10話.[早く助けなさい]

「い、嫌よ、やめなさいっ」

「まあまあ、詩舞はいっぱい涼成に求めたんだから涼成が求めてきたときは聞いてあげないとね」

「で、でも、さすがにこれは……」


 馬鹿な茶番を繰り広げている二人を止めて彼女が嫌がっていた食べ物をさっさと食べておいた。

 飲食店だから騒がれると困るのだ、それに嫌いな物ぐらい誰にだってあるから無理をさせるべきではない。


「勝手に俺が無理やり食べさせようとしているみたいに言うなよ」

「はは、いやほら、彼氏である涼成が求めれば食べてくれるかもしれないって期待してね」

「嫌いな物があるのは仕方がない、あれもこれもそれも嫌いってことなら大丈夫かと不安になるけど」

「うっ、つまり僕は悪いことをしてしまったということだよねっ? もう一緒にはいられないっ、帰るよ!」


 ちなみに今日は約束なんかしていなかった、二人で歩いていたら暇人の理央が参加してきた形になる、だから俺からすれば最初から最後まで落ち着きがない存在という感想しか出てこなかった。


「……もうちょっと早く助けなさいよ、涙目になるまで待ったとか言ったらぶっ飛ばすわよ」

「俺のために止めただけだ、普通に利用しているだけなのに出禁になんてされたら嫌だからな」

「はあ~、涼成っていつもこんな感じよね~、まあ、ありがと」

「食べ終わったから出るか」


 学校生活もバイト生活も問題なく過ごせているのも関係していて最近は毎日が楽しかった。

 ただ、夏で暑くてすぐに汗をかいてしまうというのが気になるところではある。


「諸永、俺って汗臭くないか?」

「普通よ、そもそもあんたは全く汗をかかないじゃない」

「それは見ていないだけだ、そんなことを言ったら諸永の方がそうだろ」


 どれだけ忙しくなっても、また暑くなっても、色々な意味で涼しい顔をしていて気になっていたのはあった。

 まあでも、汗をかけなければ熱がこもってしまうわけだから俺のこれが全て悪いというわけではない、が、人並みの感情があるから不安になってしまうときもあるという話で。


「そのまま返させてもらうわよ――って、な、なによ?」

「ほらな、こうして触れてみても汗がついていないだろ?」


 だが、少し体温が高い気がする、夏でもじっとしていない人間だからちゃんと見ておかなければならなさそうだ。

 そういう点では勝手に近づいてきてくれるというのは大きいな、物理的にじろじろ見ていたら怪しまれるから大きい。


「いまはね、バイトのときとかは――って、なにをしているのよっ」

「家でしているようなことをしているだけだ、もちろん求められたときにしかしていないけどな」


 なんかこの言い方だと変なことをしているように聞こえるかもしれないがただ求められたときに頭に手を置いているというだけのことだった。

 撫でるのではなくて置いてほしいと言われる度に違うだろと言いたくなる、よく分かっていない俺でも違うと分かる。

 ただ、求められてもいないことをするべきではないし、勝手に撫でたりなんかしたら俺がそうしたくてしているように見えるかもしれないから言うことを聞いていた。


「い、いま触ったじゃないっ、求めていなかったわよっ」

「素直に認めるの面白いな」

「あ、当たり前よ、嘘をついても仕方がないもの。それより私の家に行くわよ!」

「おう、そういう約束だからな」


 それと関係が変わってから俺の家に来なくなったのが気になっていたものの、まあなんか色々あるのだろうと片付けて生きていたのだった。

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