第16話 元カノ来たりて
放課後に咲輝ちゃんと帰っていると、予想外の人物が僕達に声を掛けてきた。
僕としては二度と関わり合いになりたくない相手である西宮紗栄里だ。
「久しぶりね。随分変わったけど伊依君だよね」
無視しても良かったが、ある意味過去の情けない自分との決別する意味でもちゃんと話すいい機会だと思った。
でも、その前に咲輝ちゃんが反応した。
「気安くイヨリちゃんの名前を呼ぶな」
僕を庇うように前に出ると今まで見たことのない敵意を向ける。
「あなたこそ誰よ、私は伊依君に話があるんだから」
ある意味咲輝ちゃんの殺気に近い敵意を向けられて平然と言い返してくるのは凄いと思う。
「大丈夫だよ、咲輝ちゃん。折角だから話は聞こうと思ってて」
まあ、話の予想は東元の事だろうと想像はつく。
「……イヨリちゃんがそう言うなら」
「さすが伊依君」
嬉しそうに僕を褒めるけど、なにが流石なのかは分からない。
「話はここでいいのかな、長くなるようなら場所を変える?」
「うん、出来れば二人っきりになれる所が良いな」
何故かモジモジしてまるで告白するような雰囲気を醸し出す西宮さん。
「いや、ありえないでしょう」
何が狙いか分からないけど、この人と二人になるのは不味い気がして速攻で断る。
今の雰囲気からして、どうやら東元に関する話ではないようだ。
「えっ!?」
そして、な僕にぜ断られたのかが分からない風な顔をする西宮さん。
「……ある意味凄いよね。君って僕に何をしたのか自覚ある?」
「なにって……ごめんなさい、ずっと連絡してなくて受験勉強で手一杯で」
わざとなのか見当違いの事を言い始める。
「いやいや、そんなことじゃなくてさ、君って東元と二股してたでしょう」
「ちっ、違う、違うのあれはたまたま遊びに来てただけで彼とは付き合ってないの」
今、付き合ってないのは、東元から「別れた」と聞いているから知っている。
でも、彼女の今の言い方だとそもそも付き合っていないような言い方だ。
「あのさ、流石に無理があるよ。それに彼と付き合っていないからって僕に今更何のようがあるのさ」
「えっと、それは……」
西宮さんはチラチラと咲輝ちゃんの方を気にする。
どうやら咲輝ちゃんが居ると言いにくい事のようだ。
「西宮さん。咲輝ちゃんは今僕が一番仲良くしてる子だからさ、彼女に聞かれたら不味いことなら僕は聞く必要はないと判断するよ」
引っ越した後も、ずっと僕のことを大切な友達として思い続けてくれた咲輝ちゃんは、西宮さんとは比較にならないほど信賴できる人物だから。
「イヨリちゃん、そこまでわたしの事を……」
僕の信頼する思いが伝わったのか咲輝ちゃんが嬉しそうに僕を見つめる。
思わず僕も微笑み返す。
「あのー、私を無視しないでもらえるかな」
そんな僕達に不満顔を見せる西宮さん。
「はぁ、なんで空気読めないかなー。それでどうするの? イヨリちゃんが言ったように私には聞かせられない話なの?」
「……別にただの友達なら良いわよ、私達が復縁するのを祝福させてあげるから」
自分の耳が腐ったのかと思うほどあり得ない言葉が西宮さんから放たれる。
僕余りの衝撃に、僕と咲輝ちゃんは共に口を開けて、ポンコツロボットのようにポカーンとしてしまった。
「えっと、聞き違いだよね。いま復縁するって?」
ようやく正気を取り戻して真意を確かめる。
「言ったわよ、だって伊依君私の事好きでしょう。ならまたやり直しましょうよ」
「「…………」」
またしても僕と咲輝ちゃんはポカーンと口を開いて危うくエクトプラズムを放出しそうになる。
「ふっふ、嬉しいでしょう。また楽しく一緒に過ごしましょう」
頭の中で勝手な妄想が膨らんでいるのか、ひとり幸せに浸る西宮さん。
マジでイケないクスリでもやってるんではないかと思えてしまうくらい思考がイカれている。
これが素でも十分に怖いけど。
「あのね。君二股して僕を振ったというか捨てた、
ドゥーユーアンダースタンド?」
もしかしたら日本語が通じてないかもしれないので、わざとカタコト英語で尋ねてみた。
「いや、あれは二股じゃなくて芳虎君とは友達で、さっきも言ったけど伊依君とは受験勉強で距離が開いてしまっただけで」
西宮さんのいう友達ってセフレってこと?
それにしたってこれじゃあ幼稚園児でも騙せやしない酷い嘘だ。
この様子だと何を言っても、捻じ曲げられた彼女の都合のよい解釈を元に戻すことは出来そうにない。
だから僕は……。
「ごめんなさい。西宮さんみたいな人、生理的に無理なんで付き合うとか不可能です」
簡潔に、フラれるセリフで一番キツイだろうと思われる言葉で明確に拒絶した。
「えっ、嘘、なんで、なんで、なんで?」
本当にフラれるとは思っていなかったらしい西宮さんが分かり易いほどに動揺する。
「そんなことすら理解してないからだ」
そこに咲輝ちゃんが追い打ちを掛ける。
「そんな、私の計画が……伊依君、あんなにわたしの事を好きだったのに、なんで、なんで」
さっきから「なんで」のしか言わない西宮さん。
どこぞの芸人かよと言いたくなる。
だいたい僕からすれば、そんなことすら理解できないのは「なんで」と問い質してみたいが、どうせ明確な答えなんて出せないだろう。
正直これ以上不毛なやり取りに付き合っていられない。
だから僕は告げたかった想いを口にする。
「じゃあね西宮さん。あの時僕を選んでくれなくてありがとう。お陰で変わるきっかけになったよ……それだけは感謝してる。これで本当にサヨナラだ」
最後にそう言葉を投げかけると、咲輝ちゃんと一緒にその場から立ち去ったのだった。
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