第64話 黄金のありか
「ドンレミ村の教会で私は、普段通りの生活を送っておりました。まわりをブルゴーニュ派に囲まれていたので不安な気持ちはありましたが、特に身の危険を感じることもなかったのです」
俺とマレは黙って耳を傾ける。
「ところが、ある日。あの女がやって来ました。修道女の格好をした、その女は灰色ローブを身に付けた修道士を引き連れていました。その女は私に言いました。『テンプル騎士団の手記を渡せ』と。『素直に渡せば手荒な真似はしない』と」
そうか、すでにドンレミ村にまで賊は手を回していたのだ。
「私はもちろん断りました。テンプル騎士団の手記など知らないと。私を脅すのであれば領主様に訴えると、そう言いました。女たちは一旦は引き上げたのですが、すぐにまたやって来ました。恐ろしいことに奴らは、異端審問官を連れて来ました」
「それがブーケだったのですね?」
「そうです。ブーケは私に言いました。異端者であるテンプル騎士団員の手記を隠し持っている者は、当然、異端者である。ドンレミ村に異端審問所を開設して、異端者として村人を捕えることもできると。もしそれが嫌なら手記を渡せと言うのです」
卑劣な手を使いやがって、俺はふつふつと怒りが込み上げるのを感じた。そしてひとつ分かったことがある。賊の女は、あらかじめ手記のありかを知っていたのだ。いったいどうやって?
「とうとう私は決心しました。オルレアンへ行き司教様へ助けを求めようと。司教様なら私が異端者でないことはきっとわかってくださる、そう思いました。ところが夜中に教会を抜け出す前に私ははたと思いました。もし賊どもに教会の地下室を発見されたら大変なことになると。かといって2冊の手記を私が1人で持ち運ぶのも危ない。考えあぐねた結果、第5の手記の最後の数ページを破り取り持って行くことにしたのです」
「まさか、その手記もブーケに奪われたのですか?」
焦った様子で尋ねる俺に司祭は
「第4の手記を手に入れて、安心したのでしょう。ブーケもこの十字架までは奪わなかったのです。ご覧になりますか?」
「見てもいいのですか?」
「正直に言いますと……私は、いつか神の使いが教会を訪れるという代々の言い伝えをあまり信じていなかったのです。今回、私の身に起こったことはそんな私への罰なのかもしれません。ですが神は私をお救いくださった。ルグラン殿とお引き合わせくださった。あなたこそが神の使いなのだと私は確信いたしました。故にこの手記はあなたに差し上げます。どうぞご覧ください」
そう言うと司祭は目をつむり神に祈りを捧げた。
「ありがとうございます。司祭様。私は神の使いなどという大それた者ではありません。ですが今やろうとしていることは神のご意志に沿ったものであると思っています。ですのでありがたく頂戴します」
確かに、今、俺がやろうとしているミッションは大天使ミカエル様から命じられたものだ。なので神のご意志に沿ったものという表現は嘘ではない。だが、こんな発言を堂々としていることに少し恥ずかしさを感じた。
取り出された神は円筒状にクルクルと巻かれている。紙を開き平に伸ばすのに少し手間取ったものの、なんとか読める状態となった。
『私は決心した。モレー総長が残されたふたつの宝のひとつをイタリアへ運ぶ。ロンバルディアであればきっと受け入れてくれるに違いない。だが、もうひとつの宝である黄金はどうすればいいのか? これだけの量の黄金をイタリアへ運ぶことなどとても無理だ。いやフランス国内を運ぶことさえ危険だ』
黄金だと! やはりテンプル騎士団の財宝は実在したのだ!
「あの女の狙いはテンプル騎士団の黄金だったのですね?」
ミネ司祭は、深くうなずいた。
「おそらくそうでしょう。この手記は極めて危険です。あの女だけではありません。この手記を手に入れたものは黄金を探そうとするはずです。そしてもうひとつの宝についても同様です。現にこの手記を受け継いだ司祭の中には宝を探し回ったものもいたようです。だが見つけることは出来なかった。かく言う私も、その誘惑に駆られたことは事実です。ですが私が誘惑に駆られるたびに夢に天使様が現れるのです。そして神の使いに手記をお渡しすることこそがお前に課された使命なのだとおっしゃるのです。そうすると私の
ミネ司祭の夢に現れた天使とはミカエル様なのだろうか?確かアイヒが言っていた。天使は人間界に直接介入できないと。夢やお告げによって行動を促すことしかできないのだと。だとするとミカエル様の狙いは何なのだろう?
とりあえず、手記を読み進める。
『なんということだろう。これは夢なのだろうか? 今日俺はこの目で天使様を見た。まばゆい光に包まれた
白い部屋、それが黄金のありか。ついに俺たちは真実に手が届くところまでやってきたのだ。
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