4:ちょっと古いおしゃれな家

◆◆4◆◆


「ホントに、ホントにありがとうございます!」


 シャーリーは受付嬢アネットに頭を下げられ、お礼を言われていた。

 シャーリーとしてはただ鉱物が気になり、それを自分なりに解析しただけ。だからお礼を言われるなんてことは考えていなかった。


 彼女がちょっと照れながら笑っていると、アネットの元に違うギルド職員の女性がやってくる。

 その女性が耳打ちをするとアネットは何かを思い出したかのように手を叩き、シャーリーにニッコリ微笑んだ。


「シャーリーさんでしたね。もしよろしければプレゼントをさせていただきたいんですが、よろしいでしょうか?」

「プレゼント、ですか?」

「はい。確かここに来たばかりでしたよね? だから住む場所をご提供させていただきます」


 それはとてもありがたい話だ。まだ都市ユルディアにきたばかりであり、住む場所をどうしようかと考えていたところでもあった。

 そのためシャーリーはすぐに「いいんですか!?」と問い返す。

 その反応を見たアネットは嬉しそうに微笑んだ。


「ええ、よろしければ」

「あ、あ、ありがとうございます!」


 やったー、と両手を上げてシャーリーは喜んだ。アネットはその姿を嬉しそうに見つめ、場所の詳細と拠点の内容を話し始める。

 資料を眺めるシャーリー。それを覗き込むように彼女の隣から見つめるドロシアは興味津々にしていた。


 こうしてシャーリーは活動拠点を得る。そしてなぜかドロシアがついてきたのだった。


◆◆5◆◆


 案内された場所。

 そこは郊外であり、しかし中心部からは歩いて三十分で行けるばしょでもあった。


 広がる緑はシャーリーの実家を思い起こさせる光景であり、家となる青い色をした屋根や赤い外壁がちょっと不思議さを醸し出す。

 中に入ると木張りの床が広がり、差し込む光によってかシックな雰囲気が広がっていた。

 そんな家の真ん中には中庭があり、すごく背の高い植物が無造作に生えている。


 そんな家を見守るかのように一本の木があった。

 緑色の葉が生い茂るそれは、穏やかに笑う。揺れる葉はシャーリーの訪れを歓迎しているかのように見え、それを見つめる彼女はちょっと感激していた。


「ここが、私の家……!」


 ちょっと古い家。だけどシャーリーが初めて手に入れた家。

 だからシャーリーは、よくわからないがとても感激していた。


『ちょっと、ホコリだらけじゃない! あーもー、掃除しなきゃ!』


 シャーリーとは対称的にドロシアは文句を言っていた。しかし、家を得たこと自体には文句はないようだ。

 そんな二人を見つめるアネットは満足そうに見つめる。

 微笑みながら彼女は二人に声をかけた。


「気に入っていただけて嬉しい限りです。ここは元々、ギルドマスターの所有する物件なんですよ」

「え? そうなんですか!? そんな家をもらっちゃってもいいんですか?」

「はい。ギルドマスターには話を通してあります。ただまあ、時々様子を見に来ることがあると思いますのでそこはご了承ください」

『面倒ねぇ。でも仕方ないか』


「ところで、シャーリーさんとドロシアさんは一緒に住まわれるんですか?」

「え? そんなの聞いて――」

『その通りよ。当たり前じゃない』


 えぇっ、とシャーリーは驚く。ドロシアの有無を言わさぬカットインを聞いたアネットは、ふむと頷いた。

 ひとまず二人は一緒に住む。ならここは一肌脱ぐしかない。


「では、お掃除を手伝いますね」

「いいんですか!?」

「はい、そのために来ました。あ、必要なものがあったらお申しつけください。できる限り早くご用意させていただきます」

『助かるわ。あ、そうだ。こういうのを用意してほしいんだけどいいかしら?』


 ドロシアは自身を開き、アネットに覗いてもらう。

 それを見た彼女は頷き、こう返事をした。


「そうですね、何点か時間はかかりますがそれ以外でしたらすぐにご用意できます。ちょっと連絡してきますね」

『ありがとっ、お願いね!』


 アネットは微笑み、会釈をして外に止めていた馬車に戻る。

 そんなやり取りを見ていたシャーリーは、ドロシアに声をかけた。


「何を頼んだんですか?」

『秘密っ。あ、そうそう。そんなに丁寧にしなくてもいいわよ。私を家族みたいに思って接してくれたら嬉しいわ』

「え? でもさっき出会ったばかりですし」

『もう家族みたいなものじゃない! そうでしょシャーリー!』


 強引にドロシアは彼女に同意を求める。

 シャーリーは苦笑いしつつ、その強引さに負け「わかった、よろしくねドロシアさん」と言い放った。


 こうしてシャーリーはドロシアと一緒に住むことになる。

 そして戻ってきたアネットから思いもしない言葉を告げられ、驚くのだった。


「戻りました。あ、頼まれた釜やフラスコ類は一時間ほどで持ってこられるそうなので、ちょっと待っててくださいね」

『ありがとっ! あなた優秀ね』

「そんなの何に使うの?」

『錬金術よ錬金術。学ぶって言ったでしょ? 掃除が終わったらやるからね!』

「えぇ!? やるの!?」


 こうして家の掃除が終わり次第、シャーリーは錬金術を学ぶことになった。

 満足げなドロシアに戸惑うシャーリー、そんな二人を微笑ましく見つめるアネットは仲良く掃除を始める。

 その途中、錬金術に必要な機器が運び込まれ、準備が整うのだった。

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