第108話 ダウジング

【フィレンツェのアイヒ】


「まあ、もしかしたらご自分でも気づかれてないのかもしれませんね。よくあることです」


「そそ、そんなことないと思いますわ」


 初めてレオに会ったときのことを思い出した。酔っ払ったあいつは、私とペリエル先輩を見て仮装パーティーと勘違いしたのだ。私の財布に手を突っ込んで金貨を奪い取ったこともあった。


 そう言えば、テンプル騎士団の手記だって最初に見つけたの私なのだ。もうちょっと誉めてもいいんじゃないかしら。ロッシュ城でいつも通りベッドが1つしかなかった時の事件面白かったー! 私が一緒に寝てもいいよって言ったらあいつ真っ赤になってオドオドしちゃって。


 それから……


 なんだかんだで楽しかった。


「どうされました? ぼおっとされて」


 いけないいけない、つい思い出に浸ってしまった。


「私の願いは探し物をみつけることですの。恋愛相談ではなくてよ」


「そうですか、わかりました」


 店主は棚から丸まった羊皮紙を取り出すと、カウンターの上に広げた。よく見るとそれはフィレンツェの地図だった。次に店主は箱から何か糸のようなものをつまみ上げた。糸の先には水晶がとりつけられている。


「これを使ってみましょう」


 あっ、これ知ってる。ダウジングというやつだ。なんとなくうさんくさい気がする。


「ひもの先を指でつまんでください。それから自分が探しているものを心に思い描くのです。さあどうぞ!」


 複雑な気持ちを抱きながら、ひもの先端を指でつまんだ。「テンプル騎士団の財宝」と心の中で念じて地図の上に持って来る。ひもの先端に取り付けられた水晶がゆっくりと揺れ始めた。


「いいですよー、さあもっと強く念じて下さい」


 財宝が欲しい、財宝が欲しい、私は言われた通り強く念じ続けた。次の瞬間、糸がピンと張り指が引っ張られた。


 ええっ! うそっ!


 すごく強い力だ。腕ごと下に引っ張られると先端の水晶が羊皮紙の地図に突き刺さった。これはもうダウジングというより強力な魔術だ。今の私は天使の力が大幅に制限されているけど、力を開放したときのようだ。


「すごい! あなたはすごい力をお持ちです。この水晶は糸を持った方の精神力で動くのです。普通はゆらゆら揺れる程度なのですが、まさか地図につきささるとは驚きました」


「えーそうですかー、それほどでもないですよー」


 仮面の店主がしきりに凄い、凄いと持ち上げてくるのでなんだかいい気分になってしまった。


「さあ、結果を見てみましょう」


 そう言って店主は突き刺さっている水晶を引き抜くと地図の場所を確認した。


「ここはラルガ通りですね。この建物は――メディチ邸です!」


「ええっ! メディチってもしかしてコジモさんですか?」


「そう、そのコジモさんの邸宅です」


 いやいやいや、そんなはずはないじゃない。だってつい最近、レオはメディチ邸へ行ってコジモさんと面会したのだ。そのメディチ邸にテンプル騎士団の財宝がある? そんなバカな。いや待てよ。もし財宝が私の想像どおり「聖杯」だとすれば、幅広く交易をおこなっているお金持ちのコジモさんが手に入れている可能性はあるかも。


「あーもしかして私の探し物が、メディチ商会で売ってるってことかしら?」


 私は動揺を誤魔化そうとして、わざとらしいセリフを吐いてしまった。


「メディチ商会はいろいろな商品を取り扱っていますから、お望みのものも取り扱っているかもしれませんね」


「ありがとうございました。今度、メディチ商会へ行ってみますわ。それで相談料はおいくらですの?」


「初回サービスで無料です。『本当の』お悩みでご相談があれば、またお越しください」


 やったーラッキーだわ。無料で貴重なヒントを手に入れることができた。……それから『本当の』悩みなんてないんだから。


 ※※※※※※


 【フィレンツェのレオ・ルグラン】


「テオ・ダンディーニと契約を結びました。ヘルメス文書の捜索は後でも良いそうです。まずはレオの仕事を優先して手伝ってくれることになりました。それからレオのビジネスプランを無断で利用したり、外部へ漏らさないという守秘義務契約も同時に結びました」


 サルヴァドーリ商会から帰ってきたジャンヌの報告を聞いて、正直驚いた。俺にとって非常に有利な条件を勝ち取ってきたからだ。いったいどんな交渉をしたのか? とても気になった。


「すごいじゃないか! ジャンヌ。お前には交渉の才能があるのかもな」


「チェーザレさんや、カエサル様ならどうするかと考えて行動した成果だと思います」


「カエサルはともかく、チェーザレは過激すぎないか?」


「心配は無用です、レオ。ちゃんと紳士的に話をしましたよ。それに彼はレオと仕事をするのが楽しみみたいで、ビジネスで利益を上げることにそれほどこだわっていないようでしたから」


 とても12歳の少女とは思えない貫禄だ。教育がこれほど人を変えるのだろうか?


「そうか、とにかくよくやったな。ありがとう」


「後はダンディーニさんと、具体的な話を詰めてください。それとひとつお願いがあるのですが……」


 ジャンヌは微笑みながら俺に言った。

 


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る