第7話 幼馴染は焦がれる
私の答えはミレイさんのお眼鏡に叶った。
お陰で認められた私は、ミレイさんからさらなる重要な話を聞く権利を与えられた。
私は迷わずミレイさんから情報を貰う選択をした。
でもその情報……それがもし本当なら……それは嬉しいことなのかもしれない。でも私は素直に喜ぶ事が出来なかった。
そんな私の浮かない表情を見たミレイさんはどこか嬉しそうに「なんで喜ばないの?」と言った。
だから私は感じたままをミレイさんに伝えた。
「イヨリちゃんの隣が空くことはチャンスで嬉しいことかもしれない……でも、彼女に振られて傷付くイヨリちゃんの姿を考えると辛いんです」
そう私は告げると、いつの間にか涙が勝手に溢れていた。
それと同時に怒りも湧いた。
イヨリちゃんを裏切っている西宮紗栄里とその浮気相手の男。
あと、それを知っていながら傍観しているミレイさんにも。
だから、私は「どうして、イヨリちゃんが傷付くのが分かっていながら見ているだけなんですか?」と聞き返した。
するとミレイは目を丸くして驚いた。
そして、残念そうな表情に変わると。
「散々根回しはしたわ。伊依に気づかれないようにね。でも、想像以上にあの西宮って子はダメだったわ」そう呟いた。
だから私は更に詰め寄ってしまう。
「だったら直接イヨリちゃんに言っても」
そう言った私に、ミレイさんは首を横に振ると直接的に言わない理由を話してくれた。
「私が直接言うのは簡単よ、でも、それって伊依のためになるの? 今の選択は伊依が自分の意志で決めた道よ……私は常に誰かの手を引っ張っられていないと一人で歩けないような伊依にはなって欲しくないの」と。
その理由は私にも分かる……分かるけど。
納得のいかない私は更にミレイさんに問い掛ける。
「それでも、危険な道を歩こうとすれば止めるのが優しさではないんですか?」
それに対してミレイさんの言葉はある意味辛辣だった。
「本当に危険な道なら私も止めるわ。でもあの子程度なら路傍の石に躓く程度のものよ。伊依が彼女に抱いている感情は確かに恋愛感情だろうけど、年相応のモノで、貴方や私のような深い愛情などでは断じてないわ」
そう言い切ったミレイさんは余裕すら感じられた。多分、私より長くイヨリちゃんを見てきたミレイさんが言うのだから正しいのだろう……。
「でも、私はやっばり、些細な傷でもイヨリちゃんの辛い顔は見たくありません。それにどんな事にも絶対なんてありません。それで万が一にもイヨリちゃんが深く傷付いたらどうするんですか?」
そんな私の心配に間髪入れずにミレイさんは答えた。
「その時は何を投げ打ってでも伊依に寄り添って傷を癒やす手助けをするわよ、どんなに時間が掛かろうともね」
私は、そのミレイさんのその言葉と覚悟に舌を巻いた。それと同時に私に足りなかったモノを気付かされた。
私はイヨリちゃんを守ろうとするばかりで、自分が傷付く覚悟が足りていなかった。
ミレイさんを見ていれば分かる。
彼女は伊依ちゃんが傷ついた時、きっと同じように傷付くだろう。そして守れなかった自分を責めるのだろう。
でも、それを分かっていながらミレイさんは伊依ちゃんが歩む道を見守るだけに徹しようとしている。
それはどんな茨の道だろうときっと隣で、自分も傷付きながら、いつでも肩を貸せるように寄り添って歩いていこうとしているのだ。
でも、一つだけ気になる事があった。
いや、感じていた事を問い質す。
「ミレイさんは、望まないんですか、その……イヨリちゃんと弟以上の関係性を」
私が率直に聞くと、まるで答えを用意していたかのようにミレイさんは答えた。
「私は恋人関係になることが弟以上とは思わないけど……そうね、だからこそ私からそういう関係になる事は無いわね。ただ……」
その時のミレイさんは意味深に私を見て微笑んだ。私は気になって再度尋ねる
「ただ?」
「伊依から告白してきたら、私は拒まないわよ」
