第6話 幼馴染は思ふ

 私の初恋は幼稚園時代に遡る。


 まだ両親も仲良かった頃。


 桜が綺麗に咲いていていた季節。


 そこに突然現れたのだ。

 まるで物語から出てきたような、光り輝く金髪のお姫様が。


 ひと目で私は心を奪われた。

 そう、私はその時自分より綺麗で素敵な女の子に一目惚れをした。


 それから小学生三年に上がるまで、私は学区は違っていたけど毎日のように会いに行って遊ぶようになっていた。


 本当に楽しかった日々。

 今でも私の記憶に刻まれた大切な思い出。


 でも、そんな私達を引き裂いたのは、やっぱりあの男だった。


 名ばかりの父親。

 気に食わない事があればすぐに母や私に暴力を振るう最低な男。

 私が男嫌いな原因のひとつ。


 そして、クズなあの男は暴力だけでなく、他に女を作って母を裏切っていた。


 浮気がバレたクズは、必然的に母と別れることになった。


 でも、心身共に傷付いた母には心休める場所が必要だった。だから母の実家がある九州の方に引っ越すことになった。


 私は、大好きな……イヨリちゃんと別れるのが本当に辛かった。

 

 でも、それ以上にボロボロだった母さんの側を離れることは出来なかった。


 そこからは母と二人三脚で頑張った。

 それと同時に私は、心身を鍛えるために祖父が教えている道場で剣術を学びはじめた。

 力だけの男に二度と負けないためにも。


 それから三年。

 母も傷が癒えた頃、私以外にも母を支えてくれる人が現れた。

 なんでも母の幼馴染らしく。

 昔から母の事が好きだったらしい。

 でも結局告白出来ないままに離れ離れになったとのことで、奥手なのは今も変わっていなかった。


 実際に小学生だった私が見てもじっれったく成る程の距離感の詰め方だった。


 そこで私は一計を案じた。

 これは私のためでもある。


 早速私は祖父母に相談した。

 全寮制の中学校に進学したいと。

 そして、あの思い出の場所に一番近いマリアライト学院を候補にあげた。


 祖父……おじいちゃんは基本的に私に甘いので好成績を維持する事と、護身も兼ねて剣術は続けることで許してくれた。


 母は反対していたが、私のイヨリちゃんに対する熱い思いを告げたところ、理解を示してくれて応援してくれるとまで言ってくれた。


 私的には、母に発破を掛ける意味も含めていた。

 私が積極的に行動してみせることで、母もあの人に遠慮なくアプローチして欲しかったから。

 私に恐怖心を感じさせなかったあの優しそうな人なら、今度こそ母を幸せにしてくれるのではと思ったから。


 まあ、結局のところこの後に母が再婚するまでは二年掛かってしまうのだけど、それは私とは別の話だ。



 それから私は計画通りマリアライト学院の受験に合格し、入学して寮に入ることが出来た。

 これで私はようやくイヨリちゃんがいるあの街に戻ることが出来たのだ。


 本当はすぐにでも会いに行って昔のように親睦を深めたかった。今思えばすぐそうするべきだった。でもこの時の私はまだ周りの環境に馴染もうとしたり、新しいクラスメイト達との交友を結ぶことを優先した。

 きっとイヨリちゃんの身近に来れたことで安心して油断していたのだ。

 

 あんな素敵な人を周りが放っておくはずが無かったのに……。


 結果、私は出遅れた。

 周囲の環境にも慣れ落ち着いた頃。

 夏休みが始まる少し前に、満を持してイヨリちゃんに会いに行った。そしてそこで見てしまったのだ。イヨリちゃんの隣で親密そうに笑って話をする、私と同じ感情を目に宿した別の女の子の存在を。

 

 あの時の心の痛みは今でも思い出すと胸を締め付ける。

 でも、その結果を生み出したのは他でもない自分自身にあることも分かっていた。


 イヨリちゃんの側にいるために、ここまで来たのに私は、周りから自分が良く思われたいという自分の立ち位置を優先した。

 その愚かな選択が結果として、イヨリちゃんの隣を他の女子に取られた。

 一番の目的だったイヨリちゃんの隣にずっといるという本来の目的が消失してしまった瞬間だった。


 それから、しばらくの私は人生の目的を失った生ける屍だった。


 あるのは蜘蛛の糸を掴むような僅かな望み。

 期待は薄いがあの女の子がイヨリちゃん以外の子を好きになるかもしれない可能性。


 それがどんなに絶望的なのかは私自身が分かっていた。だってイヨリちゃんの隣を放棄するなんて私なら絶対に有り得ない選択だから。


 そう分かっていても諦めきれない私は、万が一のチャンスに掛けることにした。

 だから幸運が巡ってきた時には、絶対に後悔しないため、まずは自分自身を磨く事にした。

 だってイヨリちゃんの隣に居ても恥ずかしくない自分で在りたかったから。


 正直私には受験で頑張ってきた勉強と、祖父から教わった剣術位しか取り柄がなかったので、それを徹底的に磨いた。

 お陰で試験の学年順位は常に三位内を常にキープ出来た。

 一方の剣術の方は、それを活かすため剣道部に入った。

 家は実戦向けの流派なので少し勝手が違った。

 けれど要領を得れば応用も効いた。

 それにより見事全国大会でも優勝することが出来た。


 それに二度と同じ失敗を繰り返さないために、周囲との関係は線を引かせてもらった。

 特に告白されたときなどは男女関係なく、キッパリと未練が無くなるように容赦なく断ち切った。


 これはある意味、未練タラタラな私のようになって欲しくないという思いも込めていた。

 まあ、私の真意はほとんど伝わっていなくて、私にはいつの間にか氷の女帝なんて呼ばれてて……。


 まあ、ここまでくれば自分自身を理解していた。

 私は所謂重くてイタイ女だと言うことを……。


 だけど……それでも……やっぱり私はイヨリちゃん以外を好きになる事は出来なかったんだから仕方ない。


 剣道部の当時学年で一番カッコイイと言われていた先輩を見ても心はときめかなかったし。

 その先輩に、優しく楽しげに話しかけられても心が動くことは無かった。


 諦めないといけないと分かっていたけど、私の心を占有できたのはイヨリちゃんだけだった。


 だからあの人……イヨリちゃんのお姉さん。

 蔵馬美澪さんが高等部入学してきた際、私に会いに来たときは驚いた。


 イヨリちゃんとよく遊んでた頃は、ミレイさんも一緒に遊んでくれていた。それで、覚えてくれていたらしい。



 そして衝撃的な話を聞かされた。


 なんとイヨリちゃんは男の子だと言うことを。


 そして、その真実に私は情けないことに動揺してしまった。

 

 そんな私の内面を見透かしたようにミレイさんは尋ねてきた。


「貴方は伊依が女の子だったから好きだったの?」と。


 その言葉に私はさらに揺さぶられた。

 確かに私の恋心は、綺麗で可愛いらしい女の子のようなイヨリちゃんに心惹かれた事が始まりだ。


 でも、それは切っ掛けに過ぎなくて……私が好きなのは、小さな頃から一緒に遊んだ優しく笑いかけてくれるイヨリちゃんで、今更そこに性別は関係無かった事に気が付いた。


 だから私はハッキリと自分の気持ちを自覚して、ミレイさんに告げた。


「私はイヨリちゃんという存在を愛しています」と。


 するとミレイさんは私の答えに満足したのか、

「見込み違いでなくて良かったわ」と笑ってくれた。その笑顔が姉弟だけあってイヨリちゃんに似ていて少しだけドキッとした。


 

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