第11話 バレンタインデー

 両想いになってから、2度目のバレンタインは、じっくりと挑んでいた優の医学部推薦受験の合否発表日と重なったため、自由登校の学校は休み、優と友里はふたりきりで、駒井家にいた。


 3時のおやつに、友里の手作りチョコレートケーキと暖かい紅茶が出てきて、優はハッとして友里を見た。

「やっぱり、先に渡しちゃお!って思って。ハッピーバレンタイン!」

 合格発表の後だと思っていた優は、友里の小さなサプライズに笑顔になった。

「嬉しい。ありがとう。でもいつ作ったの」

「高岡ちゃんちで、日曜日に!」

「ああ……だから歯切れが悪かったんだね。あとで高岡ちゃんにお礼を言わなきゃ。でもホワイトデーは、一緒にしないから」

「もう~」


 友里は、優と友里の親友の高岡の敵愾心なのか同族嫌悪というやつなのか、高岡にだけ見せる態度にくすくす笑いつつ、優の為の甘くないチョコレートケーキに、甘い粉糖とそれから生クリームを付けて、自分の分を作り上げた。

 紅茶の香りと共に持てなされ、優は「わたしも」と友里の前に、お歳暮のようなブリキの缶を置いた。

「これからもよろしく。友里ちゃん。タブレット型のカワイイ正方形のモノをいっぱい入れたよ。ちょっとキルトみたいで、お裁縫が好きな友里ちゃんにいいかなって。もちろん、個包装になってて、少しずつ食べられるからね」


 年末年始も過ぎ、毎年友里がダイエットをしている時期でもあるので、気にした優は言い訳を並べながら言ったが、綺麗にラッピングをはがした友里は目を輝かせて、ピンク色の花柄を眺めては「ほほ~」と感心して、「ルビーチョコって書いてる!」「この缶は糸入れにするからね!?」などと大喜びを体で表していて、優は嬉しくなる。


「ふふふ、今年は、どんな甘いものでもどんとこいだよ!ありがとおおおお!!」

 言いながら、友里がパーカーの中に着ている薄手のキャミソールをぺろりとまくり上げて引き締まったお腹をポンと叩く。優は、サッと目をそらした。何度でも優は友里の白い肌にチカチカと光が点滅するかのごとく心臓が高鳴り、まったく慣れないのだが、友里は相変わらず目をそらす優を奥ゆかしいと思い、(淑女の前ではしたないわね)といいつつ、お腹をしまった。


 友里は9月に、自分の行きたかった服飾系の専門学校への入学が決まっており、優の受験のサポートをしていた。友里は優の恋人として家族に認知され、一緒の家に住んでいることもあって、夜に暖かい紅茶をいれたり、お守りを縫ったり、寒がりの優のために、手首部分にカイロの入る手袋や、上着を作ったりしたので、いつもよりも、さらに過保護がパワーアップしていた。もこもこの優が完成して、高岡に、「きぶくれ」となじられたりもした。


 あっという間に、合格発表の夕方5時をむかえた。


「ドキドキするね」

 優の緊張を削ぐ予定で頑張ってはしゃいでいた友里の方が何度もそういうので、優も多少緊張しつつ、PCの画面をのぞき込む。


 時間が来た。

 優が登録済みのサイトに自分のパスワードを入力し、友里が手を組んで、祈るように目をつぶった。

「合格だ」

 優のホッとした声に、パッと目を開けた友里は、画面を見て、優を見つめて、抱きしめた。

「きゃ~~~!!!おめでとう!」

 ドップラー効果で消えていく友里の背中を優が眺めていると、忍者屋敷のようになっている友里の部屋のクローゼットから、優用のドレスを何着も持って走って戻ってきた。レインボーカラーに並べたドレスから、優は促され、紺色のドレスを選んだ。裾に向かって白い雪景色のような刺繍がちりばめられている。

「テーマは、ちょっとしたパーティドレス!」

「すごい、こっちがメインか……」

「優ちゃんはキラキラが好きだから、ちょっとがんばったよ~!包装してなくて、ごめんね。合格おめでとう!アンド、ハッピーバレンタイン!今年もよろしくね」

「ありがとう、紺の光沢のある布も素敵だけど、刺繍が、グラデーションになっていて、布自体が輝いているみたい。何層にもなっているスカートも、上品に広がって、くるぶしの少し上で歩きやすいし、見てて幸せ」


