第17話



「もぅ内藤ったらぁ〜。そんな体触らないでよぉ〜。まだここは学校だよ?」


「ふふふ。学校では、私たちの愛を育むのはいけないことかな?」


「そういうわけじゃないけど……。ふへっ。ふへへへ。仕方ないなぁ〜」


「蘭。君は私のものだ」


 どうやら俺は部室を間違えてしまったらしい。


 バタン。


「ちょっと柳さん! 今のはちょっとした冗談じゃん!」


 蘭さんの声に扉を少し開けて中を確認する。


 ボサボサだった髪の毛をワックスで整え、まるで別人のようになった内藤。

 昨日までは片思いをしていたはずだったはずなのに、なぜか蘭さんは内藤さんの膝の上に乗っている。内藤さんが後ろから両腕で抱きしめて……。


「二人の間に何があったんですか」


「え。もう柳さんったら気付かないの? 昨日柳さんに言われた通り自分の気持ちを伝えたの。で、今こうなってる。どういうことかわかるでしょ?」


 私たち付き合うことになりましたぁ〜って、言いたいんだな。


 何も悪いことなんてしてない。ただ俺の教えをそのまま実行しただけで……。俺より先に付き合うだなんて思ってなかったよ。

 

「柳っちゃん。私は柳っちゃんのおかげで変わることができた。ありがとな!」


「あ、あぁ。うん。どういたしまして」


 ピカンッと音がなりそうな笑顔。

 この顔が昨日の、冴えない男と同一人物なんて想像もつかない。

 

 ていうか、俺もまだ付き合ってないのになんで蘭さんはこんな簡単に付き合うことができたんだよ……。


「うふふ。内藤ぉ〜」


「ははは。蘭〜」


 お互い抱きついて、顔が今にもキスしそうな感じ。


 もうここはだめだ。

 お熱い二人の間に入るような野暮なことはできない。




  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆ 




 片思いは素直に自分の気持ちを本人に伝えれば、付き合うことができるものなのだろうか?

 俺の中の答えはNOだ。

 その理由は、そもそも相手にその気がないと付き合うなんて不可能だからだ。


 自分の気持ちをさらけ出したせいで、逆に嫌われることだってある。俺はそうなるかと思ったが、今現在嫌われてはいない。

 だとしたら、俺はなんでまだ凛香さんとそういう関係になれていないんだろう?

 『保留』だとしても、俺のアタックが足りないってことなのだろうか?


「はぁ」


 凛香さんがいる場では絶対出ないため息が出た。


 凛香さんがいる場所は体育館。今は女子バスケットボール部の助っ人にいっている。 

 なぜそれを知ってるかって? 俺はその様子をギャラリーから人知れず見てるからさ。


「ナイシュー!」


 凛香さんはかわいいだけではなく、かっこいい。


 汗を流しバスケを楽しんでいるのに対し、俺はギャラリーで高みの見物。

 反対側にいる、凛香さん応援隊に紛れたほうがいいのだろうか。

 そんなことを思っても俺はここで……。


「見てることしかできない、か」


 全く情けない。

 

 好きだという気持ちにも、伝えるべきときというものがあるはずだ。

 この前橋本が言っていた、きゅんきゅんすることもそれ相応のシチュエーションがなければいけないのと同じ。 


 そのシチュエーションを作れないから今まで片思いのまままなんだけど……。


「はぁ」


「ため息なんてついてどうしたの?」


 凛香さんが隣りに座っていた。

 

 いつからいた?


「ふふふっ。顔に全部出てるよ。私はちょうど助っ人をする試合が終わったから、今来たんだぁ〜」  


「……俺がここにいたこと知ってたんですか?」


「もちろん。私が柳くんのこと見逃すわけ無いじゃん」


「そうですか」


「そうなんです。……で、なんでため息ついてたのかは教えてくれないの?」


 好奇心の塊のような瞳を向けてきた。


 俺は凛香さんの押しに弱い。

 「気になる」だなんて言われて、何も言わないわけがなく。

 

「へぇーなるほどなるほど。蘭たちが付き合うことになって、自分は進展がないから焦りを感じてたってことね」


「え、えぇ。そういうことです」


 自分で喋っていて難だが、なんで俺はその好きな人本人に悩み事を打ち明けているんだ?

 

「それにしてもあの蘭が彼氏を作っただなんて、信じられない」


「あの二人のことを邪魔したくないので、多分俺はもうあの部室に入ることはないと思います。……よかったら凛香さんも一緒に幽霊部員になりませんか?」


「もちろん」


 凛香さんが幽霊部員になったら、今日みたいに助っ人を頼まれる日が多そうだ。


「でも、幽霊部員になってどうするの?」


 言われて、自分でも疑問に思った。

 

「どうするのか何も決めてないんですけど、俺は凛香さんと少しでも長く一緒にいたいです」

 

「じゃあすぐ帰らずに学校に残るってこと?」


「そういう日もあると思いますし、帰るときに少し寄り道したりする日もあるかもしれません。もしかして嫌でしたか?」


「嫌じゃないよ。私も柳くんと一緒にいれる時間が増えて嬉しい」


「そんなこと言われたら俺、勘違いしちゃいます」


「……勘違いしてくれてもいいんだよ?」

 

 本心で言っているのか否か。

 そんな疑問を頭に、俺は教室に戻ることに。

 一緒に戻るはずだったが、凛香さんはやることがあると言ってどこか行ってしまった。なので一人っきり。


 あんなこと言われたけど、もしかして嫌われてるのかな?


 モヤモヤが晴れず、ゆっくり廊下を歩いていたそのときだった。


「柳って言ったな。お前、九条さんに付き纏うな」


 突然、見覚えのない、でかい男に絡まれた。

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