第1章 石ころ大好き少女の夢への第一歩

1:迷宮探索者シャーリー

◆◆1◆◆


 どこまでも広がる青い空の下、七色に輝く囀りを小鳥が歌うように響き渡る。吹き抜けていく涼しい風が人々の髪や頬を撫でると、小鳥は羽ばたいた。


 そのまま風に乗り、大空から小鳥は地上を見下ろす。目に入ってきたのは多くの人が行き交い、活気あふれる都市だ。

 木造建築が並ぶ中、その中心に一際大きいログハウス風の建物があった。


 そこには短剣や盾、弓を持つ者達が出入りしている。

 しかし、騎士のように鎧に包まれておらず、かといって傭兵ほど荒々しさはない姿だ。


 どちらかといえば防御力よりも動きやすさを重視した軽装である。多くの者達はベストや薄手のジャケットというトップスで、ハーフパンツかもしくは多くの収納口があるズボンを穿いていた。


 そんな者達を人々は畏敬の念を持ち接している。

 なぜなら彼らは、迷宮という未知の世界に入り込み、数え切れないほどの宝物を手に入れて帰ってくるからだ。


 そこは危険が満ち溢れている世界。

 多くの者達が〈迷宮踏破〉を目指し、入り口である門を潜っていく。


 生える植物、倒したモンスターの素材、未知の鉱物に見たこともない技術が詰め込まれた機器。

 多くの宝物を持ち帰り、生業とする者達のことを〈迷宮探索者ラビリンスチェイサー〉と人々は呼んでいた。


 そんな者達が多く出入りしているギルドの前に一人の少女が立つ。

 一度ログハウスに掲げられた看板を見つめ、少し緊張した面持ちで中へ入っていく。


 背中にかかった美しい銀髪、大きな翡翠色の目に幼さが残る顔つき、そして小柄ながらも将来性を感じるちょっと大きな胸に、その身体を包み込む白いローブが周りの目を引いていた。


 酒場ともなっている受付ロビーに彼女が入っていくと、和やかな談笑が止まる。

 それぞれが銀髪の少女に注目すると、受付嬢の前に彼女は立つ。

 見つめられた受付嬢が少し戸惑っていると、銀髪の少女は真剣な眼差しでこんなことを告げた。


「あの、あの! 私、迷宮探索者になりたいんです。お願いします、私を迷宮探索者にしてください!」


 それは、思いもしない言葉だった。だからこそロビーは静まり返る。

 しかしそれでも、銀髪の少女は諦めない。ずっと受付嬢の言葉を待っていた。


「えっと、ライセンス登録でよろしいですか?」

「は、はい! お願いします!」

「承知しました。では手続きをしますので、こちらへどうぞ」


 銀髪の少女は安堵の表情を浮かべる。受付嬢に促されるまま座り、差し出された皮紙に自身の名前を記した。

 受付嬢はそれを確認し、受け取る。そして彼女の名前を呼んだ。


「シャーリーさんですね。ここに来た、ということは知っていると思いますが注意事項をお教えしますね」

「は、はい!」

「注意することは三つ。迷宮での探索は自己責任、ギルド内で騒ぎを起こさないこと、クエスト受注と発注はギルドを通すことが原則です。迷宮探索者の支援はしておりますが、これらを守れなければ打ち切りになります。気をつけてくださいね」


 銀髪の少女、いやシャーリーは優しく微笑む受付嬢に頭を下げる。そんな彼女を見て、受付嬢は手続きを進めた。

 支援についての内容、ライセンスの表記、素材の換金方法などを教える。


 シャーリーはそれらを真剣に聞きながら、胸を膨らませていた。

 憧れに憧れた迷宮探索者という職業。母親のように迷宮踏破をし、人々に称賛される。

 そんな姿を夢見る彼女は、顔を緩ませた。


 だが、すぐにそれは引き締まる。家族の反対を押し切り、家を飛び出したこともあり戻れない。

 だからこそ、父と姉を見返すために夢を叶えなければならない。


「絶対に、お母さんのような五つ星になるんだ。あと、たくさん鉱物を集めて幸せになるんだ」


 憧れたお母さんのようにすごい迷宮探索者になり、大好きな石ころに囲まれて幸せになる。

 それがシャーリーの夢だ。その第一歩を、彼女は踏み出したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る