 優の着付けを手伝い、友里は優の周りをくるくると回り、優の体にフィットした瞬間に完成したかのように、出来栄えにうっとりした。

「優ちゃんを想像して作ったけど、やっぱり着てもらえると、想像の数億倍綺麗で、嬉しい!」


「友里ちゃんの作る衣装って、着てる人が気持ちいい、楽しいってことが一番考えられていて、好きだな」


 友里にばかり回ってもらうのを悪いと思ったのか、くるりと回って見せる優に、えへへとはにかんで、友里は、優の素直な感想に喜んだ。

「すぐに彗さんがお迎えにきて、高級レストランでお祝いパーティーだよ、優ちゃん」

 友里の言葉に、優はすぐにハッとした。

「……、これは、母と画策してたの?」

 友里は、優に気付かれて、ヘヘっと苦笑いをした。優のドレス製作費のスポンサーは、優の母の芙美花で、今回の生地はいつもより数倍良いものだから、あっという間にバレたなどと言っていると、優が言い淀んで、少し憂い顔になった。友里は伺うように覗き込んだ。

「?」

「友里ちゃんバイトや、わたしの受験のサポートでほんとうに忙しそうにしてたのに」

(おかげでいちゃいちゃもできなかった。母もライバルだなんて)と言う気持ちを込めて、優が握りこぶしをつくるが、友里は「?」と言う顔をした。

「無理しないで、友里ちゃん。また倒れちゃう」

 元気いっぱいすぎて忘れがちだが、友里は子どもの頃の怪我の後遺症か、貧血もちでちょっとしたことで倒れたり、すぐに熱を出す。

「ムリなんて!だって優ちゃんのためだもん、全部楽しいよ!優ちゃんのためなら、なんでもできちゃう!ほかになにがほしい?」

 優は友里を見つめた。優はキョロっと辺りを見回した。そして観念したように、口を開いた。


「合格祝いに……ぎゅってしてもいい?」

 優が、小さな声で言う。つい先日した、合格の約束だ。


「ええ、なにそれ!かわいい!そんなことでいいの?優ちゃんのために、ぱぁっと花火でもあげたいくらいなのに!」

「うん」

 すっかり忘れている友里に苦笑しつつ、「もちろんドレスは嬉しいよ」といいながら、優がそっと友里を抱き締めた。友里を胸に抱いて、優はハアと友里の耳の当たりで、愛おしさを込めた吐息をこぼした。友里は、簡単に抱き着いた自分に、少しだけ後悔した。優の色っぽい吐息に、ドキドキと心臓が跳ね上がる。

「優ちゃんの中に、空想の良い子ちゃん「ユリチャン」がいない?こんなことでいいの?」

「友里ちゃんがこんなことって思うようなことが、わたしにとってはこの上ないものなんだから」

「ソウ……デスカ……」

 カタコトになってしまうほど、友里がカチリと体がこわばったことに気付いた優はクスリと笑った。

「うん、そうです」

 こたえると、真摯な顔で額に瞼に、友里に口づけをして、唇を求めた。それに気づいた友里も、そっと瞼を閉じた。

 唇が、柔らかく離れると友里に優は、そっと体を預けた。


「本当に、色々ありがとう。友里ちゃんが、協力してくれたおかげで、全力を出し切れたよ。指先も冷たくならない手袋、本当にうれしい。これからも使うね。大学へ進学した後も、よろしくね」


 優が、ぽそぽそと甘い声で話す言葉を、友里は聞きながら、ドキリと心臓が震えた。優の人生に組み込まれていくようで、友里は嬉しくてジンとする。

 友里も、優に擦りつく。背中を、撫でて、友里は愛おしそうにもういちど、優の名前を呼んだ。思っているよりもずっと甘えた声になってしまった気がして、友里は少し照れた。

「優ちゃん、あらためて、合格おめでと」

「ありがとう……合格祝い、友里ちゃんにもなにか」

「専門に合格してからいっぱい貰ってる!それに、4月から、ふたりで同棲がそれだよ!やったね!」

 友里が優の胸にゴロゴロ擦りながらいうが、優は「もっとなにか」といいかけて、友里の笑顔に、負ける。初めてふたりで、6年間も同棲をする。色々な苦労もあるかもしれないが、今は、幸福な未来しか想像ができない。