そう言ってウインクをした。
それがまあ、かなり様になっているのは流石である。
『うぐっ、それじゃあ私もチャンスがあれば……』
そう心の中で呟いて、最初の情報に繋がった事に気付く。
それをまるで見越したかのようにミレイさんが手を差し伸べて握手を求めてきた。
私は直ぐに悟った。
私はミレイさんの手のひらで踊らされていただけだと……でも、だからこそ、この人が味方になれば心強い。
そう思い私はミレイさんの手を取って握った。
そして、この瞬間イヨリちゃんを愛する者達の秘密結社【
因みに名称はミレイさんが決めた。
氷帝なんて言われている私が言うのも何だが、ミレイさんは少し中二病を拗らせている節があるみたいだ。
ただその実力は間違いない。
一年で生徒会に入ると副会長に任命されるほどだし。
そんな中二病を引きずりながら実力的には申し分ないミレイさんとの最初の作戦会議というか今後の方針を聞かされた。
ミレイさんからの情報によると、イヨリちゃんと今の彼女である西宮紗栄里とは近くないうちに別れることになるとの事。
理由はその女の浮気。
イヨリちゃんというものがありながら、たかだか顔が良くて、テニスの全国大会でベストフォーに入る実力の男にうつつを抜かしているらしい。
その男は一部の女子からテニスのプリンス様といわれてチヤホヤされているらしい。
私からすればその程度の男にうつつを抜かすなんて愚かとしか言いようがないけど。
でも今の状況から西宮というクソ女は、その男の方を選ぶ可能性が高く、最近は誤魔化し方も雑になってきており、バレるのも時間の問題らしい。
それでイヨリちゃんが別れた後のケアは、ミレイさんがしっかりとするから安心してほしいと言われた。
その後どうするかはイヨリちゃん次第。
もし、その浮気女と間男に復讐を望むのなら幾らでも手を貸す事を伝え最初の話し合いは終わった。
結果としてはイヨリちゃんは復讐より、振られた自分自身の情けなさを嘆き、変わるための努力を優先することになる。
そのことで私の出番は無くなってしまったのだが、それでイヨリちゃんが前に進めるのなら私としては構わない。
だから私は私でイヨリちゃんに負けないため、更に自分を磨く事にした。
取り柄の勉強と剣術は勿論。
それ以外では、イヨリちゃんが習い出したと聞いて茶道と花道と日舞は嗜むようにした。
家の負担になるかもと懸念したけど、祖父はむしろ喜んで知り合いの伝手で先生を紹介してくれた。
その間勉強も手を抜くことは無く学年で三位内はキープした。
剣術の方は剣道部として個人で二度目の全国大会優勝を果たし有終の美を飾った。
そのせいか声を掛けられる比率も上がってしまったのは計算外だった。
まあ、私の気持ちは変わらないので申し訳無いと思いつつもバッサリ切り捨てて行ったけど。
ミレイさんとは定期的に会ってイヨリちゃんの近況報告を受けていた。
そこで私にとってもの凄く嬉しい知らせを聞いた。
なんと、イヨリちゃんが真・マリアライト学院の高等部に合格したというのだ。
因みにうちの学校名に『真』が付いたのは、経営母体が変わった事と、ミレイさんが生徒会を通じて働き掛けた事によるものらしい……噂たけど。
兎に角、これでイヨリちゃんと同じ学校に通うことが出来るのだ。
ただ、あの浮気女と間男も付いてきたのは私としては予想外だった。
幸いなことは、イヨリちゃんはすっかり吹っ切りているらしい事。
でも、もし二人がイヨリちゃんにちょっかい出してくるようなら……色々と考えないといけない。
そんな事も含めてイヨリちゃんとの高校生活を夢見ながら、再会できる日を楽しみに、一日一日を過ごしていった。
そして運命の日。
あの初めて会った日と同じ桜舞い散る中。
期待と不安を胸に私は待った。
離れていても何年経とうが私の心が求め続けた最愛の人を。
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