第13話 旅費の相談
【ブールジュ】
宿に帰った俺とアイヒはヴォークルールまでの旅費について相談することにする。いったいどれくらいかかるのか? 想像もつかない。
「だいたいお前いくら持ってるんだよ? それがわかんないと計画の立てようがないんだぞ」
「わかったわよ。いっしょに数えましょう」
そう言うとアイヒは、自分の巾着袋に手をつっこむと硬貨を取り出し始めた。アイヒが取り出した硬貨を俺がテーブルの上に並べていく。
並べ終わった結果は以下のようになった。
エキュ金貨……4枚 (2リーヴル)
グロ銀貨……10枚 (0.5リーヴル)
ドゥニエ銀貨……12枚 (0.05リーヴル)
アイヒが素直に全部出したので、俺もアイヒから取り上げたエキュ金貨1枚を取り出して追加で並べた。
エキュ金貨……5枚 (2.5リーヴル)
グロ銀貨……10枚 (0.5リーヴル)
ドゥニエ銀貨……12枚 (0.05リーヴル)
合計が上記のように変わった。ちなみにそれぞれの単位の関係性を表すと以下のようになる。
1リーヴル = 20スー = 240ドゥニエ
1エキュ金貨 =10スー=120ドゥニエ
1グロ銀貨 = 1スー = 12ドゥニエ
リーヴルとスーは計算上の単位として存在するだけで、それに対応した硬貨があるわけじゃない。硬貨は、エキュ金貨、グロ銀貨、ドゥニエ銀貨しかないので、とにかくややこしい。
だいたい1ドゥニエでパンが一個買えるので、俺の現代人としての脳は、1ドゥニエ=250円くらいと推定した。硬貨の価値基準は、その硬貨に含まれる金や銀の含有量、使われる時代や地域、物価情勢によってコロコロかわるので、あくまでも目安だ。
仮に1ドゥニエ=250円だと考えると、1リーヴルは6万円ということになる※
※注 あくまでも著者が考えた価値基準ですので、他の書籍、資料などで違う基準が示される場合があります。ご了承ください。
テーブルの上に並べた硬貨を全部足すと、3.05リーヴルとなった。18万円くらいの感じか。
「まだ、この宿の支払いはしてないんだよな?」
「してないわ」
しまった、追加ベッドとか、エールとか無駄遣いだったかも。まあ……仕方ないか。あとで宿の主人にいくらかかるのか聞いてみよう。
「次は、旅の全行程から移動距離を算出して、旅にかかる日数を予想するんだ」
「ほえ? ごめんもう一回言って」
「だから、どれくらいの距離を移動するのか分かればだいたい何日くらいかかるかわかるだろ」
「そ、そうね。わかっちゃうわね」
よし、こんな時は天使ノートを参照だ。確か最後の方に「特別付録:フランス都市地図」が挟まれていたはずだ。――あったぞ。取り出した硬貨を巾着袋にしまって、折りたたまれている地図をテーブルに拡げる。B4サイズくらいの、まあまあ大きい地図だ。
地図の右下に縮尺があり、定規かコンパスがあれば地図上の距離が測れるのだが。宿の主人に聞いてみたがそんなものはないと言う。仕方がないので糸の切れ端をもらい、ペンで印をつけ地図上でピンと張って無理やり測ってみた。目分量になってしまったが大体の距離はわかるはずだ。ブールジュからシノン、シノンからアンジェというふうに距離を測ってみる。その結果は次にようになった。
ブールジュ→→シノン 170km
シノン→→アンジェ 75km
アンジェ→→トゥール 90km
トゥール→→オルレアン 110km
オルレアン→→ヴォークルール 370km
合計 815km
宿の主人に聞いたところ、ここに泊まる商人は1日にだいたい30km程度移動するという。ということは815km÷30km=27.17となり、直線距離で移動できたとして28日はかかることになる。道は曲がっているし、山や川、さまざまな地形もある。そこで日数を1.5倍してみる。28日×1.5=42日となった。
さらに各都市には商売のため宿泊する必要があるだろう。訪れる5つの都市にそれぞれ2日づつ泊まるとすると5都市×2日=10日。移動の42日に宿泊の10日を足して52日となる。かなり楽観的な見積もりでも片道52日となった。往復なら104日、3ヶ月以上の長旅だ。
「おい、大変だ。3ヶ月の旅だぞ」
アイヒの反応は薄い。そうかー、という感じだ。
「驚かないのか?」
「あんたの時代のことは分からないけど、結構それぐらいなら旅するんだよ」
俺は手づかみで肉をムシャムシャ食ってたアイヒを思い出した。もしかしてこの時代の人間は結構たくましいのかもしれない。
「お、おう……そうか。じゃあ費用の計算もするか」
俺は自分のノートに費用の項目を書き込んでいく。
○宿代 1日 0.33リーヴル×5都市=1.65リーヴル×2人分=3.3リーヴル
○馬を借りる 0.17リーヴル×2人分=0.34リーヴル
○護衛を雇う 1日 0.034リーヴル×52日=1.768リーヴル
○食事 1回0.01リーブル×3回×52日=1.56リーヴル×2人分=3.12リーヴル
合計 8.528リーヴル
手持ちのお金が3.05リーヴルなので3.05ー8.528=マイナス5.478リーヴルと大赤字だ。さらにこのブールジュでの滞在費も引かないといけない。
「よし、ミカエル様に借りよう!」
ジャックからの見積りが来る前に前もって経費申請しておいた方がいいか? それとも見積りが出た後で不足した分を申請した方がいいのか? 普通に考えれば、不足した分を申請した方がいいのだろう。
「ちょっと、簡単に言わないでよ。ミカエル様を便利なお財布みたいに考えてるようだけど、そんなに甘くないんだからね」
「必用と認められたら支給してくれるんだろ?」
「認められたらね。認められなかったら罰則があるのよ」
「まじかよ、どんな罰則だよ」
「基本は持ってるお金が減るわ。悪質な請求と判定されたら、ミッションの難易度が厳しくなったり、運が悪くなったり、いろいろ」
俺は必要な分より多めに請求して、お金を貯めようと考えていたのだが悪質な請求と判断されるんだろうな。ミカエル様に請求する金額は必要な金額だけにしておいた方が無難だろう。まずはジャックが見積もりを出すのを待とう。それまでにお金を調達する方法を考えるのだ。
まず、俺の頭に浮かんだのは南フランスのカオール商人や北イタリアのロンバルディア商人といった金貸し業を営んでいる商人から借りる方法だ。キリスト教は利子を取ることを禁止していたが、13世紀ごろにはさまざまな抜け道を利用しながら一般に行われるようになったという。
だが、できれば高利貸しから借りるのは避けたい。他に貸してくれそうな人はいるだろうか? シャルル王太子はどうだろう? いやいや、こっちがお金を見つけてきますと言ってるのに、その相手から借りるとかおかしいだろう。ちょっとした詐欺ではないか?
「なあ、アイヒ。お前にお金貸してくれそうな人いるか?」
「そうねえー。ペリエルなら貸してくれるかも」
いくらなんでも、先輩の天使から借りるのはよくないよな。人間関係、いや天使関係にヒビが入りかねない。
「あー、旅に出る前からこれかよ。金を稼ぐって大変だよなー」
ふと、テーブルの上に置いてあるフランス都市地図が目に入る。俺はピンとひらめいた。
「よし、この地図を売ろう!」
アイヒがギョッとした顔でこちらを見た。
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