「えへへ、これからも、よろしくね、優ちゃん」

「こちらこそ」

 顔を寄せて、もう一度くちづけをした。

「ん」

「友里ちゃん……」

 優の中で、なにか火が付いたような甘い声を聞いて、友里はゾクっと体の芯が震えるのを感じたが、お祝いパーティの時間を考えて、そっと優の胸のあたりを押した。


「帰ってきたら、いっぱいして」

「え」

「もうパーティに行く時間でしょ?」


 友里がそういうと、優は「そうだね」とあきらめ、友里から少しだけ離れた。


「友里ちゃんは、どんなドレスを着るの?楽しみ」

 友里に、優は冷静な声で促すように問いかけた。長い髪をセットしたりするのだから、優より時間がかかるだろうと、友里の心配をする。

「え?わたしドレス持ってないよ」

 優と友里は顔を見合わせて、優が困ったようにこくりと頷く。友里は、サッと顔色が変わった。

「今日のパーティーって、わたしもいくの?」

「友里ちゃんが専門学校合格した時だって、みんなでパーティーしたでしょう」

 パーティー好きな駒井家では、ちょっとしたことも盛大にイベントに早変わりする。友里の合格祝いも、それはそれで華やかなものだったが、それは駒井家の中で行われていて、ドレスが必要となるような高級レストランでのパーティに、マナーもおぼつかない友里が、参加するとは、イチミリも考えてなかったようだ。


「……!」

 優に目線をあわせて、友里は頬を掻いたあと、ぐうっとうなだれた。


「まさか、だって母が、友里ちゃんの分と、わたしの分で頼んだんでしょ?」

「え、え、ッとドレス代としか」

「行きたくないなら、無理にはつれて行かないけど……」

「だって!家族だけで祝うとばかり」


 友里のその言葉に、優はハッとした。そして、ジワリと、普段感じたことのない、怒りにも似た感情が、沸いた。


「友里ちゃんは、わたしのパートナーでしょ」

「……!」

「今後はお互いに、勝手な思い込みをせず、報告・連絡・相談を心がけよう」

「……はい」

「誰より大事なんだから、ないがしろにしないで」

「うう」

「特別な人なんだから」

「そのへんでかんべんしてください!」

「まだぜんぜん言い足りないよ」


 へらへらと言い訳を重ねていた友里だったが、優の真剣な様子に、もじもじと長い髪を掴んで、コクコク頷いた。パートナーという言葉を、口の中でもぐもぐ言っている。優は、母親にドレスがないことや、ことのあらましを連絡をした。

 それからは、まるで嵐のよう。母に連絡を受けた優の9歳離れた兄、彗が、火の玉のように友里と優を迎えに来ると、母・芙美花の指示の元、友里はみるみるお姫様に変身した。


「キラキラだ!」

 芙美花が懇意にしているセレクトショップの店員は、意外とカサのある友里の胸に苦戦しながら、ミントブルーで、プリンセスラインの美しいレンタルドレスを探し当ててくれた。興奮気味に喜ぶ友里と、ぐったりとした彗と優が、その出来栄えにお互いをたたえ合っている。夕食会のはじまる時間にほぼジャストだった。


