Episode of Devils ~妖怪たちの話~(Bise)
オレの名はブリーズ、フランス語で『そよ風』っていう意味らしい。
この娘の名前はフロラール、これまたフランス語で、『花の香り』っていう意味なんだと。
しかも、この娘はオレの名付け親。
いや、親って言っても、同い年だけどな。
「さあ、行きますわよ! ついて来なさい、ブリーズ!」
「はいよ、フロラールお嬢様」
これは、そんなオレが、彼女を失って死ぬまでの話。
そして、次なる命となるまでの物語。
<* * * * * * * * * * * * *>
《………寒い、寒い、寒い、寒い………あれ? なんか寒くなくなって来たぞ?》
しんしんと、雪の舞う音が聞こえてきそうなある日、オレは、大通りの隅っこで、一人寝たふりをしている。
もちろん、本当に寝ている訳じゃない。ただ寝ているだけでは、何の意味もない。
オレの座り込んでいる、お世辞にもきれいとは言いづらい、ボロ布の角に、ヘタクソな字で、〈おなかがすいた〉と書いた紙を貼った空き瓶を置いておく。
すると、心優しい通りすがりの見知らぬ人が、偶に硬貨を入れていってくれるのだ。
普通に座っているのではなく、何かを抱え込むようにうずくまると、本当におなかがすいていると思わせられる。
だから、さっきから寝たふりを続けている。
オレの生計を立てる方法は今はどうでもいいから、この話はおしまい。
ところで、さっきオレは言ったよな、雪の音が聞こえてきそうって。
勘違いした人がいるかも知れないけど、あれは、雪は降ってるけど、そんな擬音は聞こえてこないっていう意味ね。
つまり、寒くないわけがない。
今のオレは、『貧しい男の子』を装うため、お世辞にも綺麗とは言えない恰好をしている。
貧しい男の子が、マフラーや手袋、毛糸のセーターなんて、普通持ってないだろ?
普通の人でさえ、マフラーしながら寒いって言ってんのに、このオレときたら、ほぼほぼ丸腰だぜ?
死ぬわ。
今日は、まだ『寒い』で済んでるからいいものの、これからもっと寒くなる。
そしたら………
まじで死ぬぞ?
物乞いナメんなよ?
まぁ、こんな軽装備で寒風吹き付ける街の大通りに座っていると、次第に寒くなくなってくる。
嘘だ。
《ああ、寒くなくなったんじゃない......オレが、寒く感じなくなっただけだ》
結果、こうなる。
でも、オレは、普通のホームレスとは違う。というか、オレはそもそも、ホームをレスしてない。
オレのおばあちゃん達は、オレを置いてつい先日旅行に出かけていった。
あの荷物じゃ、あと一か月は帰ってこないと見てもいいだろう。
そして、ばあちゃんの家の鍵をオレは手に入れている。
もうお分かりだろう。
いこうよ、ばあちゃんの家。
はい、到着っと。
そこまで遠い距離でもないし、歩いて向かっても倒れることはないと踏んでたんだけど、やはり早めに向かっといて正解だったな。
荷物………つっても、空き瓶とボロ布だけをまとめる間に、吹き付ける風が、だいぶ強くなったからな。
本来なら入ってはいけない、中のものを勝手に使ってはならない、と言われているが、どうせみんなオレを残して旅行に行ったんだ、バレやしない。
《...ぁあーーー、あったけぇ...》
いや、あったかい。ほんと、あったかい。
普通の人がどう感じるかはわからんが、あの寒空の下、動かずじっとしていて、体温激さげぷんぷん丸だったオレには、天国のようだ。
......え? 何? 『激さげぷんぷん丸』についての説明を、述べよ?
日本っていう、東の方にある国で、JK? とかいう人たちの間で流行っている、『激おこぷんぷん丸』っていうのがあるらしい。
意味はよく知らなかったけど、名前の響き的に、刀? っていう、日本の剣に似てるよねって、前に通行人が喋ってたのを聞いた。
オレも、きっとそういう事なんだろうって思ってたし、なんかかっこいいから、ちょくちょく使ってこうかと思い、使ったって訳。
意味はよく分かってない。
《ここ最近、かなり寒くなって来たしなぁ...そろそろ、冬眠に入るべきか?》
あ、別に、ほんとに冬の間、ずっと眠るって訳じゃないからな? ええと、あれだ、あれ。昼、じゃなくて、お湯でもなくて......あ、そうだ、比喩だ、比喩。
他のホームレスやらとは違うと思うが、オレは冬になると、ひっそりとばあちゃん家に引きこもる。
そして、バレると色々と五月蠅いから基本的には一切住処を出ない。
ずっと眠ってるわけじゃないにせよ、実際は食って寝るだけだから、それが、オレの『冬眠』ってこと。
え? 金は足りるのかって?
足りるさ。だってオレは────
「あなた、何をしているんですのッ!! ────ああッ、お待ちなさい!!」
………ちょっと待て。なんだ、今の。
オレの耳がおかしくなったんじゃないとしたら、今、家の東の柵の方から、甲高い声が聞こえてきたんだけど。
さすがに放っておくわけにもいかないので、オレも窓から様子をうかがう。
すると、オレの目の前を、なんかよくわからない少年が走り去っていった。
そして、その後ろから、やたらと高そうなドレスをまとった少女が走ってくる。
が、体力が尽きたようで、オレの目の前でかがみこむ。
「はぁ、はぁ...こらぁーーッッ...ぜぇ...」
と、弱々しい声を漏らし口から涎が飛び出して、髪は纏まらず目は大きく見開かれているその姿。
ドレスの放つ気品に比べ、女の子の仕草が、何と言うか、その………野性的過ぎる。
「あー、なんだ、その………大丈夫か?」
口ではこう言ったが、内心では。
《なんだコイツ?》
という思いでいっぱいだった。
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