第109話 手記の秘密
【フィレンツェのジャンヌ】
私は、レオに言った。
「それとひとつお願いがあるのですが……」
「なんだい?」
「テンプル騎士団の手記をしばらく貸してもらえますか? もう一度読み込んで財宝についてのヒントを探してみたいのです」
「なんだそんなことか。もちろん構わないよ」
そう言ったレオは部屋から紙の束を持ってくると私に手渡した。
「何かわかったら教えてくれ」
自分の部屋に戻った私は、レオから受け取った第1〜第3、そして第5の手記、それとテオからもらった第4の手記を机の上に並べた。次に上から順番に手記を重ねていく。最後にあらかじめ用意していた針と糸で手記を縫い合わせた。ついにテンプル騎士団の手記がひとつになったのだ。
なにも起きないな、そう思った次の瞬間、カサッと紙の束が動いた。まだなにか起こるのではと見守っていたがそれで終わりだった。
おそるおそる手記を手に取って眺めてみた。見た目はなにも変わっていない古い紙の束だ。次にページをめくって中身を確認する。やはり変わりはないと諦めかけた時、異変に気が付いた。それは手記を最後までめくった時だった。
見たことのないページがある!
第5の手記は自分も何度か読んだことがあるので、最後のページに何が書かれていたか記憶している。確か著者の何気ない日常が書かれていたはずだ。だが今は読んだことがない文章がそこにはあった。
『
一見謎めいた文章のように見えるが、解読は比較的簡単そうだ。まず『声』とはテンプル騎士団の手記を表していることがわかっている。つまり「お前はテンプル騎士団の手記を全て手に入れた」というわけだ。次に
つまりコジモ・メディチの棲家――メディチ邸の地下にテンプル騎士団の財宝はあるのだ。問題はコジモ自身がそのことを認識しているのかどうか、ということだ。もしテンプル騎士団の財宝と認識した上で地下に隠しているのだとしたら、我々の敵であるということもありうるからだ。
レオに相談できればいいのだが、テオと秘密交渉をした以上それはできない。コジモに直接問いただしてみるか? それも危険すぎる。コジモはシスターモンテギュことマリア・サルヴァドーリと繋がっている可能性がある。
チャンスがあるとすれば2週間後、レオがコジモにビジネスプランを説明しに行く時だろう。その時ならメディチ邸に入ることができる。隙をみて地下を探ることはできないだろうか? 私は密かに作戦を練ることにした。
※※※※※※
【フィレンツェのアイヒ】
やっぱり私ってやれば出来る子なんだわ。さっそくレオに褒めてもらおうと宿屋へ帰る。レオの部屋に向かうと中から話し声が聞こえた。
「ジャンヌがやってくれたよ。あいつには才能がある!」
「確かに12歳とは思えない知識と行動力ですね。もしかしたら本当に聖女なのかもしれませんね」
どうやらレオと傭兵レオンがジャンヌについて話をしているようだ。私は部屋に入るのをやめて聞き耳を立ててしまった。
「それにしても、あのポンコツ天使はどこに行ったんだ?」
「レオさんがメディチ邸へ連れて行ってあげなかったから一人で捜索に行っちゃったんですよ」
「また、探偵ごっこか、あいつには困ったもんだな」
「また、そんな言い方して。アイヒさんが可哀想ですよ」
『探偵ごっこ』ですって!! 何よオルレアンでは私の名推理で助かったんじゃない! それにポンコツ、ポンコツってバカにしちゃって。ジャンヌ、ジャンヌってそんなにジャンヌがいいなら、ジャンヌと夫婦になればいいじゃない。頭に血が登ってカアッーっとなった。私は部屋に背を向けて食堂へ向かう。
「エールをちょうだい! 強いヤツを」
「強いヤツって言われましても……」
困惑しながら店員が持ってきたエールをぐびぐびと一気に飲み干した。ちょっと褒めてもらいたかっただけなのになんでこうなるんだろう。惨めな気分だ。もういい、レオになんか相談しないんだから。自分でなんとかしてやる! みてなさいよ。
2日後、私は再び願いを叶える店『テンタチィオーネ』にやって来た。今回も何人か先客がいて少し待つことになった。女性客が店主にお礼を言っているもの前回と同じだ。やっぱりこのお店評判なんだわ。
「いらっしゃいませ。お越しになると思っていました」
店主は前回とは少し違う仮面を被っている。
「ご相談がありますの。前回ある場所がわかった探し物の件ですの」
「ああ、メディチ商会にあるのでしたね。もう行ってみられましたか?」
わー、どうしよう。メディチ商会には行ってないし、そもそも自分が探しているものが何なのかさえわからない。これじゃあ、お願いしようがない。
「実は私が探しているものじゃないのですわ。だからどうやって手に入れればいいかわからないんですの」
仮面の店主はふっと息を漏らした。
「なるほど、ある方のために探して差し上げたい、ということですね。さてどうしましょう」
仮面の奥から覗く店主の青い瞳が、怪しい光を放ったような気がした。
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