第24話 ゴメンな
昼休み。いつものように僕らはケイタの席に集合していた。
「タイチの弁当って美味そうだよな」
リョウスケが焼きそばパンを食べながら言った。
部屋に閉じ籠っている時は母さんの料理なんて美味しいとは思わなかった。けれども今は美味しく感じる。母さんの料理だけじゃない、あの頃は何を食べても不味かった。
「ところでタイチ。『ディープダンジョン』の事だけど、知ってるよな」
「もちろん。今夜七時、新しいダンジョンが開放されるんだろ」
リョウスケとケイタは同時に首を縦に振る。
「そこでだ。俺達も開放と同時に突入するってのはどうだ。開放初日ならレアアイテムや特別ボーナスもあるだろうし」
「良いね。僕も乗った」
僕ら三人はハイタッチを交わし、ゲーム上の集合場所を決めた。
五時間目と六時間目の授業も僕は上の空だった。
僕も今日のダンジョンに関しては前から楽しみにしていた。新しいフィールドが広がった時はいつもワクワクするけれど、今回はリョウスケとケイタという仲間もいる。
リョウスケ達と途中まで一緒に下校し、僕は早足で家に戻った。今日の冒険の準備をしておかなければならない。冷蔵庫から麦茶をペットボトルごと調達し、台所の棚からポテトチップスを二袋取って部屋に上がった。
ここ最近、遅くまでゲームをしていたのでパソコン周りが散らかりっぱなしだ。ダンジョン開放の七時までまだ時間がある。少し整理整頓しておくか。
お菓子の袋や輪ゴムをゴミ箱に投げ込み、埃の被ったデスクをティッシュで拭く。出しっ放しだったマンガも本棚にしまってゆく。
これは……。
マンガに埋もれた一冊の本を見つけた。
スミに借りていた本だ。まだ三分の一ほど残っている。もう何日も読み進めていない。どんな所で終わっていたっけ。
また今度読もう。とにかく今はゲームで忙しい。僕はスミの本を勉強机の引き出しにしまった。
そうこうしている内にもう六時半。そろそろゲームを起動しておかないと。開放の十五分前にリョウスケ達と待ち合せをしている。
ゲームのメニュー画面が立ち上がる。僕はコップに麦茶を注いで集合場所へ向かった。
『時間ギリギリだぞタイチ』
リョウスケとタイチはもう着いていた。先に始めてアイテムと装備を整えていたらしい。
『あと五分でダンジョン開放だ。そろそろ向かおうか』
新ダンジョンはマップも複雑な上、モンスターも強い。今の僕らでは攻略はかなり困難だった。おかげで長期戦になっていた。
夕食の時間になっても食卓に降りて行かないものだから、母さんも心配して部屋を覗きに来た。母さんは「後でちゃんと食べるのよ」と残し、おにぎりだけ置いて行った。
おにぎりを食べながらダンジョン攻略を進める。それでもなかなか終わらない。リョウスケとケイタもパソコンに向かったまま食事を摂っているらしい。さらに僕はそこからポテトチップスを二袋とも食べてしまった。
気付けばもう夜の十一時。
ゲーム内で剣を振りながらもスミの事を思い出した。今頃スミは僕を待っているだろう。
そうだ、今日こそ『ライジングサン』の続きを持って行かなければ。
もう四時間もぶっ通しでプレイしている。僕はスミとの約束もあるし、この辺りでログアウトしようか。
大型のモンスターを倒し、ダンジョン攻略もひと段落ついたところで僕はリョウスケにコメントを送る。
『そろそろ僕は抜けるよ。続きはまた明日の夜な』
僕が脱出アイテムを使おうとすると、リョウスケがすかさずコメントを返してきた。
『待てよ、今タイチに離脱されると俺達もピンチだ。このままダンジョンの最深部まで攻略してしまおうぜ』
『でも、もう遅いし』
『俺達は四時間も進んでるんだ。いくら何でも最深部は近いはず。もうすぐ着くって』
『うーん。でもなあ』
『頼むよタイチ。友達だろ』
そのコメントを見て僕の手が止まった。
友達、か……。
僕は脱出アイテムの使用をキャンセルして剣を装備し直した。
ゴメンな、スミ……。
『そうだな。せっかくだし最後まで行ってしまおうか』
『ああ。そう来なくっちゃ!』
結局その夜のダンジョン攻略は夜中の三時まで続いた。僕は空腹と疲労でそのままベッドに倒れ込む。
その日、僕は初めてスミとの約束を破ってしまった。
ホントにゴメンな、スミ……。
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