魔法生物管理局を追放されたので、夢だった魔法生物カフェを開いてまったり暮らします~なんか管理局長が土下座してきてるけど、そのポーズはグリフォン種に威嚇だと思われるのでやめた方がいいですよ~
第9話 防衛戦:『desert & feed』
第9話 防衛戦:『desert & feed』
目の前で崩れ落ちるフィート・ベガパークを、ハルトールは無感情な目で見つめていた。
最大の不確定要素に対しても、これで対処完了だ。
いささか残念ではある。ハルトールは,フィートのことが嫌いではなかった。
いやむしろ、かなり好感を持っていたと言ってもいい。どこまでも自由なフィートの生き方は、どこか敬愛する兄のことを連想させた。
だが、それでも。自分の目的の前に立ち塞がるなら、排除するのみだ。
フィート・ベガパークの正体は、おそらく新種の魔法生物。ハルトールはそのように推測していた。
ゴードンによるカフェ襲撃直後に見せた異様な状態。際限なく放出される魔力に、ゴードンを心神喪失状態にした未知の魔法。そして周囲にいた無関係の王都民を見境なく襲おうとした凶暴性。いずれをとっても人間という種族からはかけ離れたものだ。
人外の化け物がペンダントという
もっともハルトールにとって、フィートの種族などどうでもいいことではあった。問題なのは、ペンダントを外したときの規格外な魔力量と、そこから推察される圧倒的な戦闘能力。
その潜在的な脅威を取り除くためにハルトールが考えたのは、実に単純にして明快な対策。ペンダントを外される前に殺害する、というものだった。
エルフキャット軍団の魔力球連射という圧倒的火力をおとりに使い、サズラヮの斬撃によって初撃で命を絶つ。
サズラヮの射程圏内にフィートが入ってくれるまでかなり待つことにはなったが、それでも十分な成果は得られた。フィートの体は真っ二つに切り裂かれている。
最高峰の再生能力を持つ
カフェ内の面々は、突然の事態に状況が飲み込めない様子で立ち尽くしている。
ハルトールは足取りも軽やかにすたすたとカフェの中に足を踏み入れ、いつも通りのにこやかな笑みを浮かべてみせた。
「さて、レイアード兄様。決着は付きました。余計な痛みを感じたくなければ……」
『ふしゃああああああっ!!』
銀毛のエルフキャット……デザートムーンから大量の魔力球が現われ、ハルトールを襲った。
速度も威力も量も目を見張るものがあった。ハルトールの従えるエルフキャットですら比較にならないほどの攻撃。
だがそれらの攻撃は、ハルトールに到達する前にサズラヮによって斬り落とされた。
『みゃ!?』
「悪いなぁ、ネコちゃん。うちの弟はやらせねえよ」
「ありがとう、サズラヮ兄様。……さて、気を取り直して。レイアード兄様、僕としては……」
『けぇえええぇん!』
『―――――』
『くうぁああああっ!!』
炎。氷塊。風の斬撃。
いずれの攻撃もサズラヮに斬り落とされる。魔力球の攻撃と同じだ。
にも関わらず無意味な攻撃を仕掛けてくる魔法生物たちに、ハルトールは顔をしかめた。学習能力がないのだろうか。
「久しぶりの兄弟の語らいを邪魔しないでほしいなぁ。どんな攻撃でもサズラヮ兄様に斬り落とされるんだから意味がないって……」
「おい、ハルトール。避けろ」
「!」
なぜか背後から飛んできたデザート―ムーンの炎の魔力を、ハルトールは間一髪で避ける。
サズラヮの警告のおかげで回避が間に合った……と思ったのもつかの間。炎の魔力は空中で折り返し、ふたたびハルトールに襲いかかる。ハルトールは舌打ちして、右手に生み出した光の盾でそれを受け止めた。
「……ルル・マイヤー。いちおう君は人間なんだから、魔法生物たちよりは頭を使ってほしいんだけどな」
「目の前で元部下がぶっ殺されたら、さすがに冷静にはなれないっすね~……。まあウチのムカつきなんて、この子の十分の一くらいでしょうけど」
『みゃ!!』
デザートムーンが放つ魔力球に、ルル・マイヤーが追尾性能を付与している。
おかげで、サズラヮに斬られた魔力が飛散せずにハルトールを追いかけてくるのだ。即席にしてはなかなか息の合ったコンビネーションだった。
「……はぁ。サズラヮ兄様、やむを得ません。まずはあの女を」
