第10話『首領』
「主だと?」
ああ、それはつまり。
「てめぇがこいつらの頭か?」
たった一日でリ・レストル村を地獄の風景と化した集団。
もし、この男がそうだと言うのならば――
「ん? あぁ、そうだ。俺がメテオレイゲンの首領。エルハザード・レイヴェン様だ」
――『デッドエンド』として許す訳にはいかない。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
雄たけびを上げながら首領エルハザード・レイヴェンへと突貫するデッドエンド。
それは一見無謀じみた突貫だったが、なにしろ相手はあのエイズ・ピリドマンをも支配している人物だ。後手に回るのも正解とは言えない以上、理にかなったものかもしれない。
しかし――
「あぁ、面倒だ。クズ共に命ずる。お前ら、その身を賭してそいつを止めろ」
エルハザードは面倒そうに右手を上げながら『誰か』へと命令する。
デッドエンドは横目でメテオレイゲンという組織に属するであろう者達を見るが――動きなし。
ならば今のはハッタリか? もしくは見えない敵手の存在がまだあるのか?
そう警戒しながらも前に進むデッドエンドを。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「やめろ……やめろやめろやめてくれぇっ!!」
「イヤァァァァァァァァッ――」
数多の
「なん……だと……」
予想だにしない出来事にやむを得ず突貫を中止するデッドエンド。
エルハザード・レイヴェン。
彼が発した命令に従い身を
「――主も趣味が悪い。村から逃げる者達を『支配』したのですね?」
「ここに来るまでの間、お前の所で面白そうな事がおきてるってのは分かってたからなぁ。そりゃあ武器の一つくらいは持ってくるだろう?」
「――なるほど」
「不服か?」
「いえ、別に。主は好きに動けば宜しいかと。それこそが我らメテオレイゲンの望みなのですから」
「そうかよ。――ふんっ。相も変わらずつまんねぇ奴だ。もう少し人間味があれば可愛らしいんだがなぁ。えぇ?」
「ふっ。そこはご容赦を。私のこれは何があっても変わらないでしょう」
多くの村人たちがデッドエンドの行く手を阻む中、呑気にそんな会話をしているエルハザードとエイズ。
デッドエンドはそれを腹立たしく思いながらも手が出せない。
「お前ら……どうしてだ!? 一体何をされたぁっ!?」
彼が出来るのはそうやって叫ぶ事のみ。
なにせ、その体は多くの村人たちによって掴まれているのだから。
「すみません軍人さん。ですが……体が勝手に動くのですっ!!」
「あの男に触られた瞬間、なぜか体が思うように動かなくなって――」
「うあああぁぁぁぁぁぁんっ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」
デッドエンドの腕に、足に、しがみついた村人たちは自らの置かれた現状をありのままに話す。
ある者は泣きながら。ある者はただただ申し訳なさそうにしながら。ある者は恐怖に顔を歪ませながら。
それでもなお、その動きはただの村人ではないかのように精錬された動きをして見せているのだ。
一言で言って、まさに『異様』というやつだろう。
それを見たデッドエンドはようやく悟った。
これはあの男の仕業。
メテオレイゲンの首領。エルハザード・レイヴェンの力によって無辜の民達は強制的に戦場へと舞い戻らされたのだと理解したのだ。
どういう手品かは不明だが、その体の制御権すら奪うという悪魔の所業でもって、彼らを己の手駒として自身へとぶつけている。
それを今この瞬間も自身へとしがみついてくる無辜の民達の嘆きと苦しみによって理解したデッドエンドは――
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
許せない。許せるはずがない。
デッドエンドの怒りはもはやただ一人。現れたばかりのエルハザードへと向けられていた。
――ああ、だって。これはあまりに『ない』だろう。
先ほどまで戦っていた相手、エイズの事も当然許せないが、少なくとも奴は自身の手を汚していたはず。
だが、このエルハザードという男は違う。
無理やり村人たちを自分の手駒に変え、戦地へと送り出すという悪魔の所業。
それでいて自分は高みの見物だ。
なんという邪悪。許せるわけがない。
この邪悪の権化たる男は確実に滅ぼさなければならない。
例えこの身が滅びようとも。滅ぼさなければならない悪があるのだとデッドエンドは思うがしかし――
「あぁ? おいおい、こいつは一体どういうことだよ。一撃耐えればいい方だと考えてた俺の兵隊がまだ生きてるばかりか、こいつ押さえ込まれやがった。なぁエイズぅ、お前、こんなのにやられたのかぁ?」
「恐れながら主。この者は誰よりも民草を愛する勇者たる存在です。ゆえに、ああして守るべき者達に掴まれればどうしようもないでしょう」
エイズの言う通り。
力だけならば問題ない。デッドエンドが少し力を込めれば自身を取り押さえている村人たちなど容易く吹き飛ばせるだろう。そうするのに数秒もかかるまい。
それだけの力の差がデッドエンドを取り押さえている村人たちとデッドエンドの間にはある。
だが、デッドエンドは彼らの為に拳を握っているのだ。
今も自身を取り押さえている無辜の民。彼らの為にデッドエンドは戦い続ける事を誓った。
彼らが今日と言う日を、そして明日も明後日も、健やかに暮らせるように。
そんな守るべき無辜の民を他ならないデッドエンドが傷つける?