 彗も正装に着替え、車をとりに出掛けた。路上で彗を待っている間、もこもこのコートを着てはいるが、ふたりは2月の寒さに凍える。

「友里ちゃんが作ってくれた手袋、もってくればよかった」

「今度、ドレスに似合うのつくるね」

 毛糸と合皮で繕った、カイロが入れられる友里お手製の手袋を求めて優が恋しそうに言うので、友里は、優の冷え切った細い指を包むように手をつないだ。


 少しだけ薄化粧をしていることに照れている友里が、ようやく優を見上げた。


「友里ちゃん、やっとわたしを見てくれた。怒ったから、怖がってるのかと思った」

「いつ怒ったの?!レアだ!!優ちゃんはいつでもかわいい!こんな素敵な衣装、わたしには勿体なくて、恥ずかしかっただけ」

「友里ちゃんは、かわいいよ」

「!」

 優の真摯な声に、友里は目をそらした。「やっぱプロの方の縫製は、美しいね」と、話題を戻す。

「友里ちゃんがプレゼントしてくれたこのドレス、どこのオートクチュールですかって聞かれたよ」

「本当に!?えー、きっと、モデルが良いからだよ~」

「わたしのためだけ、でなく、もう本当に服飾が好きなんでしょう?」

「……うん」

「自信もって。友里ちゃんは、すごいんだから」


 いつもと反対だ、と、ぶつぶつと言いながら、友里がうつむいて、白く光るエナメルの靴の先を見ながら、照れ隠しのようにモジモジとしている。


「わたし、友里ちゃんがなにか望む前に、なにもあげられないなっていつも思う」

「?」

「友里ちゃんは、いつもわたしのこと考えて、すごく素敵なキラキラをいっぱいくれるのに、わたしは、聞いてからな事が多くて、下手だなって」

「優ちゃんは奥ゆかしくて、淑女だなあと憧れるけど」

「……そう?」

 友里が優を見上げると、優は困ったような、憂い顔で、友里を見つめていた。

 最近よく見せる、優の、自分の中の炎をどう制御したらいいかわからないというような表情を見つめながら、友里はごくんと息をのんだ。


「さっき怒ったのはね……。友里ちゃんが、わたしにとって家族だと思ってないってことは、特別ってことが、伝わってないんだって思ったからで……自分勝手な怒りをぶつけて、ごめんね」

「ううん、全然、怒ってるって思わなかった。パートナー、うれしい」

 それなら、良かったけれどと言いながら優は、友里を見つめた。

「受験合格は、今まで育ててきた人たちへの感謝とかなのかなって思ったの!」

「それを言ったら、友里ちゃんがいないの、もっとおかしい。すごくサポートしてくれて、いちばんの功労者だって、全員が口をそろえて言うよ。いつでも、友里ちゃんが、特別。だから──」

 優は、少しだけ考えて、それでもと声に出した。

「友里ちゃんが、自分なんてなにもしていないって言うたびに、怖いんだ。友里ちゃんにとって、わたしにしてくれるすべてが、全部、消えてしまったらとか、なんでもないことで、誤解して離れたらいやだなとか……そんなことばっかり考えてしまう」

 友里は優の不安になっている感情がわからず、キョトンと目を丸める。

(これ、あれだ!わたしが、自分をないがしろにすると、優ちゃんが怒るやつだ)


 ──わたしの大好きな人を、大切にして。


 反省しつつ、友里は、優に抱き着いている腕を強めた。


「ええ……と、ごめんね、離れない」

「ありがとう。大好きだよ。でも、なにがあるか、わからないでしょう?わたしも、友里ちゃんのお姫様でいるから、友里ちゃんはわたしのお姫さまでいて」

 優は冷たい指先で、温めるように包んでいた友里の指の間に、指を絡めた。じっと見つめる友里の瞳が戸惑いで揺れていることに気付いたのか、優が自嘲気味に笑った。


「なんて、言うと……友里ちゃんが照れて真っ赤になるのが、カワイイ」

「ん!」

「友里ちゃん、大胆に見えて、実は恥ずかしがり屋だから」

「今は完全に、からかってる!!もう!!優ちゃん!!」

 友里が笑うと、優もホッとしたような笑顔を見せた。本心から話していても、友里が欲しがる言葉ではなかったことに気付いて、優は友里が欲しがる、そちら側に寄せることにしたようだった。それで友里が微笑むのなら、そのほうがいいと思ったのだろう。


(どうしよう……、今って、ふざけたらいけなかったのかも)


 甘い空気が、くだけてしまうような気がして、友里は黙り込んでいる優を見上げた。

「……」

 せっかくのお祝いの日に、自分への負の感情が、優を押しつぶしてしまう気がして、もどかしい。

 もっと気楽に、特別で自分より大事だと伝えてみたい気持ちが駆け巡っては、友里にとって世界中の誰よりも大事な優が、友里に自分を大事にしてほしいと思っていることを考える。


(優ちゃんは、やさしいから……)


