのポイント数。普通じゃないわよね、もしかして不正をしているんじゃ、少し調べてみる必要があるわね』


 中学から風紀委員を務め、品行方正を旨に学院生活を送ってきた、自他ともに認める委員長気質な女子である。


 その彼女が目を付けた生徒。


 初月にしてポイント百という数値を叩き出した『伊依・コーネリット』

 だが、彼女は知らなかった。その狙いを付けた対象が、なんとすぐ後ろに立っていた事に。




「イヨリちゃん流石です。4月からいきなりのトップですよ」


 咲輝ちゃんに連れられて行った先で僕は掲示板に自分の名前が出ていることを知った。


「まあ、当然っしょ。あたしらのクラスの天使ちゃんは格がちがうからね」


 一緒に付いてきていた安藤さんも自分の事のように喜ぶ。


 内部進学組の二人にとってはお馴染みの様子みたいだ。


「えっと、特に僕は何もしていないと思うけど」


 事実、僕は皆に助けられてばかりで自分では特に何もしていないのだ。奨励システムでここまでポイントを集めた理由が分からなかった。


「天使様。そんなことはないですぞ、もはや初日にして私達のクラスの中心となった方ですからね。当然というより必然です」


 会った時とは大分キャラが変わった二本松さん。なんでも軍師ポジションを狙っているとか本人が言ってたけど、一体どこと戦をするつもりなのだろう? ものすごく疑問だ。


 そして、そんな僕達の声に反応したのか前にいた女子がいきなり振り向くと、凄い目力で僕を見てきた。


「あっ」


 眼力に気圧され、思わず声がもれる。

 彼女は入学式で代表務めてた子だ。

 見た目から優等生な恰好な美人で、確か名前は……。


「アンコじゃん、ひさーって、残念だったね。中学から続いたナンバーワンポジ、うちらの天使ちゃんが頂いちゃったから」


 僕のかわりというか安藤さんが名前を告げる。

 そうそう彼女の名前は。


「安藤クミ、何度も言ってますが私はアンですコは不要です!」


「えっ、だってそっちのほうが語呂がいいじゃんか、ミタラシアンコって、なんか美味しそうだし、ニッヒヒ」


「だーかーらー、何度言えば分かるんですか、私の名前はミタライアンです。いい加減その崩した服装と同じで、認識共々修整しなさい」 


 そう言って安藤さんを叱りつけるが、当の安藤さんはなれた様子で飄々と話しを聞き流す。

 そんな安藤さんの態度に、御手洗さんはため息を吐くと、矛先をこちらへと向けてきた。


「アナタが伊依・コーネリットさんてすか?」


「はい、直接お会いするのは初めてですね。入学式でのスピーチ威風堂々として素晴らしかったです」


 僕はあのときの印象を伝えると、笑顔で挨拶をした。



「あっの、えっ、えっと、あっありがとうございます」


「ふっふ、珍しいな御手洗が戸惑うなんて、イヨリちゃんにあてられたか」


 どうやら咲輝ちゃんも知り合いらしく、御手洗さんに声を掛けていた。


「もう櫻庭さん、からかわないでちょうだい。ちょっと、驚いただけで……そのコーネリットさん、失礼な事をお聞きしますがその髪は?」


 どうやら服装の乱れの延長で僕の髪色を気にしたようだ。


「ああ、これは地毛ですよ」


「ごめんなさい、そんな綺麗な髪色染めてどうにかなるレベルじゃないから分かっていたけど、念のためにね」


 さっきまでの力強い視線が嘘のように萎縮し謝ってくれた御手洗さん。


「御手洗。相変わらずの風紀委員ぷりだけど、イヨリちゃんに難癖付けるつもりなら……」


 ただ咲輝ちゃんは、その事事態が気に入らなかったようで威圧感を放つ。


「咲輝ちゃんストップ、ストッープ。御手洗さんは確認しただけだろうからさ……でも、僕のために怒ってくれてありがとね」


 僕は咲輝ちゃんをたしなめつつ、お礼を兼ねて姉さん譲りのウインクをする。

 僕の思いが伝わったのか咲輝ちゃんはうっとりと僕を見つめると頷くと頭を下げてくる。

 素直な反応に思わず撫で撫でしてしまう。

 まあ、咲輝ちゃんの方が背が高いから構図的にはしまらないけど。


「あっ、ズルいんだ。サーキ、そうやっていつも天使ちゃん独り占めするし」


 つい癖みたいな感じで咲輝ちゃんを撫で撫でしてしまい、安藤さんが不平をこぼす。

 これは流された僕が悪いので安藤さんの矛先をこちらに向ける。


「ごめん、ごめん、安藤さん。咲輝ちゃんとは幼馴染でどうしても気安くなってしまってさ」


「あー、それもだしー、いい加減わたしも名前でよんで欲しいしー、そのだめかな?」


 何故か最後の語尾は自信なさげだった。


「わかったよ、クミちゃん。これで良いかな?」


「…………もう一回」


「クミちゃん」


「…………」


 僕が名前呼びしたら安藤さん改め、クミちゃんが動かなくなった。

 そんなクミちゃんをツンツンしながら二本松さんが口を開く。


「あー、これ完全に逝っちゃいましたね……ちなみに私のことは軍師チエミーとお呼び下され」


 そしてドサクサに紛れて二本松さんも名前呼びを要求してくる。別に名前で呼ぶのは構わないが、呼ぶたびに軍師をつけるのはどうかと思うので。


「チエちゃん」


 普通に智恵美を縮めて呼んでみた。


「……うへっ、ウヘヘヘっ」


 それを終始見ていた咲輝ちゃんが目を細め、感慨深く呟いた。


「二本松も逝ったか」


 そして、そんなやり取りを見ていた御手洗さんもボソリと呟いた。


「あのー、私のこと忘れてませんか?」と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る