第7話 サズラヮさんはわるい人
「……で、どうでした?」
「ああ。ケーキはなかなか美味かったよ」
「そうではなく」
「わーかってるよ。お前の言う通りだったわ。フィート・ベガパークに反乱の意思はなさそうだ」
「でしょう? フィート君はそういうタイプじゃないですよ」
笑うハルトールに、サズラヮは頭を掻いてみせる。
「フィート君はただ魔法生物の良さを広く伝えたいだけの人です。そうじゃなきゃ、いくら持て余してたからってグリフォンやキリンを譲り渡したりしませんよ」
「まーお前の人物評は信頼してるが、万が一ってことがあったからな。『魔法生物カフェ』って看板のせいで目立たねえが、あの男は個人で推定大隊規模の軍事力を有してるんだ。警戒しとくに越したことはねえ」
「サズラヮ兄様的には、ただそうであってほしかったってだけでしょう」
「はは、まあ否定はしねえよ。あのカフェと戦うのは楽しそうだ。だが非常に残念ながら、ヤツはただの善良な一般市民だった。俺の攻撃を警戒する素振りも一切なかったし、それにあの建物な。大通りに面した一面がガラス張りで、敵の攻撃に対する防衛能力がゼロだった。軍事拠点とすることを想定してたらあんな作りにはしねえ」
ため息をつくサズラヮに、ハルトールが苦笑する。
「喜ぶべきことでしょうに。正直なところ、フィート君が敵に回れば僕の計画全体が脅かされかねないですよ」
「あん? そりゃあちょっと大げさじゃねえか? たしかに食い応えがありそうな魔法生物はいたが、それにしたって……」
「僕が本当に警戒しているのはフィート君自身ですよ」
「へえ? 魔力量がすげえって話は聞いてるが、対面した感じだとそこまでの脅威には思えなかったぞ」
「そりゃあ、今日はペンダントをしてたでしょうからね」
「あん?」
意味がわからずに思わず弟の方を見たサズラヮだったが、それ以上の説明はなかった。どうやら話す気はないらしい。
「ともかく。僕が王位を継承して完全に軍部の全権を握るまで、フィート君を敵に回したくはないんです。まさかとは思いますが、彼に警戒されるようなことはしてないでしょうね」
「当たり前だろ。ちゃんと好人物っぽく振る舞ったよ」
「ならいいんですが……」
サズラヮは自信満々で胸を張る。
いまひとつ信用のおけない兄に、ハルトールはため息をついたのだった。
●
「あ……危なかったぁ……! 不敬罪で処罰されてもおかしくなかったよ、あたし!」
サズラヮさんが立ち去ったあと、ロナは大きく息をついて胸をなで下ろしていた。
「サズラヮ王子が優しくてよかったよ……。あたし、今後は根拠なく人の悪い噂を語らないようにします!」
「うん。それはそうした方がいい。……でもサズラヮ王子に関しては、ロナの言ってたことが正しかったのかもね」
「え?」
『――――――――』
サズラヮさんが去ったのを見届けてから、ニャアはゆっくりと森林地帯に戻っていった。
ニャアが客席近くに顔を出すのは珍しい。きっと、よほどサズラヮさんのことが気になったのだろう。
「……人の本性を見抜く、なんて能力はエルフキャットにはない。でも、キリンにはあるんだ」
「え?」
理由は今のところわかっていない。だがかつての魔法生物学会の研究によると、キリンは現地民の伝承通り、凶悪犯罪者の人相をかなりの確率で見分けることができた。
「キリンのニャアが警戒してたってことは、少なくともただただ心優しい王子様ってわけじゃないはずだ。サズラヮ王子にはちょっと気を付けた方がいいと思う」
「こ……怖いこと言わないでよ……」
いやまあ。キリンが警戒するトリガーがわからない以上、断定的なことは言えないんだけどね。現地の伝承では『悪人を見抜く』って言われてるみたいだけど、そもそも『悪人』の基準は? って話だし。
とはいえ警戒した方がいいことは確かだ。
今日カフェに来たのも、本当にケーキと魔法生物たちを楽しみに来たのだろうか。もしかしたらなにかもっと重要な目的があったのかも……
「…………」
「…………」
「…………」
「……あ。ところでロナ」
「ん? どしたのフィート」
「哨戒任務はいいの? もうけっこう時間経っちゃったけど」
「あっ」
たしかロナは休憩時間ということでカフェに入ったはず。
僕の知る限り、天馬部隊の休憩時間は1時間。もうすでにカフェにいる時間だけで1時間以上経過しているような気がするけど……。
「あ……あああああっ! まずい、隊長に怒られる! あたしもう行くね。またね、フィート、サニーちゃん!」
「あ、うん」
『くぁああぁああ~~~っ!』
ばたばたと走り去るロナを、僕とサニーは見送ったのだった。
……ロナのやつ、なんかいつの間にかサニーとちょっと仲良くなってないか?
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