第10話
振り返ってみると、ここ最近色んなことがあった。
その始まりなったのは、片思いしていたクラス一の美少女に愛のメッセージを投稿している裏アカかバレたのがきっかけだろう。だろう、というそれしか考えられない。
それから告白したり、凛香さんの幼馴染に殴られかけたり、色々あった。
そしてこの間俺は凛香さんの好きなところを言い合える同志と出会った。
「――というわけで、俺はいろんな試練を乗り越えてきたってわけ」
「何言ってんのかさっぱりわかんねぇよ」
事細かく丁寧に最近あったことを話したが、五十嵐は一番言われたくない言葉を放ってきた。
「また一から説明してほしいんだな。わかったわかった。ならまず最初は……」
「んなわけねぇだろうが。……てめぇが真剣な顔で「話したいことがある」とか言ってきたから聞いてみりゃあ、何だこれは。てめぇは俺に惚気話を聞かせてぇのか?」
うぅ。なんで五十嵐はいい人なのにこんな人相悪いんだ……。
思わず足を下げたくなるが、今日は胸を張る。
「……五十嵐の言う通りそうかもしれない」
「あぁん? 気持ち悪ぃんだよ」
「凛香さんのこと、守ってたらしいじゃないですか」
俺がそう言うと、五十嵐の悪人面は真面目な顔になった。
「てめぇ……どこからの情報だ」
「凛香さんからです。教えてもらったんですよ。過去、いろんなことがあったって」
「そうか。あいつが教えたのか」
「あぁ」
「そうか。――そうか」
目を伏せて、どこか嬉しそうな顔だ。
さっきまで俺に怒りの感情を向けてきていたというのに、五十嵐の心は一体どうなってることやら。
「はぁ……」
「そのため息、なにか良いことがあったの?」
いつものように机の上で脱力してため息を吐くと、すべてを見抜いたかのような顔をした橋本が話しかけてきた。
「わかっちゃう?」
「もちろん。僕は柳くんがつく嘘を見抜いちゃうからね」
えっへんと、鼻を高くしてきた。
「……橋本。俺、この前彼女さんと関係が進展する方法を教えてもらったじゃん?」
「うんうん。うん? ……うん。教えたかもね」
「覚えてる?」
「もちろんだとも。あれでしょ? あの、柳くんが私たちの愛のキューピットだとか言ってきたやつ」
「……そう。そのおかげで、俺は片思いしていた人と近しい関係になれたんだ」
「へぇーよかったね」
「よかったね」
俺は橋本と話していたはずなのだが、隣から突然会話に入ってくる人がいた。
その人は周りからは注目を浴び、まるで天使のような存在で……。
「凛香さん!?」
「? どうしたの柳くん?」
どうしたのって、俺が同じこと聞きたいんだけど。
「柳くんが下の名前で女性の名前を呼んだ……。まさか近しい存在になれた人って!?」
口を抑えて衝撃を隠しきれていない橋本。
「お〜い柳くん」
俺の机に顎を乗せながら話しかけてくる凛香さん。
俺は一体どっちと喋ればいいんだ?
「ふふっ。柳くん。僕は少しやること思い出したから、席外させてもらうね」
「あ、うん」
どうやら橋本に気を使わせてしまったようだ。
俺と凛香さんが二人っきり。
そのせいで、クラスメイトはなぜクラス一の美少女が冴えない陰キャの俺と二人でいるのか、コソコソ喋っている。
悪口……ではないが、やはり俺たちの組み合わせはおかしいらしい。
「そういえば柳くんって、SNSのDMって返したりするの?」
凛香さんは周りの目など気にせず、いつものように話しかけてきた。
「DMは、まぁちょくちょく返してますよ」
そうだ。DMと言ったら『九条@裏アカ』とのDMだ。
一度DMが来て、あれから毎晩のように来るようになった。会話の内容は俺が好きで片思いしている人の良いところだったり、惹かれたところだったり。
「へぇ〜……。返すって、どれくらいの頻度? ほとんどのアカウント平等に全部返したりしてるの?」
この話題の振り方的に、あのアカウントが凛香さんだと言うのはもう確実にあっている。
「全部平等に返しているつもりなんですけど……。まぁ、その途中でアカウントが消えたりしたら返せなくなりますね」
「…………それって一体どんな内容送ってるの?」
「知らないほうがいいと思いますよ」
というか、布教活動をしているなんて凛香さんに暴露したら嫌われるに決まってる。
「そ、そうなんだ。なら私は何も聞かない。でも、その代わりに一つお願いしたいことがあるんだけど」
「? なんですか?」
「もしDMを送ってきた人が『会いたい』って言ったら、リアルで会ってみて」
――このとき俺は、まさか本当に凛香さんの裏アカから本当に『会いたい』と来るとは思ってなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます