第131話 ラ・トゥール司祭との再会
これでメディチ邸の地下で反作用に巻き込まれた仲間は、ジャンヌを除いて居場所が判明した。あとはジャンヌを見つけ出し、アイヒを救出すれば元通りとはいかないまでも影響を最小限に抑えることが出来たんじゃないだろうか?
「そう言えば、コジモはどうなったんだ?」
俺は急に気になってクレオパトラに聞いた。
「あの男は、プラトンアカデミーを創設したわ。今は商売を部下にまかせて研究に夢中になっているらしいわね」
フィレンツェはローマ帝国の直轄地になっている。コジモの望みがかなったのかどうかはわからないが本人は満足しているのだろう。
俺たちはタンプル塔の3階にあるアイヒの部屋へ戻った。
「――そう言うわけで俺たちは本物のジャンヌを探すことになった。申し訳ないがもう少し我慢してくれ」
「うん、わかった。待ってる」
仲間に会えて少し安心したのか、珍しく素直だ。とりあえず俺たちはシャルル王へ報告するためブールジュへ戻ることにした。タンプル塔を出たところで、クレオパトラの部下が大急ぎで駆け寄ってきた。
「クレオパトラ様、お話があります」
「なんだ? 申してみよ」
「ここではちょっと……」
どうやら聞かれたくない話のようだ。少し離れた場所で俺たちに背を向けて何やら話込んでいる。クレオパトラは部下に指示を出したようで、来た時と同じスピードで部下は駆け去っていった。
「急用でパリを離れることになったわ。悪いけどしばらくの間、ジャンヌ捜索は任せていいかしら?」
「ああ、いいぞ。問題の解決に専念してくれ」
俺は爽やかに言い放った。はなからジャンヌは自分の力で見つけるつもりだ。クレオパトラと別れた俺たちは、パリ市を囲む城壁から出てオルレアンへ向かう。数日後、到着したオルレアンでは、ある噂でもちきりだった。その噂とはローマ帝国領内で反乱が起こったというものだ。
「クレオパトラの言っていた急用というのは反乱の鎮圧じゃないのか?」
テオが言った。
「そうだな、それでジャンヌの捜索どころじゃなくなったのか」
ここに来てローマ帝国へ反旗を翻すとはいったいどこのどいつだ? やはり聖遺物が偽物だったせいでローマ帝国の支配にほころびが出始めているのだろうか? 宿での食事が終わり部屋で寝る準備をしていると天使ノートがブルブルと震えた。久々にメッセージが届いたようだ。
『イングランドとパリ大学の動きに注意せよ』
いったいどういう意味だ? だが嫌な予感がする。特にパリ大学というのが気にかかる。しかし注意せよと言われてもどうすればいいのかわからん。その時、俺の頭にピンと閃くものがあった。このオルレアンにあるサント・クロワ大聖堂、そこにいるラ・トゥール司祭を訪ねてみたらどうだろう?
前の世界線にいた時も情報を得るためにカトリック教会を訪問していた。ラ・トゥール司祭に俺とあった記憶があるかどうかはわからない。だが訪問して話を聞いてみる価値はあるだろう。
翌日、俺はひとりでサント・クロワ大聖堂を訪れた。幸いなことにラ・トゥール司祭は教会にいて話す時間をくれるとのことだ。
「おお、お久しぶりです。ルグラン様」
「お久しぶりです。ラ・トゥール様」
前回、会ったのは6年前で、賊を追ってやって来たと伝えると異端審問官クレモン・ブーケを紹介されたのだった。そのクレモン・ブーケこそがクレオパトラの部下で賊そのものだったのだが。
「イングランドに包囲された時は大変だったでしょう?」
「いやいや大変でしたね。ですがこれも神のおぼしめしでしょう。神が
カトリック教会にとって聖職者ではないジャンヌが、神の声を聞くことができるという主張は微妙なのではないか? オルレアンを救った恩人とはいえ、ラ・トゥール司祭がジャンヌをどう思っているかは分からない。発言には気をつけた方がいいだろう。
「
ラ・トゥール司祭個人の意見というよりは、何か情報を知っているかどうかを聞く。これなら角は立たないだろう。
「捕えられたのがリニー伯※だったのがよくなかった。リニー伯はブルゴーニュ公※に忠誠を誓っておりますからな。ですがブルゴーニュ公へ乙女をイングランドに引き渡すよう強く勧めたのはパリ大学とピエレット・コーションでしょう」
※注1……リニー伯 ジャン・ド・リュクサンブールのこと。ジャンヌ・ダルクを捕らえてイングランドへ引き渡したことで有名。百年戦争ではイングランド=ブルゴーニュ派の指揮官として戦う。1430年1月10日、コンピエーニュ(パリ北東に位置する都市)でジャンヌを捕らえた。
※注2……ブルゴーニュ公 ブルゴーニュ公国の領主。ブルゴーニュ公国はフランス東部からドイツ西部を支配していた一大勢力。1363年、フランス・ヴァロア家の王シャルル5世が弟のフィリップ2世をブルゴーニュ公に封じた。1430年現在のブルゴーニュ公はフィリップ3世で「
なるほどその通りだ……ん? 今なんと言った?
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