第9話『覚醒』
気に入ったぞと……そんなデッドエンドの脳裏にのみ響いた声。
「あぁ?」
その正体不明の声にデッドエンドは顔をしかめる。
しかし、今はそんな場合ではないと思いなおし、立ち上がらねばとデッドエンドは奮起するのだが――
『そうだ立て。まだだ……まだ終わりではない』
それが何者の声なのかは分からない。
だが、その正体不明の声は奮起するデッドエンドにそう強く語り掛けてゆく。
その声にデッドエンドもまた応える。
「――当たり前だ」
『誓いがあるのだろう? どこまでも進むのだろう?』
「――その通りだ」
『なら目の前の壁は一切合切――』
「――ぶち壊すっ!」
『ならばここで倒れて何とする。人間よ。可能性の獣よ。困難から立ち上がりそして――覚醒しろ』
「言われるまでもねぇっ!!」
――かくして、新たな星は現れる。
「――落ちよ我が星。この身に宿りて地上にて輝きを示せ」
気づけばデッドエンドはそう唱えていた。
――瞬間。
デッドエンドの身体に灼熱のごとき赤のオーラが
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
『オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
雄たけびを上げて立ち上がるデッドエンド。
力が漲る。今なら何でもできそうな気すらしてくる。
その内には新たな星が宿っていた。
そう――新たな『星持ち』の誕生である。
「――素晴らしい」
『――騒がしい』
対する敵手の反応はそれぞれだった。
エイズは新たな星持ちの誕生を歓迎し、逆にエイズが宿す星であるメタニアはその騒がしさを嫌った。
エイズは氷剣を構え、
「――来い。その星の輝きをここに示すといい」
「言われずともぉっ!!」
『無論だ。ここで立ち向かわずして何とする』
星持ちとなったデッドエンドはそれまでと変わらずその拳を振るう。
別に氷を生み出せるようになったりだとか、そういう特異な能力に目覚めた感覚は彼にはなかった。
――しかし、ただ一点。
デッドエンドの凍っていたその拳。
その拳はいつのまにか正常な状態へと戻っており、デッドエンドにいつも通りの動きを可能にさせた。
どころか――
「くたばれっ!!」
エイズめがけて振るわれたデッドエンドの拳。
それはエイズの構えられた氷剣へとぶち当たり――
――パリィンッ
「――ほぅ」
『不可解』
デッドエンドの拳を受け止めたエイズの氷剣は粉々に砕け散る。
その結果にエイズとメタニアは驚く。
なにしろ、その氷剣は見た目こそそれまでの物と変わらぬ一品だったが、中身はそれまで生み出した氷剣に比べかなり頑丈に造ったものだったのだ。
切れ味よりも頑丈さ重視で作り出したナマクラな氷剣。
ゆえに、そう簡単に壊されるはずがないものだったのだ。
しかし、それをデッドエンドの拳は事もなげに破壊した。
また、異常事態はそれだけではなく――
「――まだだぁっ!!」
デッドエンドはエイズの氷剣に触れたはず。
それなのに、触れた個所である拳は凍ることなくエイズを叩きのめすべく急接近していた。
間髪入れず放たれたデッドエンドの二撃目。
それに対処する術などもはやエイズにあるはずもなく――
「かふっ――」
――バァンッ
今度という今度こそは避ける事も叶わずデッドエンドの拳を受け入れるエイズ。
その体は真横に吹っ飛び、崩壊した数ある民家の壁へと叩きつけられた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
渾身の二撃目を放ったデッドエンドは息を荒くしたままエイズの様子を遠巻きに見つめる。
――動く様子はない。
さすがのエイズも自身の攻撃をまともに受けたのだ。しばらくは立ち上がれないだろう。
そうデッドエンドは判断する。
しかし、気を緩めることはない。
特にエイズの場合、きっちり殺しておかなければ今後必ず共生国の大きな敵となるだろう。
なればこそ、確実に息の根は止めなければならない。
そうしてデッドエンドはいつものように敵を抹殺すべく、ゆっくりと歩きだす。
だが――
「なんだぁエイズ? 随分と面白い有様じゃねぇか」
「っ!?」
突如現れた第三者の存在。
エイズに気を取られ過ぎて周囲の警戒が散漫だったデッドエンド。彼は
それは今まさにデッドエンドが向かおうとしていた場所、つまりはエイズが吹き飛ばされた場所から発されていた。
男だ。
短い黒髪の男。
その目つきは鋭く、来るものを全て拒むような剣呑な光を宿していた。
新たに登場したその男は鋭い目つきを倒れたエイズへと向け、獰猛な笑みを浮かべながら上機嫌に喋り出す。
「まさかお前がここまでやられるとはなぁ。なぁ、どんな気分だよ? 悔しいか? ムカツクか? その無表情ヅラはいい加減卒業出来そうかよ? くくっ、はははははははははっ」
仲間……なのだろうか。
新たに現れた黒髪の男は散々にエイズをこき下ろす。
「――生憎と私はいつもと変わりませんよ、
目が覚めたのか、はたまた気など最初から失っていなかったのか。
倒れたままエイズは新しく現れた男を主と、そう呼ぶのだった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます