第122話 ジョン・ローとジャック・クール

 国から金銀が流出してしまえば、スペインと同じように資金調達能力を失い没落の道を辿ることになる。ここで中央銀行の出番となる。21世紀の中央銀行は民間の銀行がお互いに資金を貸し借りする金利を上下させてお金の流れをコントロールしている。


 お金は通常、金利の低い方から高い方へと流れていく。高い利息をもらえる方が儲かるからだ。仮にA国とB国があってA国の金利が年利3%、B国の金利が年利8%だとするとお金はA国からB国へ流れていくだろう。A国がB国へお金が流れていくのを止めるには金利を上げてB国を上回る年利10%にする必要がある。


 もちろんこの説明は経済をものすごく単純化して捉えているので、現実の世界では必ずしもこの通りになるわけではない。だがここではそういうものだと理解して欲しい。


 ここで俺がモデルとしている人物に再登場願おう。このフランスでミシシッピバブルを引き起こした、ジョン・ローだ※。


 ※111話「ミシシッピバブル」参照


 ルイ14世の時代、王の浪費によってフランスの財政は最悪の状況になっていた。国の債務は30億リーヴルに達し破綻の一歩手前だ。ルイ14世の死後、ローは摂政であるオルレアン公フィリップに取り入り政治の表舞台に躍り出た。政府の借金を削減するためにローは紙幣の導入を計画し、いつでもきんに交換できる紙幣を発行したのだ。フランス政府は税金を紙幣で収めるように命じ紙幣が市場で流通するようになった。


 金や銀は政府が純度を落とすことで価値が暴落することがあったが、ローの紙幣は価値を維持し続けた。またフランスの借金である国債は78.5%も価値が下がっていたが、ローの紙幣は逆に15%も上昇していた。ここでローは北米のミシシッピ川とその西岸にあるルイジアナ州との貿易事業を行う会社を設立した。フランス政府は国の借金を紙幣で返し、ミシシッピ会社の株式をその紙幣で購入させた。


 ローは500リーヴルの株に200リーヴルの配当を約束した。民衆はミシシッピ会社の株を手に入れようと新株の応募に殺到し、ローの自宅には購入希望者が押し掛けたという。


 1719年、ミシシッピ会社の株式は500リーヴルから10,000リーブルまで上昇した。ミシシッピ会社の株式に人々は熱狂した。ミシシッピバブルの絶頂に達したのだ。1720年、ミシシッピ会社の株式は突如して暴落を開始する。イングランドやオランダへ金が流失を始めるがもはやそれを止める方法はない。1720年5月27日、フランス王立銀行は支払いを停止しローは財務総監を辞任、12月20日には、フランスからイングランドへ亡命した。ローは4年間、イングランドで暮らしたあと1729年にヴェネツィアで死んだ。


 このミシシッピバブルの崩壊はやがて起こるフランス革命の原因のひとつとなる。ジョン・ローの人生を思い返すたび、俺は友人のジャック・クールと比べてしまう。最初の資本家と呼ばれシャルル7世の財政官として莫大な財産を築いたジャックだが、殺人や横領の罪で投獄されてしまう。脱出には成功したが最後はギリシャのキオス島で死んだ。この世界線ではジャックはフランス中央銀行の総裁になっているが、この後のジャックはどんな人生を送るのだろうか?


 現実的な線で考えるとバブルを起こすには、ミシシッピバブルの時と同じようにフランス東インド会社の株が最適だと思える。そのためにはフランス東インド会社が行う事業が儲かると投資家に思わせなければならない。ドンレミ村開発事業で具体的な成果を出す。これが株価を上げるために必要なことだ。


 この時代の人々が求める宝とは何か?


 ――聖遺物


 俺の頭にこの言葉が浮かび上がる。


 キリストや聖人たちの遺体や遺品、彼らにまつわる品々。これらには特別な力が備わっていると考えられていた。そう言えばヘルメス文書に収められていた「聖杯」と「ロンギヌスの槍」はどうなったのだろうか?


 俺はもう一度、フランス東インド会社の事業計画書に目を通す。


『ドンレミ村で発見された『ヘルメス文書』、『聖杯』、『ロンギヌスの槍』は発見直後に盗難にあい行方不明である。噂ではローマ帝国へ運ばれたと言われている』


 おそらくそんなことだろうと思っていた。反作用が起こる前、これらの品はコジモの手に渡っていた。どさくさに紛れてクレオパトラが奪い取ったのだろう。


 新しい聖遺物を見つけなければならない。三大聖遺物と言われる『聖杯』、『ロンギヌスの槍』、『聖十字架』。いずれもイエス・キリストにまつわるものだ。このうち『聖杯』、『ロンギヌスの槍』はローマ帝国へ持ち去られた。だとすれば入手可能なのは『聖十字架』ということになる。


 聖十字架とはキリストがはりつけにされた十字架のことだ。イエス・キリストはどこで処刑されたのか? キリストが処刑されたとするゴルゴタの丘。ゴルゴタとは『ヨハネによる福音書』には「されこうべ(頭蓋骨)の場所」という意味であると記載されている。

 


 


 

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