「悪ぃハルトール、斬り漏らした!」
「は?」
光の盾で、サズラヮが止められなかった氷塊を受け止める。衝撃でハルトールの体が軋んだ。
「何してるんです、サズラヮ兄様」
「悪ぃっつったろ。なんか知らねえけど、剣が短えんだ」
「……ああ、縮小魔法。スケールスネークですか」
『SHHHHHHHH......!』
たしかにサズラヮの双曲剣は、見てわかる程度に縮んでいた。普段の調子で剣を振っていれば、絶え間なく降り注ぐ攻撃を斬り漏らすこともあるだろう。
率直に言って、この状況はハルトールの想定外だ。
主人を殺されて怒り狂った魔法生物たちの攻撃は予想を越えて苛烈だった。
おそらくこのままの状況が十分も続けば、いずれハルトールとサズラヮに限界が来るだろう。
ハルトールは深々と、本当に深々とため息をついた。
彼らの攻撃が脅威だったからではない。
「……頭が悪すぎる。やっぱり道具は人間が適切に使ってこそだな」
「おい、ハルトール! さっさとしろ!」
「わかってますよ」
市街地での乱発は避けたかったのだが、やむを得ないだろう。
ハルトールは右手に魔力を纏わせ、上に突き上げた。
『みゃ……?』
「やれやれだ、まったく。君たちが中途半端に強いせいで、こちらとしてもこのカードを切らざるを得なくなった」
粉々に粉砕されたガラスの壁の向こう側。大通りの闇の中に、ふたたび無数の光る球体が現われる。
「……あ~~。まっずい……」
「膨大な魔力球を防御できるフィート君はもういない。自分たちがとっくに詰んでいることも理解できないなんて、本当に愚かとしか言いようがないなぁ」
ふたたび深くため息をついて、ハルトールが腕を振り下ろす。
放たれるのは、無数の魔力球からの無数の攻撃。緻密な攻防や駆け引きなど無に帰す、防御不能の超火力。
苦労に苦労を重ねて手に入れた最強の軍勢が、愚かな魔法生物たちを蹂躙する。
『ふしゃああああっ!!!!!!』
その、はずだった。
「な……に?」
黒毛のエルフキャットが威嚇音を発した瞬間。ハルトールのエルフキャット軍団から発せられていた魔力球は、その大半が消え失せた。
それでも何発か残った魔力球は店内を攻撃したが、それらはルルが空中に生み出した水の壁によって防がれる。
「……なんだ。何が起きた」
「おい、ハルトール! どうなってんだ、お前の自慢の軍団は!」
「……わかりません。ただ状況からすると、あの黒いエルフキャットが攻撃をかき消したとしか……」
「なわけあるか! あいつの発した音にはなんの魔力も感じなかった! 正真正銘ただの威嚇音だ。そんなもんに魔力の塊がかき消されてたまるか!」
ハルトールは魔法生物の生態に詳しくない。
どころか、さしたる関心もない。道具としての利用可能性以外の部分については、どうでもいいとさえ思っている。
それゆえにハルトールは知らない。エルフキャットが一カ所に集まると、ゆるやかな社会構造を形成すること。その社会構造のリーダーが『アルファ』と呼ばれること。グレイライン廃工場地帯出身のエルフキャットたちのアルファが、かつて『desert & feed』のナイトライトであったこと。
エルフキャットはより強い魔力を示した相手に敬意を持ち、それを忘れない。
「……ちっ。理由はわかりませんが、ともかくサズラヮ兄様。まずはその黒猫を」
「よぉ、王太子様。メルフィから話を聞いてて、お前のことは嫌いじゃなかったんだがな」
突如目の前に現われた巨体に、ハルトールはぎょっとして後ずさった。
「……ガウス・グライア」
「ふふ……。ちょっと時間がかかったけど、全バフ搭載完了。今のガウスはちょっと強いわよ」
「っ、サズラヮ兄様、こちらに……」
「遅ぇんだよ」
ただでさえ速い拳がさらに速く。ただでさえ強い筋力がさらに強く。ただでさえ重い打撃がさらに重く。
王国最強の補助魔法使いの支援を受けた、王国最強の右ストレート。
「俺たちの友達に、何してくれてんだてめえ!!!!」
その狙いはあやまたず、ハルトールの顔面ど真ん中を打ち貫いた。
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