第11話 初恋
クラスでの自己紹介も終わった放課後の教室で俺に興味あるらしい女子達が集まってきたので少し自分のことを話す。
「これでも中学の時は全国大会ベストフォーまで勝ち進んだんだぜ」
「イケメンでスポーツまで出来るなんて凄いね〜」
近くの女子が褒めてくれる。
もう一人もキラキラした目で俺を見てくる。
そう、それは子供の頃からそうだった。
小学校の頃からスポーツができイケメンだった俺は、とにかく女子からモテた。
告白なんて日常茶飯事だし、いま付き合っている西宮紗栄里も相手から告白してきた。
仲良くなった切っ掛けは同じテニス部で少しアドバイスしたことからだ。
それから少しづつアプローチされた。
噂だと他に付き合っている男子が居るなんて事も聞いたが、本人は付きまとわれているだけだと言い張っていた。
実際にその男は、俺が紗栄里の家に遊びに行ったとき家までお仕掛けて来ていた。
見た目は、黒い前髪で顔を隠して背も低く華奢な体格の、見るからに情けなさそうな男だった。
俺が少し説教して追い払ったら、二度と紗栄里に近づかなくなったので、見た目通りの本当に情けない男だったのだろう。
そして、その件もあり、元から相性も悪くなかった俺達は今でも付き合っている。
だけど本当は計算外だった。
俺はスポーツ推薦でこの学院に入るのは決まっていたが、追いかけて紗栄里まで一般受験で合格するとは思っていなかったからだ。
正直、紗栄里とはマンネリ気味で進学を機に別れるつもりだったからだ。
別に紗栄里が嫌いになったわけじゃない。
だけど俺は紗栄里に限らず今まで付き合ってきた女子と全て一年以上続いたことが無い。
原因が俺にあるのも分かっている。
なにせ俺は女子から好かれることはあっても、相手を好きになったことは一度もないからだ。
だからだろう、付き合っているうちにどうしてもモチベーションが維持出来なくなる。
そうすればどうしたって彼女への対応がおざなりになっていく。
そして女子もそんな俺に段々と苛立ちが募り……そうして限界を迎えるのが長くて一年以内。
もしかしたら今までの中には俺に追いかけて来て欲しかった女子も居るのかもしれないが、元から好きでもなんでもない女子を追いかける訳がない。
だから紗栄里もちょうど潮時だった。
俺は彼女と別れて今度こそこの学院で好きになれる相手を見つけるつもりだった。
そう運命の相手を……。
そしてそれは入学式に現れた。
舞い散る桜の中に一際目立つ存在として。
金色に輝く髪を靡かせ、身長は高くないものの背筋をピンと伸ばし堂々とした佇まい。
そして何より顔を見たとき、俺は雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
それは一目惚れと初恋の過電流が脳天を直撃したからだろうか。
今まで俺に告白してきた中には、一目惚れだの何だの言ってくる女子が居た。だけれど俺はそれらを全て嘘だと思っていた。
ひと目で人を好きになれるわけがないだろうと。
だが、こうして自分で体験して初めて理解することが出来た。一目惚れは在るのだと、人はひと目見ただけでも惚れることが出来る存在だと言うことを実感した瞬間だった。
それからは紗栄里と合流しても上の空だった。
入学式の受付を済まし、受けっ取った案内からクラスを確認した。
例の彼女と同じクラスにならないかと願いながら気がついた。
俺は彼女の名前も知らない事に……。
そんな俺の隣で『クラス離れちゃったねっ』と紗栄里が残念そうに呟いていた。
正直鬱陶しかった。
もう、あの出会いの瞬間から、俺の中にはあの彼女の存在が占めていたからだ。
紗栄里はもともと別れるつもりだった事もあり、さらに気持ちが冷めていくのを感じた。
適当に返事をしながら、光をまとった金髪だった事を考え、それらしい名前が無いかと名簿を探してみる。
そこで見つけた外国姓らしき『伊依・コーネリット』という名前を。
それは一年三組の欄に記載されており、俺の五組とは違っていた。
それは今カノの紗栄里とクラスが違うことより、あの彼女とクラスが違うことの方が、俺の中では残念だと思う気持ちが大きかった。
入学式では、自然と三組の列を追いかけてしまっていた。そして俺の予想通り金髪の彼女は三組に居た。
自分が同じクラスに居られないことが悔しかった。
もし、同じクラスなら彼女は直ぐに俺の魅力に気付いていただろうから。
そう、いま周りに居る彼女達のようにだ。
正直に言えばもう、運命の相手を見つけた俺としては彼女達の相手をする必要はないのだが、持ち前のサービス精神でつい話しに付き合ってしまっていた。
そして、別のクラスなのにズケズケと教室まで来ると、俺を睨みつけ、他の女達を牽制する紗栄里。
特に好きでも無いのにこう彼女面されるのにもげんなりしつつ、別れを告げても良いかもしれないと思う。
けれど優しい俺は運命の彼女と付き合うまでは、彼氏でいてやることにした。
そして入学して翌日。
俺の運命の相手である伊依・コーネリットにある噂が流れた。
なんでも彼女は『天使だ!』という突拍子もないものだったが、ある意味俺は納得してしまった。
この俺が一目惚れするくらいの存在なのだ。
そんな彼女が綺麗なだけの普通の女な訳がないのだから。
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