 友里は、優を見上げ、はにかんだ。

「優ちゃんって、手が冷たい。手が冷たい人って、心があったかいっていうよね」

「その理屈は、友里ちゃんの心が冷たいことになっちゃうから、だめ」

 子どものように優が、続けようとした言葉を遮るので、友里は「うう」とうなった。

「だから優ちゃんがやさしいから、そう思うんだよって言いたかったのに、でもまって!たしかに優ちゃん以外は実際どうでもいいし、わたしって心が冷たいかも!!優ちゃん自身は甘いもの苦手なんだから実はちょうどいいのかな」

「なに言ってるの、友里ちゃんほど、人のためにいろいろできる子、わたしは知らないよ」


 優が、自分をおだてるようなことを言わないで済むよう、自分のことを、ポジティブにとらえて、どこか他人ごとのようになれる日は来るのかと、ぐるぐると戸惑った。(こんなんじゃいつまでも優ちゃんに気を遣わせてしまう!)素敵な衣装を着ているのに、心はどんどん醜くなる気がして、友里はうつむいた。


「優ちゃんは、自分ではヘタって言うけど、いつでもあったかくて、甘くて、幸せなものだけで出来てて……それを、貰ってるから、だから……わざわざわたしのイイトコ見つけたりして、ほめたりしたら、貰いすぎなの!」

「友里ちゃんは、いつでもわたしに甘い」

「……ん」

「事実でもダメ?」

 呟くように言う優に、友里は泣きそうになりながら、ぎゅっと心臓を掴まれたような気持ちになった。

「だって、はずかしくて、優ちゃんに褒められるたびに、自分が王子さまじゃなくて、乙女みたいで、どんどんおかしくなる」

 友里はハッとした。

「そうだよ、わたし、お姫さまじゃなくて王子様になりたいってずっと言ってる」


 自分だけが、優に甘やかされているようで、グッと息を飲んで、沈んだ気持ちを浮き上がらせるように顔を天に向けると、15センチ離れた優の瞳と目が合った。

「実績が伴うようがんばる!」

「……充分、日頃もかっこいいとおもってるけれど」

「そうなの?全然よ、すぐ昂って、うっかりで、……」

「王子様でも、お姫さまでも、友里ちゃんを、愛してるよ」

 友里の自己肯定感の低さや、全てをわかったうえで、ニコリとほほ笑む優に、友里は完敗した気分になる。


「あああ!ユウチャンカワイイ!!大好き、じゃなくて、わたしだって、あ……!」

 言いかけて、友里は言葉が出せず、躓いた。

(あいしてる、っていうの、すっごい恥ずかしい……!!)

 カアッと、頬に熱いモノが駆け巡るのが分かった。


 優の冷たい指先を包むように、もう一度手をつなぎ直した。優の長く細い指先に、じんわりと自分の体温が広がるようで、身勝手な恋心ではなく、今は両想いであることを自覚させていく。その言葉に優が喜んでくれるだろうと、思って、それよりも自分が言いたい気持ちを大切にしたいと、真心を込めて、優を見つめた。

 今日は、愛を伝える日だ。


「愛してるから……ね」

 精一杯、大きな声でいうが、モスキート音のようになっている気がして友里は体まで熱くなっていく感じがした。

「……やはり友里ちゃんから貰ってばかりだ」

 けれどきちんと伝わったらしい優が、小さく頷いた。恥ずかしくて、優から顔をそらしたが、友里は、優のレア表情収集家でもあるので、その言葉に優がどんな反応をしたかが気になり、ちらりと上を見上げた。

 首筋から、耳にかけての優の肌の色は、今までに見たことのない真っ赤な様子だった。それから、少し潤んだような、漆黒の瞳が、そんな友里に気付いて、見つめてはにかんだ。

「あんまり、みないで……」

 恥ずかしそうに、呟く優。

「んあ……カワイイ~~」

 友里は、口を開けてそんな優を見つめてしまう。

 照れて顔を背ける優に抱き着いて、友里は言葉にならない言葉を、もぐもぐと繰り返した。

「もう……っ」


 優が照れて、握った友里の手をブンと振る。友里が笑うと、彗の車のライトが、ふたりを照らした。今夜は、パーティーだ。

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