第19話 VS 委員長


 意図した訳ではないけど、目の前の御手洗さんを無視したような形になってしまったので謝る。


「ごめんね。御手洗さん」


「あっ、いや謝るほどのことじゃないですけど……あの、いつもこんな感じなんですか?」


 それは今のやり取りのことを言っているのであれば答えは……どうだろう?


「まあ、常時って訳では無いけど、賑やかなのは確かかな」


「そうですか、まあ安藤クミが居るなら、そうなりますよね」


 御手洗さんは、まだ動かないクミちゃんに目を向けると呆れ気味な感じで言った。


「そうだね。でも、見た目は派手目だけど、凄く良い子だよ、だから厳しくするのも程々にお願いしますね」


「えっ、あの安藤クミが良い子? 歩く校則違反と言われる女ですよ」


 御手洗が言うように、校則という枠で見るなら確かにクミちゃんは問題があるのかもしれないけど、二本松さんのときに見せた謝れる素直さを持っているのだから、僕からすれば良い子だと思う。


「確かに前は、そうだったかもしれないけどクミちゃんは変わったと思うよ、服装だって御手洗さんからは着崩してるように見えるどけで、ちゃんとアレンジして着こなしてる訳だし」


「でも、校則では学生らしく清潔感ある服装でとあります。安藤クミ達の服装は私から見れば過度に露出してるようにしか見えません」


 御手洗さんが言う事も分かる。

 僕からしてもクミちゃんの着こなしは大胆でドキリとさせられる。

 でも話して分かったことだけど、それは彼女自信が自分の魅力。スタイルの良さなどを考慮して、どうすれば綺麗でカワいくに見えるかを自分なりに考えての事だ。

 別に男を誘う意味でも何でも無い。

 ただ自分を美しく見せているだけだ。


「多分さ、御手洗さんは半分思い込んてるんじゃないかな、ああいう服装をしておるからクミちゃんはどこか軽くって、危なっかしいって」


 僕もチエちゃんにとった態度だけを見るならそう思っていたかもしれない。でも素直に謝って、話をするようになって、ギャルっぽい面も強いけど、それだけじゃないことも分かった。


「だとして、あの格好でいる限り私の評価は変わりません、それにアナタもですコーネリットさん、随分と安藤クミの肩を持ちますが、そうする理由があるってことではないですか? 例えばポイントを優遇してもらうためにとかで」


 御手洗さんが厳しい目を僕に向ける。

 最初はなんのことだか分からなかったが直ぐに奨励システムの事だなと気付いた。


 ポイントは誰が誰に入れたかは公表されないので真実は分からないが、恐らく僕のクラスのほとんどが僕にポイントを付与してくれているのは想像がついた。


「御手洗、嫉妬は見苦しぞ。奨励システムのポイント付与は正式な理由がなければ加点として認められない。つまり組織委員会がイヨリちゃんに与えられたポイントに対し加点に問題が無いと認めた結果だ」


「ぐっ、確かにそうだけど……他の可能性だって、それこそコーネリットさんの美貌に目がくらんだ男子生徒がポイントを入れたのかもしれないし」


 ん!? ここに来て御手洗さんの話がクミちゃんの事だったのに、僕のポイントの話しにズレてきた。


 もしかしたら、これは子供の頃に姉さんから聞いた、やり手の弁護士が良く使うというチューバッカ弁論と言うやつだろうか?


 正直、僕はポイントなんてどうでも良い、ただ御手洗さんの持つ、クミちゃんに対する先入観を取り去って欲しいだけだ。


 だから僕は話の筋をもとに戻すべく口を開く。


「綺麗なのは僕に限った事じゃないよね」


「えっ?」


 僕が口調を強めたせいか、御手洗さんが少し驚いた様子を見せる


「御手洗さんだって、もの凄く綺麗でしょう」


 彼女の理屈なら僕が綺麗だからポイントを貰えたと言っているのだから、同じように綺麗な御手洗がポイントを貰っていてもおかしくない事になる。


「なっ、なっ、なんばいいよっとね、そげんウチがキレイなんてあるわけなかけんね」


「「………」」


 思わず飛び出した御手洗さんの方言に僕と咲輝ちゃんが固まる。

 というかそれより驚いたのは、御手洗さんは本気で自分が綺麗な事を自覚していないことだった。


「……あっヤバっ、いまのは、いまのは聞かんかったことにして」


 まだ混乱しているのか口調が若干訛っている。


「そういえば御手洗も九州地方出身の寮生だったな」


 咲輝ちゃんが小声で言う。

 僕としては方言もカワイイとおもうけど本人は隠したがっているって事は少しコンプレックスなのかもしれない。

 だとしたら、クミちゃんにキツく当たるのは憧れの裏返しなのかもしれない、何となくそう思えた。

 だって本当に御手洗さんが敵意を持って接しているなら、相手をしていたクミちゃんがあんなに気安く話さないだろから。


  そこで僕は余計なお世話をひとつ思いつく。


「うん、分かったよ御手洗さん。でもその代わり、今度の週末クミちゃん達と買い物に行くことになっててさ、出来れば一緒に付き合ってよ」


「うっ、ここぞとばかりに、やっぱり油断出来ませんねコーネリットさん……分かりました、ではポイントにかけて他言しないと誓って下さい」


「うん、分かった。約束を破ったら僕はポイントを破棄するよ」


「イヨリちゃん。なにもそこまで」


 咲輝ちゃんが止めようとするけど、元から身に余る評価だったので構わない。


「分かりました。私も今週末コーネリットさん達と同行することを約束します」


「うん、ありがとう」


 もっと嫌がるかと思っていたが、わりとあっさり提案に乗ってくれたので助かった。


 これで上手く行けば、御手洗さんをわからせてやることが出来るかもしれないから。

 そう思うと思わず楽しくなる。


「はぁ、イヨリちゃん。小悪魔の顔になってますよ」


 咲輝ちゃんが指摘する。

 どうやら自然と口角が上がっていたみたいだ。

 でも、やっぱり楽しみなのはしょうがない。


「咲輝ちゃんも、勿論付き合ってよね」


「当たり前です。そんなイヨリちゃんを放っておけませんから。じゃあ話が付いたのなら、これ持って帰りますよ」


 咲輝ちゃんは、未だに夢うつつな二人を指差し止す。


「うん、クミちゃんにも話しておかなきゃだね。それじゃあまたね御手洗さん」


「えっ、ええ、それより約束守ってくださいね」


「うん、勿論だよ」


 僕はそう言ってその場を後にした。



 

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