邪魔だからと、自身に纏わりつく者達を強引に吹き飛ばす?
――あり得ない。
例えどんな理由があろうとも、デッドエンドが守るべき民達にその拳を向ける事などありはしない。
それはエイズの言う通り、まさしく『勇者』に相応しい精神だろう。
だが、事ここに至ってはその精神こそがデッドエンドをこれ以上ない程に縛っていた。
そんな尊ぶべきデッドエンドの精神。
それは――
「――くはっ」
エルハザード。
今もその力で無辜の民を自身の意のままに操り、それでもってデッドエンドを取り押さえているまさしく悪魔とでも呼ぶべき男。
この場で最も邪悪たる男によって、デッドエンドの精神は
「ククク。ハハ。ヒャハハハハハハハハハハハハハハ――」
鳴り響くエルハザードの笑い声。
心底おかしくてたまらないと言った感じで、彼は腹を押さえて笑いまくり、
「誰かの為、誰かの為にってかぁ。クク……おいおい笑わせてくれるなぁ。この世は弱肉強食。弱者をうまく利用してこその強者だ。弱者に足を引っ張られる時点で強者の器じゃねぇんだよ」
この世は
「とはいえ……だ。エイズをこんなにするくらいだ。それがこれで終わりじゃあまりにつまらねぇ。だから――こうだ」
――パチンッ
エルハザードがその指を鳴らす。
すると――
「なっ、これは……やめろやめろやめてくださいお願いしまぁぁ……ぁ……」
デッドエンドの身体を掴んでいた村人の男。
彼はデッドエンドの身体から手を離し、その手でなんと自分の首を絞め始めたのだ。
「なっ……やめろぉっ!!」
それを見過ごせるデッドエンドではない。
しかし、依然デッドエンドの身体には多くの村人たちという
ゆえに、やはり動けない。
「アハハハハハハハハハッ。どうよ勇者様ぁ? 中々に面白い趣向だろうが」
「てめぇ……エルハザードォォォォォォォッ!!」
『――
怒りの
それに同意するかのように、デッドエンドに宿った星も不快感を
『――程度の低い星ですって? 誰とも知れない星ごときが。随分と舐めた口を聞いてくれるわね』
そんなデッドエンドに宿った星の声に反応してか、エルハザードから女の声が発せられた
それはエルハザードに宿った星だった。
分かりきっていた事だったが、エルハザードも星持ちだったのだ。
よくよく見てみれば、その体には薄いピンク色の輝きが纏わりついていた。
『ねぇエルハザード。もういいでしょう? さっさとあいつらも支配してしまいましょう? あの生意気な子達、思うままに支配出来たら……きっととても気持ちいいわ。そう思うでしょう?』
「クク、それは同感だけどよぉエスネア。それじゃ今という瞬間は楽しめねえじゃねぇか。俺の操り人形達に翻弄されるあいつらの姿……見てるだけで笑えるだろうがよぉ!?」
『ふ、ふふふふ。アハハハハハハハハハ。そうね、そうね。確かにその通りだわ。流石はエルハザード。最高よアナタ』
「分かったら少しは大人しくしてなエスネア。今俺は忙しい……。この勇者面した小僧が苦しむ姿を見るのに忙しいんだよぉぉっ――。ヒャハハハハハハハアッハハハ――」
エルハザード・レイヴェン。
そして彼に宿った星であるエスネア。
その在り方はデッドエンドから見てまさに邪悪そのものだった。
ゆえに――
「――絶対にてめぇを殺す」
『――同感だ。あまりにも醜い。
デッドエンドと、彼に宿った星の意見は完全に合致する。
「やれるもんならやってみろやガキ。そのザマでお前に何か出来るならなぁっ!!」
今も村人たちにその身を掴まれたデッドエンドを高みの見物で見下ろすエルハザード。
だが――
『案ずるな。お前ならば出来る。出来ないはずなどない』
「……後押しありがとうよ。名前も知らないお星さま」
『――アギトだ。我が宿主、シェロウ・ザ・デッドエンドよ。その輝き尽きる時まで私はお前の力となろう』
「そいつは光栄だ。それじゃあアギト――」
『――良い。もはや言葉は不要。お前はお前の思うままに行動すればいいだろう。私は勝手にお前の力となるだけだ。その力をどう使うかはお前次第』
「そうかい。それなら……ありがたく勝手にさせてもらうぜぇっ!!」
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