第17話 誰も居なくなった

 目の前から去っていく大好きだった人。


 ようやく夢から目覚めて、本当に好きだったのは誰だったのか思い出せたのに。


 私に突きつけられたのは無情な拒絶と別れの言葉だった。


 あんなに好き合っていたのに。

 ちょっと私が容姿に騙されて、少しだけ寄り道していただけなのに、彼は、伊依君は私をアッサリと捨ててしまった。


 付き合っていた時には、あんなに尽くしてあげたのにだ。

 そもそもあの時だって彼女の家に他の男がいれば怒るところだ。なのに伊依君はオメオメと引き下がって帰っていった。

 そうだよ、ちゃんとあそこで伊依君がちゃんと止めていれば、私は芳虎君なんて薄情な人間と付き合ったりしなかったんだ。


 もし、そうしてくれていれば、今でも綺麗で可愛い伊依君の隣に居られたのに……。


 そこで鮮明に思い出してしまった。

 初めて伊依君に会って話した時のことを、初めてクラスが同じになった時のことを、それは今のように煌めく金髪で、まるでお人形さんみたいに凄く綺麗で……私は女の子だと思ってたのに凄く照れて恥ずかしくなった。

 そんな私に優しく微笑みかけて挨拶してくれた。そんな些細な出来事で、でも私にとっては衝撃的だった。あの綺麗な人の隣は同じように輝いているに違いないと思った。


 だから私は積極的に話しかけて、同じように綺麗になりたくて、少し早いお洒落も頑張って、ようやく彼女になったのに……もし、芳虎君、いいや東元みたいなクソ野郎に騙されていなければ、今でも私は皆に羨望の眼差しで見てもらえたのに。

 だけど、そのポジションはポっと出の女に奪われてしまった。


 悔しかった。

 自然と涙がこぼれるほどに。


 そして気付けば私は全てを失っていた。


 大好きだった伊依君も。

 騙されていたけど顔は良くて女子には人気があった東元も。

 そして無理してレベルの高い学校を選んでしまった為、中学の時の友人も別の学校だ。


 しかも、東元なんかに拘って周りの女子を牽制していたせいで、同じクラスと五組の女子からは既に敵視されている。


 輝いていた筈の私の居場所。それが何もないただの空き地のようだ。


 私はそんなことを考えてながら歩いているといつの間にか家に着いていた。


 自分の部屋に入り、自分自身の不幸を嘆いてひとしきり泣き喚くと少しだけスッキリした。


 そして一つの考えに思い至る。

 だいたいあの優しかった伊依君が、あそこまで私を嫌うだなんてあり得ないと。


 きっと隣りにいた女が私を警戒してある事無い事吹き込んだに違いない。


 そうでなきゃ、伊依君がこの私を、なんであそこまで嫌うのか理由がつかないからだ。


 でも、いま完全にあの女に洗脳されているような伊依君に何を言ったところで聞き入れてはくれないだろう。


 だから、まずは証明しないといけない、本当に好きだったのは伊依君だということを、そのためにはまず東元をどうにかしないといけない。


 だいたいあの男はわざわざ私が伊依君との距離を置いてまで親しくしてやったのに、あっさり裏切った最低の男だ。

 

 だからこそ最初の計画では、私が伊依君とよりを戻すことで、自分が裏切った女に自分が好きになった相手を取られて悔しがる顔が見たかった。

 私が伊依君の一番だと分からせて、「ざまあみろ」と言ってやるつもりだった。


 でも、その計画も上手く行かなかった。

 元を正せば東元のせいで。


 そうなのだ、考えれば考えるほど私にとって疫病神なのは東元芳虎という男なのだ。


 私がまた皆に羨ましがられるような煌めく場所に返り咲くためにはアイツを何とかして、伊依君の誤解を解かないとイケないのだ。


 そのためにはどうすれば良いか、いつの間にか私はそのことだけを考えるようになっていた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る